パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第118話 『領域境界 上』

「決まってるだろ、お前のためにゲイザーを捕まえるっていう仕事が残ってる」

 

『そういえばそうでしたね』

 

 セパが思い出したように呟いた。

 

『この旅で一番重要な仕事が残っていました』

 

『あのちっこい魔物だっけー?』

 

「そうだ」

 

 俺はレインの言葉に頷いて、先を続ける。

 

「先日セパが人間サイズになるためには自動人形の素体を使うと説明したが、そのためにはゲイザーの体内に存在する魔術回路を自動人形に埋め込む必要がある。だが、このダンジョンにはおそらく生息していない」

 

 ゲイザーの生息域は、主に地上……魔族領の森林地帯などだ。

 

 もともと臆病な性格で戦闘力もほとんど有していないゲイザーは、鬱蒼と生い茂った森などで暮らしている。

 

 もちろん、それ以外の場所だと他の魔物のエサにしかならないからだ。

 

 魔族領に生息している最弱の魔物、それがゲイザーである。

 

 とはいえ、『視覚共有』は非常に強力な能力だ。

 

 だからこそ、いままで種として滅びずに存在してこれたのだろう。

 

 それはさておき。

 

「さて、ここからが今日の本番ってわけだ」

 

 ダンジョンの外に出れば、視界一杯に深い森が広がっている。

 

 この森の少し奥に、魔族領との境界が設定されている。

 

 おそらくだがゲイザーの生息域の一部がトレスデン国内に入り込んでいるはずだ。

 

 リタの話によれば、かつてこの周辺で冒険者がゲイザーを獲ってきたとのことだった。

 

 ならば、ここにゲイザーが生息しているのはほぼ間違いないだろう。

 

 問題は、あの小さく臆病な魔物をどうやって探し出すか、なのだが……もちろん方法は考えてある。

 

「ご主人、それは?」

 

 魔導鞄(マジック・バッグ)から取り出した紙片を見て、セパが興味津々な様子で聞いてくる。

 

「これは罠だ。おっと、触るなよ? お前に『麻痺』は効かんが、使い捨てだからな」

 

 紙片の大きさは、手のひら程度。

 

 起動条件は、魔物の体の一部が魔法陣に触れること。

 

 付与された術式は『麻痺』。

 

 ゲイザー用に調整してあり、連中を半日ほど行動不能にできる。

 

『なるほど、これを魔物の生息域に仕掛ける、ということですね?』

 

「そうだ。だが適当に置いても、ゲイザーが勝手に引っかかってくれるわけじゃない。連中の縄張りの中の適切な位置に、予想されるであろう行動を読んで、きちんと仕掛ける必要がある」

 

『なるほど。いずれにせよ、罠を仕掛けるためにもまずはゲイザーの痕跡を見つけなければならない、ということですね』

 

 セパは自分のことだからか、妙に理解が早い。

 

 ダンジョン罠についても、このくらい熱心に話を聞いてくれればありがたいのだが。

 

「そういうことだ。じゃあ、行くぞ。二人とも、念のため実体化を解いておいてくれ。ゲイザーは他の魔物のように人に危害を加える力はほぼないが、代わりに警戒心が強いからな」

 

『承知しました、ご主人』

 

『あいあーい』

 

 二人の姿が消え、念話で返事が返ってきた。

 

 それを確認してから、俺は森の中へと分け入っていった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 トレスデンの国土は荒涼とした大地が広がる不毛の地だが、このハリ尖塔遺跡から先は鬱蒼とした森林地帯だ。

 

 これだけ肥沃な土地なのに周囲が発展していないのは、もちろん魔族領との境界だからというのもあるのだが……それだけではない。

 

『キイイイィィ!』

 

『ギャアアァァ……』

 

『カロロロロロ……』

 

 道なき道を進んでいると、そこかしこから奇怪な鳴き声が響いてくる。

 

『ご主人、なんだか気味の悪い森ですね。正確に言えば、少し前から変な空気が漂っているように感じます』

 

 しばらく沈黙を保っていたセパが、念話でそんな感想を伝えてきた。

 

 彼女の気持ちも分からなくはない。

 

 確かに少し前から森の雰囲気が変わったことに、俺も気づいている。

 

『そうだな。この辺りは魔族領がかなり近いからな。人族が境界を踏み越えないように、魔力結界が張ってある。そのせいだ』

 

『それだけで雰囲気が変わるものなのですか? なんだか、ダンジョンにいるより張り詰めた空気を感じるのですが』

 

『セパ、お前の感覚は正しい。この辺りは魔物が大量にいるはずだ。ある意味、この周辺はダンジョン内部よりも危険地帯だ』

 

『そ、それって結構楽し……ヤバいんじゃないの?』

 

 レイン、言い直さなくてもお前の感覚が間違っているのは最初から分かってからな?

 

『ああ、ヤバい。だがこれこそが、ゲイザーの生息範囲が人族の領域近くまで及んでいる証拠でもある』

 

『ご主人、それはつまり……?』

 

『簡単なことだ』

 

 理屈としては、非常にシンプルだ。

 

 人族は境界を越えて魔族に侵入されたくないし、魔族も自分たちの領域に人族が侵入することを防ぎたい。

 

 それを実現するには、どうするのが効率がいいか。

 

 それは、境界付近を人族や魔族が容易に近づけない危険地帯にすることだ。

 

 幸いこの周辺は森林地帯が広がっており、魔物が豊富に生息している。

 

 そいつらが境界付近にひしめき合っていれば、一般人は近づかないし、仮に軍を通そうとすれば魔物を排除しつつ進まなければならない。

 

 そうなれば進軍速度を落とさざるをえないし、派手に行動を起こせば互いに動きを察知しやすくなる。

 

 というわけで、境界付近の魔術結界には魔物誘因の術式が用いられているのだ。

 

 そんなことをセパに説明してやる。

 

『なるほど……よく分かりました』

 

 セパが感心したように相槌を打つ。

 

 ちなみにこの手の術式に、基本的に弱い魔物ほど抗うことができないから、ゲイザーのようなクソ雑魚魔物は確実に誘引されてしまう。

 

 だから、リタの話も相まってゲイザーを捕獲できる可能性はかなり高いのだが……

 

 一つ懸念があるとすれば、すでにゲイザーがより強い魔物によって食い尽くされている可能性があることだ。

 

 まあ、こればかりは賭けになる。

 

「さて、講義は終わりだ。ゲイザーは臆病な性格の魔物だと言っただろう? そろそろ罠を仕掛けるぞ」

 

『承知しました……私にできることがあれば命じてください』

 

 いつになく積極的なセパが、協力を申し出てくる。

 

「そうだな……よし、この辺りならゲイザーがいそうだ。あの木の上に罠を仕掛けてきてくれ。この干し肉を術式の上置くんだ」

 

『なぜ分かるんですか? ゲイザーの気配すらありませんが』

 

 唐突に出した俺の指示に、セパが首をかしげる。

 

「この辺りは獣や魔物のフンが落ちていないし、木々に爪痕などでマーキングが施されているといった形跡がない。縄張りの空白地帯なんだろう。そういうわずかな場所が、ゲイザーの住処だ」

 

 言って、俺はあたりを見回した。

 

 このあたりの森は、静かなものだ。

 

『なるほど。何でもない景色でも、知識があれば世界も変わって見えるわけですね。さすがは我がご主人です』

 

「よせ。これは冒険者の基本スキルだ」

 

 というかセパは、自分のことになると態度がいつもの十倍くらい従順になるな? いつもこれくらいでいいんだぞ?

 

 それはさておき。

 

「わかったら行動だ。さっきも言ったが、くれぐれも術式そのものに触れるなよ? お前に状態異常は効かんが、罠の発動は一度きりだからな」

 

『承知しました、ご主人!』

 

 紙片と留めるためのピン、そして誘因用の干し肉を取り出す。

 

 セパは実体化するとそれらを受け取り、ふわふわと木の上へと昇って行った。

 

『マスター、あーしは?』

 

「レインは待機だ。ゲイザーを警戒させたくないし、強い魔物が出てくるかもしれないからな」

 

『りょーかーい』

 

 彼女は少し退屈そうだったが、大人しく返事を返してきた。

 

『ご主人、設置完了しました』

 

 しばらくして、罠の設置が完了したのかセパが樹上から降りてくる。

 

「よし。何か所かに仕掛けていくぞ」

 

『承知しました!』

 

 俺たちは森のあちこちに罠を仕掛けると、魔物が掛かるのを待つため一度ハリ尖塔遺跡まで戻った。

 

 あとは、しばらく待ってから罠を確認することになる。

 

 ……さて、ゲイザーは罠に掛かってくれるだろうか。

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