パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
「ふぅん……ふぅぅぅぅん…………なるほど、理解はしたよ。理解は、ね」
絶対に理解していないと思われる、凍てつく真冬のような目をしたカミラが俺たちを見下ろしている。
「……ッス」
「……ッス」
一方俺とリタは、宿の部屋に戻ったところでなぜか二人揃って床に正座することになった。
いや、誰にも強制されていないんだが、なぜかそうしないといけない気分だった。
聖剣たちもこの部屋にいるはずだが、カミラの圧力にビビったのか状況を見物しているのかまったく出てくる気配がない。
いちおう彼女には、懇切丁寧誠心誠意、リタはあくまで俺の工房時代の後輩であり、俺たちの間には何もやましいことがない旨を説明したのだが……
うん、絶対に分かってくれてないよなこれ。
ちなみにセバスは最初こそ俺たちの間に割って入ろうとしたのだが、カミラが「手を出すつもりはないから君は少し黙っていてくれたまえ」とか言って何か
あの徽章はおそらく魔術師ギルドのものだ。
まあ、カミラのことだ。
ギルドを通して素材関連の調達などでネメシオ商会と取引があるのはまあ理解できなくないが……一体コイツ、どんだけお得意様なんだ。
まあ、トレスデンにやってきてこんな高級宿に泊まっているくらいだからな。もういちいち突っ込む気にもならない。
とはいえ、このままでは話が進まないのも確かだ。
どうにか会話の糸口をつかまなくては。
「それでカミラ? なんでお前がこの宿に……トレスデンにいるんだ?」
「ふむ、私がここにいると何か不都合でもあるとでも?」
「いや、ないッス……」
なんかリタみたいな返事になった。
というか今日のカミラはまったく取りつく島がない。
あとその手に持ってる杖、戦闘用にバリバリにチューニングしたヤツですよね? 怖いからしまって欲しいんだが?
ちなみに、どういうわけかインナーに着込んだスーツも戦闘用だった。
まあこっちはエロいのでOK。
それはさておき……
そもそもである。
誓っていうが、俺は別にやましいことは何もしていない。
「…………」
カミラはしばらく俺をじいぃぃっ……と見つめてくる。
凍てつく瞳だ。
だがやましいところのない俺は彼女の瞳をじっと見つめ返す。
「……っ!」
するとカミラはなぜか顔を赤らめて目を逸らしてしまった。
ククク……勝った!
「……はぁ。まあ、いいだろう。別に君の行動を束縛しようと思うほど、私も狭量ではないからね。王都の勇者と遊ぼうが、異国の大商人の令嬢と逢瀬を重ねようが構わないさ」
「おい言い方」
つーか勇者……アリスの話は今は関係ないだろーが!
さらっと危険な発言を混ぜ込んでこないでほしいんだが?
「せ、先輩……聖剣さんといいカミラさんといい……先輩ってもしかして超遊び人だったんスか……? 工房じゃ真面目だったしそんな素振り、全く見せなかったのに……もしかして、あたしのことも……!?!?」
ほらぁ! 案の定リタが誤解して涙目になってるじゃねーか!
「落ち着けリタ。それは完全に完璧な誤解だ」
「……ん? ってちょっと待ってくださいッス。ていうか王国の勇者様って、あの『勇者アステル』様スよね? あの人って男性じゃ……? それを遊んだって……せせ、先輩、ももも、もしかしてそっちも……!」
「だから違うって言ってるだろ」
つーかリタお前なんで今度は嬉しそうに顔を赤らめてんだよ。
俺はお前の歪んだ性癖にドン引きだよ!
「……ほほう、さすがはブラッド様。英雄色を好むとはよく言ったものですな。私も今の妻と一緒になる前は、よく街で――」
「セバスさん、ややこしくなるから黙っててくれ!」
ダメだこいつらなんとかしないと。
結局カミラの誤解が解けたのは、夜も更けたころだった。
◇
「それで、持ってきたんだな?
「もちろんだとも」
ふんす、と得意げに鼻を鳴らすカミラについてゆき彼女の部屋へ向かう。
もちろん護衛対象のリタも一緒だ。
「おお、こっちも豪華な部屋だな」
「お邪魔します!」
通されたのは、『ロイヤルスイート』階下の部屋だった。
こちらは上階と比べ広さはいくぶん譲るものの、落ち着いた内装やセンスのよい調度品が置かれている良い部屋だ。
……もっとも、そこら中にぶちまけられた荷物の数々が
「うっわ……あっ、すいませんッス!」
あまりの惨状に、リタが上ずった声を上げる。
俺も頭を抱えた。久しぶりに。
リッチな宿の部屋をここまで
「マリアとステラを同伴させるべきだったな……」
「む……二人は店番に必要だろう。それにこれが私にとって一番合理的な配置なのだよ。どこにいても軽く手を伸ばせば届くのは大事なことだからね」
カミラは気分を害した様子もなく、得意げにそう言ってのける。
聖剣錬成師はともかくとして、普通、精霊術師も魔道具師も整理整頓が命みたいな仕事なはずなんだが……彼女に限っては、その法則は当てはまらないらしい。
まあ、それでも腕だけは確かなので文句はないが。
「それで? 君の方こそ首尾よくゲイザーの魔術回路を得られたんだろうね?」
「当然だ」
言って、俺は
「ふむ……君のことだから心配はしていなかったが、完璧な状態だね」
彼女は満足げに呟いてから羊皮紙を受け取り、不敵な笑みを浮かべて見せる。
「任せたまえ。明日の朝までには、セパ君の
言いながら、カミラは既に自分の魔導鞄からいろんな道具を引っ張り出している。
さっそく作業にとりかかるつもりらしい。
さらに床の見える面積が減った。
「一応旅行先だし、あまり無理をするなよ?」
「分かってるさ。さあ、仕事だ。悪いが君たちは出て行ってくれ」
こうなると彼女はもう止まらない。
「ああ。じゃあ、また明日」
「カミラさん、お疲れ様っした!」
そんなわけで、部屋を追い出されてしまった。