パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第135話 『遊び……人?』

「ここの先にあるのがダリオ兄さんの別邸ッス」

 

 ダリオ氏が現在住んでいるというこのケルツの高級住宅街は、街の外れの小高い丘の上にあった。

 

 とはいえ、住宅街はぐるりと周辺を高い塀に囲まれており、外から内部を伺いすることはできない。

 

 ここから見えるのは、わずかに屋敷の屋根の端っこくらいなものだ。

 

 俺とリタ、そしてセバス氏の三人で、その塀の外、守衛が厳重に警備している門の前にいた。

 

 ちなみにこのエリアには武装して立ち入ることはできないとのことだったため、聖剣たちは宿でお留守番である。

 

 ……服に仕込んだ魔法陣を持参しているのは内緒である。

 

 まあ、使用することがないことを祈るばかりだ。

 

「ずいぶんと厳重な場所だな。入ったら出てこられなさそうだ」

 

 それが俺の率直な感想だ。

 

 まず最初に思い浮かんだのが、王都にある犯罪者たちを収容している監獄だ。

 

 あそこも周囲を高い塀に囲まれていて、外からも内部からも反対側をうかがい知ることができないような構造になっていた。

 

 ケルツの街自体は荒野の真ん中にあるせいか開放感があるが、ここは真逆だ。

 

「この住宅街には有力商人の邸宅や諸外国の貴族の方々の別邸が立ち並んでおります。本来ならば誰もが自由に行き来できるようにすべきなのでしょうが……街の方の治安を鑑みると、このように関係者以外が入れないようにすることが必要だったのです」

 

「なるほど」

 

 たしかにケルツの街はそこまで治安が良くないと聞く。

 

 だからこうやって住宅街を塀で囲って悪いヤツらが入れないようしているのは極めて合理的な考えだ。

 

 まあ、俺はいくら豪華で内部で何でも揃うとしても、こんな狭っ苦しい場所に引きこもって生活したくないが。

 

「あたしはあんまりこの中入りたくないんスよね……なんだか息がつまる気がして」

 

 リタも俺と同じような感想を抱いているようだ。

 

「ダリオさんはそういうの気にならないタイプなのか?」

 

「うーん……あたしの知ってる兄さんはかなりの遊び人だから、こういう場所に引きこもるタイプじゃないんスけどねえ……そもそも自宅は別にありますし。でも、最近はここの別邸に移ったまま引きこもって、ずっと出てきてないらしいんスよ」

 

「そうなのか」

 

 となれば、彼がここに滞在している理由は自ずと知れる。

 

 十中八九、跡目争いだろう。

 

 ただでさえ暗殺者らしきヤツを差し向けてきているのだ。

 

 ダリオ氏が人としてまともな感覚を持っているのならば、敵方の暗殺や襲撃を恐れて警戒が厳重な場所に引きこもるのは当然の行動だ。

 

 ただ……リタやセバス氏には言っていないが、俺はあの魔剣持ちが本当にダリオ氏の息がかかった暗殺者なのか未だに疑っている。

 

 根拠はない。

 

 今のところはただの勘だ。

 

 だからこそ、二人には伝えられないわけだが……ダリオ氏に会うことができるのならば、ある程度事情が分かるだろう。

 

 会えるならば、だが。

 

「……さて、お嬢様、ブラッド様。ダリオ様から入場の許可を頂きました。さっそく参りましょう」

 

 と、リタと話しているとセバス氏が戻ってきてそう言った。

 

「意外だな。断られるかと思った」

 

「……私も意外ではあります。ですが、許可が出た以上お嬢様と対話する意思があると考えて良いのではないかと愚考いたします」

 

「俺やあんたが同行する旨は伝えたんだよな?」

 

「もちろんです」

 

「そうか……」

 

 これで意図が読めなくなった。

 

 まともな感覚をしているのならば、敵対している相手と会おうなんて思わないはずだ。

 

 しかしダリオ氏は、護衛である俺やセバス氏を含めてリタと会うと言っている。

 

 自分の安全に絶対の自信があるのか。

 

 それとも、自分のテリトリーで俺たちを効率的に排除するつもりなのか。

 

 

 あるいは、俺の勘が正しいのか。

 

 

 いずれにせよ、直接会って確かめなければ分からない。

 

「先輩、いざというときは頼らせてもらうッスからね? もちろんセバスさんも」

 

「ああ、任せとけ」

 

「もちろんです、お嬢様」

 

 そんな会話を交わし、俺たちは塀の内側へと入った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「リタ様、ブラッド様、セバス様。ようこそおいで下さいました」

 

 大きな邸宅のエントランスホールで、美しいメイドが深く頭を下げた。

 

 

 ダリオ氏の別邸とやらは、存外に質素で、そして綺麗だった。

 

 リタの言っていた『遊び人』を匂わせる要素は皆無だ。

 

 外から佇まいは、他の屋敷や邸宅に溶け込んでいる。

 

 簡素なデザインの(しかし質の良い木材があしらわれた)扉を開き邸内へと足を踏み入れる。

 

 開放感に満ち溢れた二階まで吹き抜けのエントランスホールと、その真ん中に立った美しいメイドが俺たちを出迎えてくれた。

 

 ホールの真ん中には来客用とおぼしきソファとテーブルが並べてあり、その奥両脇には二階へと続く湾曲した階段が続いている。

 

 それ以外には何もない。

 

 もっと、派手な絵画だとか趣味の悪い裸婦の彫刻だとかがこれ見よがしに並べてあるものかとばかり思っていたのだが。

 

 まあ、この邸宅は『別邸』ということだから、家具などはそこまでこだわっていないのかも知れない。

 

「ダリオ様は二階の書斎にいらっしゃいますので、私がご案内させて頂きます。皆さま、どうぞこちらへ」

 

 メイドに案内されるまま、ダリオ氏がいるらしき書斎まで向かう。

 

「こちらです。中でダリオ様がお待ちです」

 

「じゃあ、あたしから入るッス」

 

「ああ。何か危険を感じたらすぐに合図しろよ」

 

「了解ッス」

 

 そんなやりとりを交わしたあと、リタが扉を数回ノック。

 

 人の気配はある。

 

 しかし返事はない。

 

「兄さん、入るッスよ」

 

 だが、リタは特に気にせず扉のノブを回して部屋の中に入った。

 

 俺とセバス氏は彼女から離れずに一緒に中に入る。

 

「…………」

 

 部屋の内部は、積み重なった書物で埋まっていた。

 

 なんだこれ。

 

 一瞬あっけに取られる。

 

 これではまるでカミラの部屋だ。

 

「…………」

 

 そしてその一番奥の執務机に、齧りつくようにして座っている若い男の背中が見えた。

 

 何かの書物を一心不乱に読み込んだり、ノートらしき書物に何かを書き込んだりしている。

 

 集中しているのか、こちらに気づいた様子はない。

 

「兄……さま?」

 

 なぜか困惑気なリタの声で、男――おそらくダリオ氏が、ぴたりと動きを止めた。

 

 それからゆらりとこちらに顔を向ける。

 

「……リタか」

 

 歳は二十代半ばくらい。

 

 髪を七三に撫でつけ細長の縁無し眼鏡をかけた、真面目そうな男だ。

 

 

 ……ちょっと待て。

 

 

 ダリオ氏って、ものすごい遊び人だったよな?

 

 なんか聞いてたイメージと違う気がするんだが?

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