パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第126話 『四大商会』

「先輩はあたしの親がこの国の商人だってこと、知ってますよね」

 

 狭い路地裏の暗がりで、リタがぽつりぽつりと話し始める。

 

「ああ」

 

 もちろんそれは知ってる。

 

 リタは元々トレスデン出身で、商人の娘だと本人が言っていたからな。

 

 元工房時代には、なんで異国の商家の娘が聖剣錬成師なんぞになろうと単身王国までやってきたのかと、しばらく職人仲間で噂になっていたくらいだ。

 

「で、あたしの親父はネメシオ商会ってところの会長なんス」

 

「……マジか。つーか、姓が違わないか?」

 

 ネメシオ商会は、俺でも名を知っているほどの有力商人だ。

 

 元々トレスデンの行商人として細々と身を立てていたファビオという男が、あるとき有力な魔族を助けたところ気に入られ、それをきっかけに魔族領の奥地でしか手に入らない希少な魔鉱石や素材の仕入れルートを手に入れ一代でトレスデンを治める商会連合――通称『四大商会』の一角まで成り上がった……という立身出世譚は、王国では良くも悪くも非常に有名である。

 

 ただ、その娘がリタだとは思わなかったが。

 

 つーか年齢が合わなくないか?

 

 たしかファビオ氏は現役だが七十代も半ばだったはずだ。

 

 それに俺の知っている彼女の姓は、『ファニック』だ。

 

「あー、それはッスね」

 

 俺の呈した疑問に、リタが苦笑する。

 

「実はあたし、親父の三番目の奥さんの子が、あたしなんス。ファニックは、お母さんの旧姓ッス」

 

 ……おっと?

 

「悪い、もしかして立ち入ったこと聞いちまったか?」

 

「いや、別に気にしてないッスよ。一番目の母さんと二番目の母さんが生んだ兄上や姉上も歳が離れてるせいか仲は悪くなかったし、それにああ見えて親父、厳しいけどもちゃんと母さんとあたしのことも大事にしてくれてましたから」

 

 相当に重い話になるかと思ったのだが、当の本人は、あっけらかんとした様子だ。

 

「ならいいんだが……」

 

 それよりも、だ。

 

「で……肝心の、さっきの執事と黒服どものことなんだが」

 

「ああ、それは……多分、親父が差し向けた連中ッス。まさか、先輩の方が強いとは思わなかったッスけど……あの人たち、全員元傭兵とか元冒険者とかで結構な手練れッスよ?」

 

 リタが遠い目で苦笑しながらも、先を続ける。

 

「で、リーダーは爺や……セバスさんて言います。あの執事の人ッス。昔はよくあたしと遊んでくれたり、いい人だったんスけどね……あ、あたしの拳闘はあの人が師匠なんスよ。昔は素手でミノタウロスまではイケたから、要注意ッス」

 

 やはりあの老執事が一番強かったらしい。

 

「……なるほど、肝に銘じておく」

 

 腕っぷしには多少自信がある俺でも、さすがにガチの拳闘家と素手で渡り合おうとは思わないからな。

 

 というか剣ならともかくミノタウロスを素手で倒すとか、すでに人間辞めてるレベルなんだが?

 

 それはまあ、置いておいて……

 

 それよりも気になることがある。

 

 なぜ、リタは彼らを嫌がるようなそぶりを見せたのだろうか?

 

 彼女の話が本当ならば、セバス氏をはじめとして黒服たちは味方だ。

 

 それに、彼の言動も気になる。

 

 たしか、俺が誰かしらの手のものじゃないかと疑っていた様子だった。

 

「リタ、まだ俺に隠していることがあるな?」

 

「……それは、まあ、ハイ」

 

 彼女は居心地悪そうに身じろぎしたものの、あっさりと頷いた。

 

「でも……いいんスか? これ以上話しちゃったら、先輩もガッツリ巻き込まれちゃいますよ?」

 

「いまさらだろ。やつら、俺を捕まえたらボコボコにしたあと拷問するつもりらしいぞ」

 

「あー……なんかマジですいません……そこはあたしから絶対にやめるよう言っておくんで」

 

「まあ、別に俺も大人しく捕まるつもりはないがな」

 

 宿に戻ればセパもレインもいるし、ダンジョン攻略のためにそれなりの備えもしている。

 

「それで? もう俺も当事者なんだ。きちんと事情を理解しておきたい」

 

「……了解ッス。そもそもの発端は――」

 

 リタが観念した様子で話し始める。

 

 要約すると、こうだ。

 

 曰く、ネメシオ商会の会長でありリタの父親であるファビオ氏は、老齢のせいか最近不治の病に冒されていることが分かり、床に臥せっている。

 

 そのせいで、ファビオ氏の子らで跡目争いが勃発し、セバスたちはリタをその二代目とすべく動いているそうだ。

 

 だがリタは聖剣錬成師を志し、王国から戻ってきたあとも魔道具職人に弟子入りするなど、職人として人生を歩みたいと思っている。

 

 その旨をセバスたちに何度も話したが聞き入れられず、こうして実力行使をしてでも彼女を家に連れ戻しにきた、ということだ。

 

「まあ、あたしの我儘だってのは分かってるんスけどね……」

 

 そう言って「たはは」と苦笑するリタ。

 

「…………」

 

 誰かの言いなりじゃない、自分だけの人生を歩みたいと願うのは……とても自然なことだ。

 

 少なくとも俺はそうしようと思い、実行した側だ。

 

 だから彼女の気持ちを否定することは、俺にはできなかった。

 

「つーか、跡目争いはいいとして……二代目って、リタでもなれるのか? 商会のトップって、どこも男連中だろ」

 

「そうでもないッスよ。たしかアビク商会の会長は女性ッス。まあ、あそこは女系の象獣人一族の世襲制ッスけど」

 

「そうなのか」

 

 アビク商会はたしか、傭兵派遣で成り上がった商会だ。

 

 昔魔族との戦いで、戦場で共に行動することがあったから名前を憶えている。

 

 あそこの会長が女性なのは知らなかったが。

 

 まあ言われてみれば王国も、女性でも暴力の権化みたいなアリスやフレイみたいなのもいる。例外というほどでもないのかもしれない。

 

「で、ここからが本題なんスけど……実は二代目候補って、あたし以外だと三番目の兄様しかいないんス」

 

「……差し支えなければ聞いておきたいんだが、他の兄弟姉妹は?」

 

「みんな死んじゃいました。ウチの家系はすごく短命で、早ければ十代で、遅くとも二十代のうちに最初の寿命が来ちゃうんスよ。それで生き残っても、次は四十代で。親父を除けば、ネメシオ家で生きているのはあたしと三番目の兄上……ダリオ兄様だけで、あたしのお母さんも含めみんなもうお墓の中ッス」

 

「………」

 

 壮絶な家系だな、とはさすがに口に出して言えなかった。

 

 たしかに、短命な家系というのは存在する。

 

 王国でも、若くして死ぬ家系の貴族ってのはいた気がするしな。

 

 もっともそういうところは質の悪い風土病がはびこっていたり、一族同士で結婚を繰り返して血が濃くなりすぎたりだとか、原因はあるらしいが……ネメシオ家もそうなのだろうか?

 

 いずれにせよ、リタとダリオ氏でネメシオ商会を盛り立てていくという選択肢はなかったのだろうか。

 

 まあ、さすがにこれこそ外部の人間があれこれ言う筋合いはないだろう。

 

「で、そのダリオ兄さんが二代目になるのは、セバスさんとしてはあまり良く思っていないってことだな」

 

「そうッス。ていうかダリオ兄さんはかなりアレな人で……最近はなぜか大人しいんスけど、昔はとにかく女好きで怖いお兄さんの彼女さんに手を出して揉めたり家のメイドさんに手を出して子供ができちゃったりとかで……おまけに経営の勉強もせずにフラフラ街で遊んでたりで、とても親父の跡を継げるような人間性じゃないんスよ」

 

 お勉強の方はあたしも大してやってないスけど、とリタが付け加え苦笑する。

 

「なるほど」

 

 だからのリタ、というわけか。

 

 たしかに彼女は聡明で性格も真っすぐだ。聖剣錬成師になれるほどに魔術に精通している。算術の才もある。

 

 セバス氏としても、おそらくファビオ氏としても、話を聞く限り兄貴よりリタがネメシオ商会のトップになった方がいいと考えているのは頷ける。

 

 俺が彼らの立場なら、俺だって彼女に跡を継いでもらいたいと思ったことだろう。

 

 だが。

 

「で、リタ。結局お前はどうしたいんだ?」

 

 まずはそこだ。

 

 彼女の意思を抜きにして、他人があれこれ話を進めても仕方ない。

 

「……そうッスね。あたしは――」

 

 リタは一瞬口をつぐんでから、しっかり俺を見た。

 

「あたしは、魔道具職人として身を立てていきたいッス」

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