パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第127話 『魔族狩り』

「くそ、これで今月三件目だぞ」

 

「うっ……死後三日ってところか」

 

 ケルツ旧市街の奥にある、とある廃屋の中。

 

 衛兵二人が顔をしかめながら、それを見下ろしていた。

 

 最初の通報は、近隣の住民からだった。

 

 この廃屋で異臭がするというのだ。

 

 その時点で、ある程度予想はしていた。

 

 この辺りは治安が悪い。

 

 窃盗や強盗は日常茶飯事ではあるし、殺人も珍しくはない。

 

 はたして二人の予想は的中し、廃屋に足を踏み入れると胸に大きな穴を開けた死体がひとつ、転がっていたというわけだ。

 

「なあ、お前はどう思う?」

 

 衛兵の一人が、もう一方に視線をやる。

 

「……おそらくだが、一連の連続殺人事件と同一犯だろうな。もしかしたら、失踪事件の方とも関連があるかもしれない」

 

「犯人像は?」

 

「下手人は魔術師。しかもかなり強力な魔術の使い手だな。抵抗の跡がほとんど見られない。おそらく出会いがしらに一瞬でズドン。被害者は何が起きたのか分からないまま死んだはずだ」

 

「魔術師となると、性別までは分からんか……」

 

 死体は、胸の大穴以外は目立った損傷はない。

 

 着ている衣服は血で汚れているものの破れてはおらず、露出している顔や手足も綺麗なものだった。

 

「動機の方はどうだろうな?」

 

「下手人は例の『魔族狩り』だろう。やり口が手慣れ過ぎている。そもそもコイツの属性から言って、一般人が手を出すのはほぼ不可能だ。だから、動機というのなら『魔族狩り』に依頼をしたヤツにあることになるが……さすがにそこまでは分からんな。ただ、一連の流れをみれば、これをしでかそうと考えた奴には、連中に(・・・)強い憎悪があるはずだ。それは間違いない」

 

「……つまりコイツが魔族だから殺された、ということか」

 

「ああ」

 

 衛兵たちが頷き合う。

 

 被害者の種族は容易に判別できた。

 

 青白い肌。

 

 虚ろに見開かれた、黒眼赤目。

 

 半開きになった口から見える鋭い犬歯。

 

 被害者は吸血鬼(ヴァンパイア)族、男性。

 

「それにしても……だ」

 

 衛兵の一人が首をかしげる。

 

「ヴァンパイアはこんな死に方をする種族なのか? 連中は不死に近いだろう」

 

「そうでもない。ヴァンパイア族は、かの悪名高い不死魔族(ノスフェラトゥ)じゃない。四肢の欠損くらいならば平気な顔をしているが、心臓を破壊されれば死ぬ。こいつを見ろ。まさに心臓付近がごっそりえぐり取られている」

 

 ヴァンパイアの胸の大穴は、ちょうど心臓付近を中心に広がっていた。

 

 確かに、ともう一方が頷く。

 

「しかし……何がどうなったらこんな殺され方をするんだ、こいつは」

 

「真犯人の女でも寝取ったんじゃないか? 男のヴァンパイアは『魅了(チャーム)』とかいう魔術を使い、美女ばかりを狙って眷属にすると聞くぞ。その力で娼館やらいかわがしい酒場やらを経営しているヤツだっている。コイツは……以前、繁華街の飲み屋で何人もの女を侍らしていたのを見かけたことがあるから、そのタイプだろうな」

 

「チッ。いずれにせよ、被害者は恨みを買いまくってるタイプってことか」

 

「そういうことだ、犯人の目星をつけるのにも一苦労だろうな」

 

「面倒だな」

 

「確かに。まあ、俺らじゃなくて調査担当が、だが」

 

「違いねぇな」

 

 衛兵たちが苦笑する。

 

「とにかく、詰め所に戻ったら調査係に繁華街の娼館や女をあてがう飲み屋を調べるよう言っておくか。犯人もそっち方面から探った方が、見つかる可能性が高いだろう」

 

「チッ。俺のひいきにしている店じゃないといいんだがな。店主が死んだら店を開くどころじゃないだろう」

 

「お前もゲスだな。一応は死人の前だぞ」

 

「うるせえよ。最近じゃカミさんともご無沙汰だし、この仕事やってりゃ殺人(コロシ)なんぞ日常の範疇だろうが。だいたいお前だって、嫁に隠れてコソコソ娼館に通ってるの知ってるんだぞ」

 

「おい、なんでそれを……チッ、とにかく詰め所に戻るぞ。ひとまず現場を荒らされないよう結界を張っておこう」

 

「了解」

 

「しかしネメシオ商会の魔道具は高性能だよな。これ、賊が結界内に侵入したら逃げられないように防壁が起動した後に自動で詰め所まで通報信号が飛んでくるんだろ?」

 

 言って、衛兵の片方が鞄から取り出した小さな護符(タリスマン)をしげしげと眺めている。

 

「そういう触れ込みだったはずだぜ。ほら、無駄口叩いてないでさっさと設置するぞ。俺は定時で上がりたい主義なんだよ」

 

「はいはい了解了解」

 

 二人の衛兵は軽口を叩きながらも、部屋の四隅に手際よく魔道具を設置した。

 

「これでよし。あとは調査のヤツらに押し付けて俺らの仕事は完了だ」

 

「はあ……とっとと帰ってエールでもかっ食らいたい気分だよ」

 

「まったくだ。……なんか、どっと疲れた気がするぜ」

 

 衛兵たちが去ってゆく。

 

 

『…………』

 

 

 そんな二人を、近くの路地からじっと見つめている影があった。

 

 もし、衛兵たちがもっと手練れであったならば……それ(・・)の放つ異様な気配に気づくことができたかもしれない。

 

 もっとも、二人のいずれかがそれ(・・)に気づいてしまったならば――二人が今夜、自宅で気持ちよくエールを喉に流し込むことも、歓楽街の片隅でお気に入りの娼婦とベッドで楽しい時間を過ごすこともなかっただろうが。

 

『…………チッ』

 

 しばらく影はそこに(わだかま)っていたが、舌打ちをしたあと煙のように消え失せた。

 

 仄かな瘴気の臭いを残して。

 

 

 廃屋には、静寂と魔族の死体だけが取り残されていた。

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