パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第131話 『商会令嬢護衛』

「では、こちらへどうぞ」

 

「うお……すごいな」

 

 セバス氏に護衛の拠点として案内されたのは、ケルツの中でも指折りの高級宿だった。

 

 ロビーは豪奢そのもの。

 

 受付スタッフはみな美男美女で、しかも一つ一つの所作が洗練されている。

 

 そしてそんな超ラグジュアリーなお宿は、セバス氏の顔パスだ。

 

 というか支配人が飛んできて、部屋までの案内を買って出てきた。

 

 どんだけ偉いんだよこの爺さん。

 

「なあリタ、お前いつもこんな待遇を受けてたのか?」

 

 部屋まで続くふかふかの廊下を歩く間。

 

 俺は、隣で歩きながらも居心地悪そうに身を縮こませているリタに声をかける。

 

「うう……こういうのがイヤで家を飛び出したんスよ……」

 

「うん、まあ……なんかそんな気がしてたわ」

 

 俺が知っている彼女は根っからの庶民派だからな。

 

 聖剣工房にいたときも仕事上がりに「先輩! あともうちょっとで問屋街のお肉屋さんで値引きセール始まるんで失礼するッス!」とか言ってダッシュで街の中に消えていったのを覚えているから、彼女の恐縮した様子は安心感すら覚える。

 

 これで突然リタが「うむ、苦しゅうない」とか言い出したらどうしようかと思ったぞ。

 

 まあ、出るとこ出ればそういう態度もできるんだと思うが。

 

 ちなみにリタのあとには、エキドナもついてきている。

 

 彼女は俺の護衛対象ではないが、今後も例の猫背男に襲撃される可能性があるため、こうして保護することになった。

 

 ちなみにエキドナはというと。

 

「リタ、ここの二階に入っているレストランの卵料理は非常に評価が高いんですって。うふふ……楽しみですねぇ。さらには、他所様のお財布で食べる高級料理。しかも、地下には古代風の大浴場と蒸し風呂(サウナ)が併設されているとか。不謹慎ではありますが、お店を半壊させた甲斐があったというものですね……うふふ……」

 

 うん、彼女は彼女で別の意味で庶民派魔族だった。

 

 高貴な家柄なら、こんなセリフ、ウキウキした様子で口になんぞ絶対しないと思うからな。

 

 というか普段の大人っぽいな佇まいから想像できんほどギャップが激しいな。

 

 浮かれすぎだろこの蛇魔族。

 

 どんだけここの卵料理食べたいんだ。

 

「エキドナ様にはお気に入り頂けたようでなによりです。この宿には一般客も宿泊しておりますが、身元のはっきりした者ばかりです。従業員はすべて弊商会の息が掛かっておりますので、建物内の安全は保障いたします。ブラッド様も、お付きの方々も遠慮なさらずお寛ぎください」

 

「厚意はありがたいが、俺は任務が完了してから寛ぐことにするよ」

 

「ふむ、そのときは是非」

 

 セバス氏の厚意は本物だが、さすがにリタのことがある以上のんびりすることはできない。

 

 まあ、宿を移すことになって一番喜んでいるのは、セパとレインだろうか。

 

 今は実体化していないが、二人がこの宿を見た時といったらそれはもうこの世の春がきたような喜びようだったからな。

 

 なんで俺より聖剣どもの方が世俗に(まみ)れてるんだ。

 

 いや、別に予算的に泊まれないわけではないんだぞ?

 

 単純に、宿に対して過度な高級さを求めるような生き方をしてこなかっただけだ。

 

 それよりも宿に併設されている飯屋のメシがどれだけ大盛で安くて美味いか、酒を飲んで潰れても構わない気安さがあるかの方がよっぽど重要だしな。

 

 それはさておき。

 

「では、お嬢様。しばらくの間は、この部屋で過ごしていただきます。この階はすべて商会で押さえさせて頂きましたので、外部からの者は立ち入ることはできません」

 

 案内されたのは最上階にある、セバスによれば『ロイヤルスイート』とかいう部屋だった。

 

 内部は豪華の一言。

 

 その様子は、昔剣術指南で通っていたアリスの実家――クロディス家の屋敷に近いが、それよりも開放感のある造りだ。

 

 このあたりは、お国柄が出ているのかもしれない。

 

 ちなみに調度品の数々や壁面に掲げられた絵画などの詳しい値打ちは俺には分からないが、エキドナが卒倒しそうになっていたから相当ラグジュアリーな空間なのだろう。

 

「では、エキドナ様はお隣にお部屋を準備いたしましたので、ご案内いたします。こちらへどうぞ」

 

 ……ん?

 

 何か違和感が。

 

「待ってくれセバスさん。俺の部屋はどこだ?」

 

 たしか、この階層は二部屋しかないとフロントの女性スタッフが説明していたはずだ。

 

 となると、俺は階下か?

 

「何をおっしゃいますか、ブラッド様。貴方様のお部屋はこちらですよ?」

 

「……は?」

 

「……ふむ」

 

 なぜかセバス氏にため息を吐かれた。

 

「ブラッド様、貴方はお嬢様の護衛です。当面の危機を鑑みるにも、付きっきりとなるのは当然ではありませんか」

 

 貴方は何を言っているんですか? という顔のセバス氏。

 

 俺の方が「お前は何を言っているんだ」なんだが?

 

『ご主人、いざというときは目と耳は塞いでおきますのでご安心ください』

 

『やったー! 今日はリタさんとお泊り会だね! 宴だよ宴!』

 

『セパは黙ってろ!』

 

 ……マジかよ。

 

「おい、リタ」

 

「…………っ」

 

 思わずリタを見たら真っ赤な顔でサッと目を逸らされた。

 

 お前……知ってたなら言えよ!

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