パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第128話 『宴の始まり』

『あっ……ご、ご主人、お帰りなさいませ。ずいぶん早いお帰りですね?』

 

『あ、リタさん!』

 

「お前ら……」

 

 彼女を送り届ける前に、セバス氏と黒服たちの襲撃に備えるため装備を取りに宿に戻ると、すでにセパとレインは部屋に戻っていた。

 

 部屋のテーブルには、彼女たちが屋台や食料品店で買い込んだと思われる大量の食べ物が所狭しと並べられている。

 

 ちょっと待て。

 

 これ……渡した小遣いを全部つぎ込んだのか!?

 

 どう考えても、そういう量の食べ物の数々だ。

 

 すでに食べおわった屋台飯やら空になった瓶が何本もテーブルに置かれているところを見るに、宴も(たけなわ)といったところである。

 

 つーかレインは食い物を持ったままベッドの上でゴロゴロするんじゃない!

 

 俺がケルツで唯一くつろげる場所だぞそこは。食べ物をこぼして汚れたらどうすんだ。あと衣装がめくれて際どい見た目になってるから早く直せ。

 

「あのー、先輩。あたし、もしかしてお邪魔ッスか?」

 

「あー、いや、違う。多分誤解だ。これはそういうアレじゃない」

 

 リタが何かドン引きした様子だったので訂正する。

 

『ねーねーマスターも帰ってきたんなら、あーしたちと一緒に宴……しよ?』

 

 だからレインは身体をくねらせ甘えた声を出すのをやめろ。

 

 コイツの場合、天然じゃなくちゃんと分かったうえでやっているのでタチが悪い。

 

 ちなみにその目的は、食べきれない大量の屋台飯を買いこんで食い散らかしたことを誤魔化すためだろう。

 

 もちろん誤魔化されないが。

 

『それはよい考えです!』

 

 そんなレインの様子に、セパが「今思いつきました」みたいな調子でパンと手を叩き同調する。

 

『くっ! さすがにこの量では、私とレインだけでは食べきれないと思っていました! あの屋台のおじさま……存外口が上手くて気が付いたら両手いっぱいに串焼きが挟まっていたのです……くうぅっ!』

 

 そうだな食欲の赴くままに買い食いしまくったけど腹いっぱいで食べきれなくなって持って帰ってきたんだな。その量を。

 

 はあ……

 

 まあ、たしかにトレスデンの料理は美味い。

 

 ついあれもこれもと目移りしてしまうのは分かる。

 

 そして俺は俺で、素材やら魔導書やらをすでに大量に買い込んでしまっている。二人に偉そうに説教できるほど清廉潔白というわけでもない。

 

 まあ、買ってきてしまったものは仕方ない。

 

「……今回まで(・・)は多めに見てやる。俺たちも腹が減っているからな」

 

『ふぁーい……』

 

『ふぁーい……』

 

 二人が気の抜けた返事をする。

 

 一応反省はしているようだが、次から渡す小遣いはこれまでの半分にすべきかもしれないな……

 

 それはさておき。

 

「リタ。今日のことを考えると、エキドナさんの店には、セバス氏と配下が張り込んでいる可能性がある。下手なことをするとは思えないが、乱闘になることを考えると、今のうちに腹に何か入れておいた方がいいだろう」

 

 俺はテーブルの上に積み上げられた屋台飯の中から二人が手を付けていないものを手に取ると、リタに差し出した。

 

 が、彼女はなぜか顔を赤らめ、責めるような目で俺を見ている。

 

「……了解ッス。……でも先輩、いくら独り身が寂しいからって聖剣さんたちと楽しく夜の宴(・・・・・・)ってのは、ちょっと……ドン引きッス……」

 

「だから違うって言ってるだろ!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 とりあえずの腹ごしらえを終えた俺たちは、夜になるのを待ってからエキドナ邸の近くまでやってきていた。

 

「……やっぱ張り込んでるッスね」

 

 彼女の店の周辺まで来てみれば、案の定路の物陰などに鋭い気配を纏った連中が佇んでいるのが見えた。

 

 連中はうまく隠れたつもりのようだが、気配がただの通行人や浮浪者とは違う。正直、バレバレだ。

 

 とはいえセバス氏の気配はない。

 

 時刻もすでに深夜近くだし、おそらく見張り用の下っ端だけだろう。

 

 ……さて、どうしたものか。

 

「このままあの人らをぶっ飛ばして、堂々とお店に入りましょうか? このくらいの人数ならば、あたし一人でもどうにかなるッスよ」

 

 やる気満々のリタが強行突破を提案してくる。

 

「ダメだ。ほかにも潜んでいる可能性がある」

 

 というか、黒服たちがリタの身内だと判明してしまった以上、彼女がやる気でも俺としてはあまり酷い方法は取れない。

 

 強行突破は却下だ。

 

 もちろん、いずれセバス氏にはリタの意思をはっきり示す必要があるだろう。

 

 その手段の一つとして、彼女の腕っぷしが役立つかもしれないが……それは今ではない。

 

「じゃあ、屋根伝いに回り込むッスか? ほら、見てください先輩。あそこ、二階は窓が開いて……」

 

 言ってから、リタが怪訝な表情で俺を見た。

 

「……こんな夜遅くなのに、なんで窓空いてるんスかね?」

 

「俺が知るわけないだろ……まさか」

 

 と、その時。

 

 

 ――ドゴン!

 

 

  嫌な予感が胸に湧き上がったのと、エキドナ魔道具店の道路に面した壁面が吹き飛んだのはほとんど同時だった。

 

「……は?」

 

「……へっ!?」

 

 思わず二人で素っ頓狂な声が出た。

 

 まさか、セバス氏たちがエキドナを襲撃したのか!?

 

 だが、崩壊した建物が舞い上げる土煙で様子が分からない。

 

『この、曲者めッ!』

 

『ブモオオオォォッッ!!』

 

 土煙の中から女の叫び声と獣の唸り声が上がる。

 

 同時に、誰かが飛び出してきた。影のように黒い男だ。短剣を携えている。

 

 そいつはセバス氏ではなかった。

 

 

 煙が晴れると、ようやく状況が明らかになった。

 

 

 エキドナは杖を構え、男と向かい合っていた。

 

 そして彼女を守るようにして、ミノタウロスの霊体が立ちはだかっている。

 

 

「おいエキドナ、無事か!」

 

「師匠、大丈夫ッスか!?」

 

 急いで物陰から飛び出し、エキドナに声をかける。

 

「リタ! それに……ブラッドさん!? 今は危険です、下がってください!」

 

 俺たちに気づき、彼女が切羽詰まった声を上げた。

 

「……なんだ? お前ら」

 

 それと同時に、エキドナと対峙している男がギロリと視線を向けてきた。

 

 異様な風体をした男だった。

 

 猫背で、まるで死人のように瘦せこけている。

 

 それだというのに、こちらを睨む目はギラギラと鋭い。

 

 両手には、それぞれ短剣を持っている。

 

 双剣使いだ。

 

 王国ではあまり見ないスタイルだな。

 

 そしてその刃は……二振りとも、赤黒い(もや)を纏っていた。

 

 ……あれはまさか、魔剣?

 

「おい何事だ!」

 

「なんだあいつは!?」

 

 俺たちに一歩遅れて、黒服たちも駆けつけてくる。

 

 口々に男を指さし戸惑っている様子だ。

 

「リタ、下がれ。おい、お前らもだ。あいつは危険だ」

 

 俺はリタと、俺たちを追いかけてきた黒服たちに声をかける。

 

「でも、師匠が……!」

 

「おい野良犬、これはどういうことだ! 説明しろ!」

 

「いいから下がってろ!」

 

 俺は怒鳴り声をあげ、エキドナに向かおうとするリタと俺に食って掛かろうとする黒服たちを制止する。

 

 ……ん?

 

 黒服の口ぶりでだと、猫背の男は、セバス側の人間ではないのか?

 

 疑問が浮かぶが、今はそれどころじゃない。

 

 ともかくまずはアイツを撃退しないことには場が収まらない。

 

「とりあえず、エキドナを助けるぞ。セパ、レイン、行くぞ」

 

『了解です、ご主人』

 

『あいあーい!』

 

 二人の声を聞きながら、俺は二本の聖剣を抜き放った。

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