パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第13話 『ザルツ聖剣工房③』

「ぶっ……くくく……このようなオモチャがブラッド様の聖剣なものか! ザルツ殿は私を笑い殺そうとしているのか? ……あははははっ!」

 

 アリスの失笑が次第に大きくなり、爆笑に変わった。

 

 これには、さすがのザルツも不機嫌になった。

 

 アリスは子供だが、騎士の従者としてここを訪れている。

 

 場にふさわしくない態度は、(たしな)める権利があるだろう。

 

「……アリス殿? 今はガウル殿との商談中です。すみませんが、少しお静かにしていただけますかな?」

 

 が、彼女は腹を抱えて笑い転げている。

 

「ぷぷ……いつまでこのくだらない茶番を続けるつもりだ、ザルツ殿。さっさとブラッド様の聖剣を出してくれないか? ガウルは彼の聖剣を求めて、ここに来たのだよ」

 

 さすがにそこまで言われれば、ザルツとて言い返さずにはいられない。

 

「そこまでにしていただけますかな、アリス殿! そもそも従者である貴方に、聖剣の良し悪しなどが――」

 

「いい加減にしろ、ザルツ・フォン・ゲスティブルグ」

 

「…………ひっ」

 

 ザルツは小さく悲鳴を上げた。

 

 そこでようやく、彼女から放たれる凄まじい圧力に気づいたからだ。

 

 それは明らかに、ただの子供のそれではなかった。

 

「……アリス」

 

「いい、ガウル。こちらも茶番は終わりだ」

 

 アリスは深くため息をつきつつザルツの前まで進み出て、聖剣『雷降』を奪い取った。

 

「なっ、何を……!」

 

「分かるさ。分かるんだよ、()には」

 

 彼女が聖剣に目を落とし、呟く。

 

「……フン。これがブラッド様の聖剣? 馬鹿にするな。あの方の錬成した聖剣が、精霊すら顕現せぬハリボテのわけがなかろう。そんなことを見抜けぬとでも思ったか? 痴れ者め」

 

 ぽい。

 

 アリスが『雷降』を放り投げる。

 

「なっ……!」

 

 これにはザルツも頭に血が上った。

 

 ついいつものクセで、自分の胸ほどの背丈もないアリスに向かって、怒鳴りつけてしまう。

 

「おいガキ! その剣がいったいいくらだと――」

 

 だが。

 

「黙れ下郎」

 

「――ヒィッ!?」

 

 気づけば、ザルツの喉元には剣が突き付けられていた。

 

 アリスが腰に差していた、ショートソードだ。

 

 抜剣はまったく見えなかった。

 

 まるで時間を(・・・・・・)斬り落として(・・・・・・)結果だけを(・・・・・)継ぎ合わせたような(・・・・・・・・・)、早業だった。

 

(ま、まさか――)

 

 ザルツは思い出す。

 

 クロディス家は貴族としては新参中の新参だが、武家としての歴史は長い。

 

 当主もその係累も、一騎当千の凄まじい剣の使い手として知られる。

 

 特に当主アステルの剣は、神速の域に達している――と。

 

 アリスが口を開く。

 

「我が名はアステル(・・・・)・フォン・クロディス。クロディス家四十五代目当主である。ザルツ・フォン・ゲスティブルグ、貴様はブラッド様とブラッド様の造る聖剣を愚弄した。万死に値する」

 

「~~~~っ!?」

 

(……なんだと!? この小娘が、クロディス家当主のアステル……!? 何が何だか分からんぞ!?)

 

 脳内の情報と眼前の可憐な少女が重なり合わず、ザルツは混乱した。

 

 だがアリス――アステルの殺気は本物だ。

 

 動けば首が飛ぶ。

 

 それだけは間違いない。

 

「それと、だ。ブラッド様はどこにいらっしゃるのだ? ここに来るまでに見えた工房内には、彼の姿は見えなかったようだが? トイレにでもこもっているのか?」

 

 ザルツに剣を突き付けながらも、アリス――アステルはまるで雑談のような口調で語りかけてきた。

 

 よく見れば、彼女の頬が心なしか紅潮している。

 

 こうしてみれば、ただの年頃の少女にしか見えない。

 

「あの……アリス殿。アリス殿は、アステル様……なのですか?」

 

「そうと言っているだろう」

 

 当たり前だろう? とアステルが首をかしげる。

 

 剣を突き付けながらも、だがザルツは聞かずにいられなかった。

 

「し、失礼ながら……クロディス家の当主は、代々男性だったと聞いております。ですが……目の前のアステル殿は、どう見ても女性です。これは、一体どういうことでしょうか」

 

 すると、アステルはニイィ……と笑みを浮かべた。

 

 少女とも少年ともつかない、蠱惑的な笑みだった。

 

「貴様はどっちだと思う?」

 

「…………それを聞いているのですが」

 

 が、アステルはその疑問に答えることはなかった。

 

「フン。僕の性別など、どちらでもよかろう。だがまあ……この状況でそのようなくだらない質問をしてきた貴様の胆力に免じて、特別に答えてやろう」

 

「…………」

 

 ごくり、と生唾を呑み込むザルツ。

 

 はたしてアステルが口を開く。

 

「答えは、『僕は自由に生きることにした』……だ」

 

「…………はあ?」

 

 意味が分からない。 

 

 というか、質問の答えになっていない。

 

 だがアステルはこれ以上答える気はなさそうだった。

 

「さあ問答は終わりだ、ザルツ・フォン・ゲスティブルグ」

 

 アステルが剣をさらにグイ、と突き出す。

 

「ブラッド様はどこにいる? 早く呼べ。僕は彼がいるこの工房だからこそ、やってきたのだぞ。三年ぶりに会えるから、とてもとても、楽しみにしていたのだぞ。……それともまさか…………彼はここにいないのか?」

 

「え……? う、あ、あ……」

 

 再会を楽しみに?

 

 クロディス家の当主とブラッドとの間に個人的な関係があったのか?

 

 何もわからない。

 

 だがザルツの表情が引きつるのと連動するように、アステルの凍てつく殺気が増してゆくのだけは確かだった。

 

「答えろ! ザルツッッッッッ!!!」

 

「ひ、ひいいいぃぃッッッ~~~!?!?」

 

 何が獅子獣人だ。

 

 そんなものに慄いていた自分が馬鹿らしい。

 

 何が『どう見ても女性』だ。

 

 目の前のアステルのオーガのごとき殺気に比べれば……性別など些末な問題だ。

 

 これが……クロディス家。

 

 凄まじい気迫に当てられたのか、トマスにいたってはすでにその場でへたり込み、白目を剥いて気絶していた。

 

 クソ、この野郎。

 

 先に楽になりやがって……!

 

「ひ、ひぃ……ど、どうか命だけは……」

 

 膝が笑い出し、立っていられなくなる。

 

 その場にへたり込んだときに尻が妙に冷たく感じ、そこでザルツは自分が失禁していることに気づいた。

 

「アステル殿、さすがにやりすぎではないか? ブラッド殿への『さぷらいず』とやらをするであろう? 私も貴殿の案に乗った手前、あまり強くは言えないが……ザルツ殿がブラッド殿の上司ならば、斬り捨てるのはさすがにまずいのではないか?」

 

 意外にも、助け舟を出したのはガウルだった。

 

 だが、ザルツはその言葉を聞いてさらに顔を青くした。

 

 今のザルツは、ブラッドの上司でもなんでもない。

 

 だが、アステルはガウルの忠告を聞き入れたようだ。

 

「フン、まあいい。さっきから僕の剣も、コイツの汚い血を(・・・・・・・・)浴びたくない(・・・・・・)と抗議していてうるさいからな」

 

 言って、アステルは剣をおろした。

 

 まだ不機嫌そうな顔をしてはいる。

 

 だが、どうやら命だけは助かったらしい。

 

「それで? 今日はブラッド様は工房にいないのだな? 休暇か何かか?」

 

「じ、実は……彼はもうこの工房に在籍しておりません」

 

 ザルツは正直に話すことにした。

 

 これ以上嘘をつくと、本当に首と胴体が生き別れになってしまうかも知れなかった。

 

「それで、彼は今どこの工房に? 嘘をつくと、貴様のためにならんぞ」

 

「めめ、滅相もございません! ですが、私には見当もつきませんでして……本当です! 彼が出て行った……いえ! 私が腹立ちまぎれに解雇したのは、もう一月ほどまえのことです」

 

「なんだと!? 彼を解雇しただと!?」

 

「ひいっ!? も、申し訳ございません……ッ!!!」

 

「ふむ……まあいい。本来ならばブラッド様を解雇するなど万死に値する大罪であるが、僕は急いでいる。……本当にここにはいないのだな」

 

「は、はひ……」

 

「ふん、そうと分かれば用はない。ほかの工房を当たるとしよう。……ガウル殿はいかがする? 正直な感想をいえば、この程度の聖剣ならば別の工房でも手に入る。そもそも貴殿の目当てはブラッド様の聖剣だろう」

 

「ふむ……そうだな。アステル殿がそうおっしゃるならば、私もそうさせてもらおう。すまぬな、ザルツ殿」

 

 部屋を出ようとしたアステルを追って、ガウルが席を立つ。

 

「それと……だ、ザルツ男爵」

 

 扉に手をかけたアステルが振り返り、ザルツを見た。

 

 ぞっとするほど冷たい目だった。

 

「貴様が我々をだまして聖剣を売りつけようとしたことを見逃すつもりはない。本来ならば、ブラッド様の驚いた顔を記録するはずだったのだが……こんな役立ち方をするとは」

 

 言って、アステルが胸元の徽章をちらりと見せた。

 

「……それは」

 

「これは記録用の魔道具だ。貴様も貴族の端くれならば、知っているだろう。一時間ほどであるが、ここに埋め込まれた魔石に映像と音声を記録できる優れものでな。貴族というのは、何かとあるだろう?」

 

 もちろんザルツも知っている。

 

 貴族の戦場は社交場であり、戦いとは舌戦だ。

 

 言った言わないを争うのは日常であり、それを防ぐために開発された魔道具が存在する。

 

「沙汰は追って下すとしよう」

 

 アステルはそう言い放つと、ガウルとともに部屋を出て行った。

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