パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
遺跡周辺まで戻り、魔物除けの結界を張り食事を取ったり昼寝をしたり聖剣たちと雑談などをしつつ、半日ほど時間を潰す。
「さて……そろそろか」
すでに日は傾きかけている。
もし掛かっていなければ明日に再挑戦となるが……はたして。
◇
設置したのは、合計六か所だ。
場所を変え、それぞれ木の根元の
いずれもゲイザーが他の魔物から身を隠しやすい場所だ。
ただ、一つ懸念があった。
連中の特性とも言える『視覚共有』だ。
一体が罠にかかれば、他の個体はすぐに危険を察知し逃げてしまう。
だから、その一体が掛かる前に罠の存在がバレるまでだ。
そしてバレずに罠にかかっても、何かの拍子に逃げられてしまえばチャンスはもう巡ってこない。
そうなれば、別の日に別の場所で罠を仕掛けるしかない。
トレスデンには余裕をもって滞在できるようにスケジュールを組んでいるが、それでも時間は有限だ。
再挑戦の回数も限られている。
俺は祈るような気持ちで罠を巡回していった。
「ここは……ダメか」
最初に確認したのは、木の根元に空いた
残念ながら魔法陣が発動した形跡はない。
だが、仕掛けた干し肉が無くなっていた。
「……クソ!」
思わず悪態が口をついて出た。
ゲイザーは器用にエサだけを取っていったらしい。
ゲイザーは魔物の中ではかなり賢い部類だ。
罠の設置具合によっては、簡単に見抜かれてしまうかもしれなかった。
となれば、他の仕掛け罠も……
いや……まだだ。
頭を振って嫌な想像を追い出す。
次の場所に移動。
「……おっ!? ちっ、ここもハズレか」
岩の隙間に仕掛けた罠は、発動済みだった。
なにか、黒いものが魔法陣の上でピクピク痙攣している。
もしかしてゲイザーか? と、一瞬期待したが……罠にかかっていたのはまるまると太った野ネズミだった。
コイツは目当てのシロモノじゃない。
仕方がないので罠から解放してやる。
野ネズミは干し肉を咥えたまましばらくピクピクと震えていたが、やがて麻痺の効果が切れたのか、一目散に森の奥へと逃げていった。
『あれは獲らなくてよかったのですか? ネズミも貴重な食糧です』
「俺らが遭難でもしていれば、な」
ネズミ自体は確かに焼けば食えなくもない。
だが、ヤツらは基本雑食だ。
それに罠から解放したらすぐに麻痺から回復したように、毒耐性が非常に高い。
つまり、毒草やら毒持ちの蟲などを食っていても平気な顔をしているのだ。
そんな動物を取って食ったらどうなるか。
言うまでもないだろう。
もちろんいざという時のために解毒剤の類は常備しているが、好んで毒に
そもそも街で買いこんだ食料は十分な量を持ってきている。
「それよりも、次だ」
別の場所に仕掛けた罠へ向かう。
だが、一向にゲイザーの姿は見ることはできなかった。
ちなみに別の木の洞に仕掛けたヤツには、中で大きな肉食毛虫が引っかかっていたらしく、見に行ったセパが『ぎにゃー!』とか泣き叫びながら俺に飛びついてきた。
アイツはマジでキモいからな。
まあ同情だけはする。
次の罠チェックもキッチリやってもらうが。
そして……
「あとは、ここだけか」
ついに最後の罠を残すばかりとなった。
俺の手の届かない木の上に仕掛けたやつだ。
罠に近づくと、今までとは違う雰囲気があった。
見れば、樹上に仕掛けたやつの上に何かが乗っかっている。
子猫くらいのサイズをした、黒々とした物体だ。
『…………私が見てきましょう。また肉食毛虫だったらご主人の胸にダイブしますので、ちゃんと心の傷を癒してください」
「はいはい。ゲイザーだったら、ちゃんと回収を頼むぞ」
『承知しました』
セパがふよふよと浮かび上がると、樹上に仕掛けた罠へと向かっていく。
と、彼女から反応があった。
『やりました! ゲイザーです!』
「おおっ……とりあえず持って降りてくれ! 慎重にだぞ!」
彼女が黒い物体を持ち上げながら、ゆっくりと降りてきた。
黒くヌメヌメとした体表に、ぎょろりと見開いた単眼。
麻痺魔術によりだらしなく垂れさがった何本もの触手。
間違いなく、ゲイザーだった。
『ふふーん。たまには役に立つところをお見せできましたね? ご主人』
おお……セパがこれ以上ないドヤ顔をしている。
さっき毛虫を発見したときとは大違いだ。
とはいえ、お手柄ではある。
まあ罠のチェックを頼んだだけだが。
「ああ、お前のおかげだ。でかしたぞ、セパ」
『ふふふーん! どうですかご主人! 私は役に立つでしょう! もっと褒めて頂いてもいいんですよ? そうですね……ではこの機会に、頭を撫でて頂きましょうか! ほら、ほら、ほら!』
うわ……コイツ完全に調子に乗っているぞ。
無理矢理にでも頭を撫でさそうとしているのか、俺の肩に載ると頬にグリグリと銀髪を押し付けてくる。
……なんというか、ここぞとばかり可愛げを出してくるあたり実にウザい。
「わかった、分かったから! 何をするにせよ、とりあえず帰還してからだ! 生きたまま街に持ち込めないし、麻痺が解ける前にゲイザーを締めないとマズい」
『む……仕方ありません。今は仕事が優先です』
セパも本気ではなかったのか、すぐに俺の頬から離れる。
それを確認してから、俺はゲイザーの触手をかき分け、口吻の奥に存在する神経節にナイフを突き立て絶命させた。
本来ならしっかり血抜き処理をしたほうが鮮度持ちはいいのだが……近くに沢もないし、べつにコイツを食うわけじゃないからな。いらんだろう。
俺は念のためゲイザーからしたたり落ちる青い血液をしっかり絞ってから、腐敗防止の術式を付与した紙片でくるみ、
「これでよし……じゃあ、とっとと帰ろうか」
『了解です、ご主人』
『りょうかーい! 今晩のご飯は何にするー?』
「そうだな、久しぶりにシーフード系を攻めてみるか」
なぜかゲイザーを見ていると、魚介類が食べたくなってくる。
『ナイスアイデアです、ご主人!』
『やったー! あーし、黄金シャケのカルパッチョがいいかも!』
『私は貝系がいいですね……山羊角貝のつぼ焼きにしましょう』
どうやら二人も俺と同感だったようだ。
「おう、そうなると屋台より落ち着ける飯屋だな。確か……泊まってる宿の1階がシーフード系の食堂兼酒場だったはずだ」
そんなわけで、首尾よくゲイザーを手に入れた俺たちはケルツに戻ったのだった。