パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第129話 『疑惑と否定』

「二人は下がっていてください! それから、セバス様のお付きの方々も!」

 

 エキドナが杖を構えながら叫ぶ。

 

 だがそうはいかない。

 

 これまで奴らと対峙したときには、カミラをはじめアリスやフレイなど圧倒的な実力者ばかりだったから不安はなかったが、エキドナは魔族でそれなりに戦えるとはいえあくまで一般人の範疇での話だ。

 

 多分、リンドルムの足元にすら及ばないだろう。

 

 一応アイツも仔竜とはいえエルダードラゴンだからな。

 

「チッ……面倒くせえな。増援か」

 

 猫背の男が小さく吐き捨てる。

 

 ギロリとエキドナを睨みつけ、それからこちらにチラリと視線を寄越してきた。

 

 おそらく、俺の戦力を測っているのだろう。

 

「エキドナ、もう大丈夫だ。こいつの相手は俺がやる」

 

 俺は聖剣を構えたままエキドナに声をかけ、彼女をかばうように猫背男の前に立った。

 

「ですが……!」

 

「あいつは魔剣持ち(・・・・)だ。こういう手合いは俺の領分だ」

 

「…………チッ」

 

 男の顔つきが変わった。

 

 俺の意図通り、ヤツは『魔剣持ち』という言葉に反応したようだ。

 

 これであいつは俺を無視できなくなった。

 

「どうした? ネタが割れてビビったのか?」

 

「……同業か? だが魔族に肩入れするヤツは同罪だ。死ね」

 

 ボソッとした呟きと同時に、猫背男の姿がフッとかき消えた。

 

 そして黒い影が、いきなり俺の目の前に現れる。

 

 視界の端には、斜め左から迫る刃が見えた。

 

「おっと」

 

 ――ギイン!

 

 反射的に身体を捻りつつ、左に持ったセパで斬撃を受け流す。

 

 いきなりの奇襲か。

 

 かなりの手練れだな。

 

 だが、見えている。問題ない。

 

「……なんだと?」

 

 どうやら猫背男にとっては、俺の対処が想定外だったようだ。

 

 驚きの声を漏らし、目を見開く。

 

 その後ヤツには次撃を繰り出す予備動作があったが、躊躇したらしく素早く俺から飛びのいた。

 

 一瞬遅れて、セパから念話が入る。

 

『ご主人。今、何かを切断した感覚がありました。おそらくですが、呪詛の類です。お気をつけて』

 

『了解。まあ、魔剣だからな』

 

『私の『切断』で断ち切れない呪詛はありません、お任せを』

 

「ブラッドさん、相手の右の短剣に気を付けてください! あれに少しでも斬り付けられると、徐々に傷が抉れて孔のような痕ができてしまいます!」

 

 さらに一歩遅れて、エキドナから助言が飛んできた。

 

 よくよく見れば、彼女の背後、魔道具店の内部が……ところどころ、巨大なハチの巣のように抉れている。

 

 ひどい有様だ。

 

 なるほど、ただの短剣だと油断してあの魔剣に触れるといきなり致命傷を負うことになるのか。

 

 初見殺しの(きわ)みみたいな魔剣だな。

 

 だが、ネタが割れてしまえばただ殺傷力が高いだけの剣だ。

 

 いくらでも対処のしようがある。

 

「……チッ。だから多数戦は嫌なんだよ」

 

 猫背男が吐き捨てる。

 

「数ってのはそれだけで強いんだよ」

 

「そのようだな」

 

 ヤツはぐるりと周囲を見回して、ボソリと呟いた。

 

「この野郎!」

 

「おい貴様! もう逃げられんぞ!」

 

「誰の差し金だ! 大人しく吐けば顔の形が変わるだけで済ませてやる!」

 

 気づけば随分と黒服の数が増えていた。

 

 どうやら俺たちが戦っている間に増援を呼んだらしい。

 

「チッ。雑魚がいくら増えたところで支障はないが……」

 

 猫背男は黒服たちをチラリと見やり、それから俺を鋭く睨みつけた。

 

「今日必ず達成すべき仕事というわけでもない。おい、そこのお前――」

 

「おう、お前の顔は覚えたからな。またな魔剣野郎」

 

「っ、……!」

 

 先回りして言い放った俺の言葉に、猫背男がビキッ! 顔を引きつらせた。

 

 こういうスカした野郎は、少しおちょくってやると激高してこちらしか見えなくなる。

 

 これで逃げ際に黒服に危害を及ぼすことはないだろう。

 

「お前だけは絶対に殺してやるッ!」

 

 案の定ヤツはそう叫んで、暗がりに溶け込むようにして姿を消した。

 

「なっ……消えた!?」

 

「どこへ行った!」

 

「探せ! まだ近くにいるはずだ!」

 

 消えた猫背男を見て、右往左往する黒服たち。

 

「あいつはもうここにはいないぞ」

 

「お前、さっきの野良犬だな?」

 

 黒服たちに声をかけると、連中の一人が詰め寄ってきた。

 

 ヤツは俺の襟首をグイと掴み、顔を近づけてくる。

 

「何故そんなことが分かる。もしかしてお前もあいつとグルなんじゃないか!?」

 

「何故、だと?」

 

 俺は冷静に言い放つ。

 

「見てなかったのか? アイツ、戦闘中に瞬間移動の能力を見せただろう。あれは『影潜り』の魔術だ。あれを逃走用に使われればどこに逃げたのか探るのは困難だ。少なくとも、この人数じゃ捕らえるのは不可能だろうな」

 

「くっ……能力が分かっているのなら、なぜそれを俺たちに言わない! これではお前が逃がしたも同然だぞ!?」

 

 うわ、面倒臭ぇなコイツ……

 

 話の前後が見えてないのか、俺の態度で頭に血が上っているのか。

 

 いずれにせよ、こちらもまともに対応してやる義理はない。

 

「お前らの事情なんぞ知るか」

 

 俺は黒服を睨みつけて言い放った。

 

「だいたい、言えばお前らはアイツを捕縛できたのか? 離れた場所から一瞬で間合いを詰めてくるうえ、かすり傷が致命傷になるような相手だぞ? お前ら程度の実力じゃ、百人いたところでアイツにとっちゃ何の障害にもならんだろうよ」

 

「なっ……!」

 

 黒服の顔が真っ赤になるが、さらに俺は続ける。

 

「だいたい俺はこの国の人間じゃない。そんな俺が、どこの組織に属しているかも分からんヤツを仕留めたとして、その後衛兵にしょっ引かれない保証はあるのか? それともお前が全部どうにかしてくれるのか? ああ、お前みたいな下っ端じゃ無理か。とっとと飼い主様に話を付けて来いよ飼い犬野郎」

 

「き、貴様……言わせておけば……!」

 

 思い切りコケにされたせいか、黒服のこめかみにビキビキと青筋が浮かび上がる。

 

 俺の襟首をつかむ手にも力が入る。

 

 と、そのときだった。

 

「やめなさい、ルッコ」

 

 よく通る男の声が周囲に響き渡る。

 

 見れば、執事服の初老の男が近くに立っていた。

 

 セバス氏だ。

 

「し……師範殿」

 

「今はセバスと呼びなさい。それよりルッコ、そちらの御仁から手を離しなさい。彼がこの場に介入しなければ、お嬢様やエキドナ様はおろか、貴方方全員の命はなかったかもしれないのですよ?」

 

「くっ……承知……しました……。おい」

 

「おう、覚えておいてやるよ飼い犬野郎」

 

「ぐっ、野良犬がっ……!」

 

 黒服の顔が紅蓮に染まるが、ギリギリとどまったようだ。

 

 俺の襟首を乱暴に離すとセバス氏の元へと歩いてゆき、彼の隣でビシッ! と直立不動の姿勢を取った。

 

「ふむ」

 

 それを確認したあと、代わりにセバス氏がゆっくりとした足取りで俺のもとに近づいてくる。

 

「もしかするとお嬢様より伺っているかもしれませんが……私はネメシオ商会会長ファビオの執事頭、セバスと申します。私の部下が粗相を働いたことにつき、謹んでお詫び申し上げます。そして誰一人死者を出さずにこの場を収めたその腕前に敬意を」

 

 俺の側までやってくると、彼は深く頭を下げた。

 

「……ブラッドだ。王国で聖剣錬成師と冒険者をやっている。まあ、さっきみたいなのは日常の範疇だから気にする必要はない。それより、さっきのヤツはあんたの手の者じゃないってことでいいんだな?」

 

「寛大なお言葉、感謝いたします。はい、あの者は我々の配下ではございません。反対に申し上げますが、ブラッド様はあの者のことをまったく存じ上げない、ということでよろしいのでしょうか?」

 

 どうやらセバス氏は、逆にあの魔剣持ちが俺の関係者であると疑っているらしかった。まあ、彼の立場からすれば当然だな。

 

「あんな陰気なヤツは、俺の知り合いにいない」

 

「左様ですか。ならば、我々がこれ以上争う理由はございませんな」

 

「ああ。俺もアンタらと揉めるとせっかくのトレスデン観光が台無しだからな」

 

「ふふ……あのような修羅場を経験して、なお『観光』と申しますか。大した御仁だ」

 

「おいおい、マジであんたとケンカする気はないからな?」

 

 俺の返答を受けてなぜか目がギラついたセバス氏に、一応の牽制を入れておく。

 

 戦って負ける気はしないが、さすがに面倒だ。

 

 俺はこの国にケンカをしに来たわけじゃないからな。

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