パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第134話 『リタの決意』

 翌朝。

 

 カミラが俺たちの部屋の扉を叩いたのは、日が昇る前だった。

 

「……早いな。もうできたのか」

 

「ふふ……君の喜ぶ顔が見たくてね。あぁ、もちろんセパ君もね」

 

 なかなか嬉しいこと言ってくれるが、例によってカミラの目の下には大きな隈が浮かび上がっている。

 

 というかそれ以前に笑みが上手く作れていないし、どことなく目が虚ろだ。

 

 徹夜での睡眠不足もあるだろうが、どれだけ集中力を使って作業していたのやら。

 

「ありがたいが、まずはお前の睡眠が先だな」

 

 俺はため息交じりにそう言った。

 

 普段から寝不足気味の彼女だが、どうやら相当に無茶をしたと見える。

 

 このまま自動人形(オートマータ)の起動試験を行っても、その最中に倒れてしまいそうだ。

 

 せっかく頑張ってくれたというのに、成功するところを俺たちと一緒に見ることができないのならば意味がない。

 

 もっとも、彼女もその辺は分かっているようだ。

 

「……それはそうだね。部屋に戻って……少しだけ横になるとするよ」

 

 そう言って、踵を返し……グラリと身体が傾いた。

 

「おっと」

 

 そのまま倒れそうになった彼女を慌てて抱きとめる。

 

「む……少し足がもつれてしまったな。……ブラッド、君は幻影魔術が使えるようになったのかい? 君が三人に見えるんだが」

 

「そんなわけないだろ……」

 

 はあ……まったく、言わんこっちゃない。

 

 つーかこの状況、前にもあったような気が……

 

 

 この前は何も言わずにトレスデンまで来てしまったから、とりあえず今回は、夕食前には起こしてやるとするか。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「先輩、あたし決心したっス」

 

 カミラを彼女の部屋に連れてゆき寝かしつけたあと。

 

 リタたちとルームサービスにて朝食を摂っていたら、唐突に彼女がそんなことを言い出した。

 

 キリッとした表情で、スクランブルエッグをモグモグと頬張りながら。

 

「リタ、喋るのは食べ物を呑み込んでからにしなさい?」

 

 優しくたしなめるのは、テーブルの向かい側に座ったエキドナだ。

 

 彼女もまた、俺たちの部屋で朝食を一緒に摂ることになっていた。

 

 ……ちなみにエキドナの目当てはこの宿の卵料理だ。

 

 どうやらこの蛇魔族、以前自称していたとおり本当に卵に目がないらしく、嬉しそうに「美味しいわねえ、美味しいわねえ」と言いながらすでにスクランブルエッグを十皿ほど平らげている。

 

 ただ、視覚的に怖いから丸呑みはやめて欲しい。

 

 種族が違うのは分かっているが、彼女は顎の関節が外れて人族の三倍くらい口が大きく開く。

 

 なまじ美人なだけに、見ていると根源的な恐怖心を呼び起こされるのだ。

 

「っ、すいませんッス!」

 

 そんなエキドナの言葉に、リタが慌てて食べ物を呑み込んだ。

 

 ちなみにセバス氏は執事らしく俺たちのテーブルの側に控えているのだが、エキドナの捕しょ……食事シーンを見ても平然としていた。

 

「…………」

 

 この地は魔族が多く住んでいるから見慣れているのかもしれないが、その凛とした(たたず)まいは流石の一言である。

 

 それはさておき。

 

「で、その決心ってのはなんだ」

 

 俺はカリカリに焼いたベーコンをつつきながらリタに訊ねる。

 

「はい。兄さん……ダリオ兄さんのところへ行って、話をしてこようかと思っているッス」

 

「……そうか」

 

 どうやら彼女は自分の事情に決着をつけることにしたらしい。

 

 それがどういう結末になるかは分からないが、俺は彼女の意思を尊重したい。

 

「ふむ。決心に水を差すようで恐縮ですが、それはあまりいい考えとは思えませんな。あの刺客らしき者がダリオ様の差し向けた者の可能性が高い以上、話し合いができるとは思えませぬ」

 

 一方、セバス氏はリタに反対のようだ。

 

 彼は首を振りつつ続ける。

 

「それにお嬢様もご存じのとおり、ダリオ様はかなりの激情家です。直接話し合うのではなく、せめて使者を介する方がよいのでは?」

 

「それはダメッス」

 

 セバス氏が安全策を提案するも、リタは首を横に振る。

 

「使者なんて差し向けたら、その人が危険に晒されるッスよ。そもそもあたしは商会の跡を継ぐつもりはないし、それを話せば分かってくれると思うッス。まあ、たしかにダリオ兄さまはちょっと……かなりアレな人ッスけど……ああ見えて可愛い妹に刺客を差し向けるような性格ではないと信じてるッス」

 

「ですが……」

 

 確かにセバス氏からすれば、わざわざ大将を敵陣に突っ込ませるような愚策は避けたいに違いない。

 

「セバスさん、あたしはもう決めたんス」

 

 そう口にするリタの目は真剣だ。

 

 一応、俺も彼女の援護をしておくか。

 

「セバスさん。俺が同行する以上、リタに傷ひとつでも負わせるつもりはない。それは約束するよ」

 

「む……確かに第三者の立ち合いのもとであればダリオ様も無茶なことはしないと思いますが……」

 

 そう口にするも、セバス氏はかなり葛藤しているように見える。

 

 彼は長いあいだ目を閉じ唸っていたが……やがて諦めたように息を吐いた。

 

「……承知しました。お嬢様の決意がそこまで固いのであれば、立場上、私が無理に引き留めることはできません。ただし、ブラッド様だけでなく私どもも第三者の立場として話し合いの場に同席させて頂きます。よろしいですね?」

 

「……! もちろんッス!」

 

 そんな感じに話は進み。

 

 午後からダリオ氏の住む、ケルツの高級住宅街の一角へと向かうことになったのだった。

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