パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第132話 『浴場にて』

 ちゃぷちゃぷと静かに水が波打つ音が響く。

 

 蒸気でじっとりと煙る室内。

 

 ケルツ一の高級宿『ホテル・プリメア」の地下大浴場はとても広い。

 

 俺は浴場と脱衣所を隔てる扉に背中を預け、胡坐をかいていた。

 

「せ、先輩……! あたし今裸なんで、絶対扉開けないでくださいね!」

 

 背後からリタの恥ずかしげな声が聞こえてくる。

 

 彼女の声は広い浴場で反響し、やけに大きく聞こえる。

 

「いちいち報告するな! つーか開けるか! 早く入って早く出てこい」

 

「うう……仕方ないとはいえ、恥ずかしいッス……」

 

 薄い扉越しにリタが足音がペタペタと聞こえ、やがてちゃぽんと湯船に浸かる音がした。

 

 それから、「ふい~……」と大きく息を吐く音。

 

「はあ……」

 

 俺はリタに聞こえないよう、小さくため息を吐いた。

 

 クソ……なんでこんなことに。

 

 早くも俺は、リタの護衛任務を引き受けたことを後悔し始めていた。

 

 だが、依頼はもう始まっているし、リタの安全が確認できるまでは降りるつもりはない。ないのだが……

 

 さすがに浴場の見張りくらいは女性の護衛を見繕って欲しかった。

 

 実際セバス氏に掛け合ったのだが、彼は「いえ! このような無防備な瞬間こそ、ブラッド様の力が必要なのですよ」とか(のたま)い俺の提案を却下しやがった。

 

 マジで何を考えているんだ。

 

 まさか、おはようからお休みまで……どころか、湯浴みの最中までとは思わなかったぞ。

 

 まあいい。

 

 俺は俺の仕事を全うするだけだ。

 

 と、セパが念話で話しかけてくる。

 

『ご主人、ご安心ください。いざというときは目と耳はきちんと塞ぎますので』

 

『それは俺のか? それともお前のか?』

 

『…………』

 

『おいセパ。お前あとで覚えてろよ』

 

『あー……お風呂が目の前にあるのに入っちゃダメとか……マスターは人でなしだよ……』

 

『仕事中だ! あとで好きなだけ入らせてやるから、今は我慢しろ』

 

『ふぁ~い……』

 

 はあ……本当になんでこんなことに。

 

 しかし、リタはリタで四六時中俺と顔を突き合わせないとならないのを知ったうえで、よくもまあセバスの提案をあっさり呑んだものだ。

 

 それこそ、トイレ以外(個室の外で張り込みは必要だが)はほぼすべての時間だぞ?

 

 まあ、今のところ彼女は大人しくしているからいいんだが。

 

「せ、先輩、お風呂上がりました」

 

 しばらくすると、背後からリタの声が聞こえた。

 

 振り返ると、バスタオルを一枚羽織っただけの彼女の姿が目に飛び込んでくる。

 

 髪は乾ききっておらず彼女の健康的な日焼け肌に張り付いているのが見えた。

 

 それより下は……俺は反射的に目を逸らした。

 

「…………よし。さっさと着替えて部屋に戻るぞ。お前が部屋に入ったら、俺が浴場に行く。部屋は浴場より安全だからセバスさんと黒服が対応するとのことだ。そのあとは、全員で今後の方針を考えるぞ」

 

「了解ッス、先輩」

 

 ふう……

 

 しょっぱなから緊張感全開で心が全然休まらんな……

 

 リタが服を身に着けたので、二人で浴場を出る。

 

 絨毯の敷き詰められた廊下を進み、一階へ上る階段に足を掛けた……その時だった。

 

「ちょっと、お客様! まだ浴場は準備中ですのでもう少々お待ち下さい……!」

 

「そんな訳はあるまい。君だって、チェックインのときは「大浴場は営業中です」と言っていただろう!」

 

 なにやら階段を上がりきったあたりで、女性スタッフと女性の宿泊客が押し問答を続けているのが見えた。

 

 うーむ、一階部分は明るいせいで、逆光になっていてよく分からんな。

 

 しかし、急遽俺たちのために(主にリタのためだが)貸し切りにしてくれたと聞いていただけに、少々申し訳ない気分だ。

 

「……ほら! 今、下からお客が上がってきたじゃないか。もう営業は始まって……む?」

 

 押し問答をしていた女性客が、俺たちの方を見て……正確には俺の顔を見て、固まった。

 

「……は?」

 

 そして、俺も同時に固まった。

 

 スウ、と背筋に冷たいものが流れる感覚があった。

 

「先輩、どうしたんスか?」

 

 石になったみたいに動けない俺の横で、リタが不思議そうな声を上げた。

 

 先に動いたのは、女性客の方だった。

 

「ああああああああああああああぁぁーーっっ!!!!」

 

 こちらをビシッ! と指さす。

 

 次いで、耳をつんざく絶叫。

 

 逆光だと言うのに、爛々と光る視線が俺に突き刺さっているのが分かった。

 

 それから、プルプルと指を震わせ……そして底冷えのする声が俺に向かって放たれた。

 

「ブラッド……君が隣に(はべ)らしているホカホカの女性は一体誰かな? 随分と若くて可愛らしい娘じゃないか。羨ましいねぇ」

 

「お、おう。まさかこんなところで出会うとはな。……なんでお前ここにいるんだ?」

 

 おかしいな。

 

 何も悪いことをしていないというのに、冷や汗が止まらない。

 

 今すぐにでも踵を返して、浴場に飛び込みたい気分だった。

 

 今にも俺を殺せそうな視線を突き刺してくる女性客は……オルディスでセパ用の自動人形(オートマータ)の製作に取り掛かっているはずの、カミラだった。

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