パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第137話 『哀れな侵入者』

「なるほど、先生とブラッド殿はそういうご関係でしたか! これは大変失礼をいたしました!」

 

 場所を書斎前の廊下から応接室に移動し、俺たちはノンナ……もといノスフェラトゥを交えて、テーブルを囲んでいた。

 

 ちなみにこれまでと違う点は、上機嫌のダリオ氏が彼女の隣に座っていることである。

 

 ちなみにローレッタさんもダリオ氏の隣に収まっている。

 

 なんだこれハーレムか?

 

 それはさておき、さっきの塩対応とは打って変わって俺たちは完全にお客様扱いである。

 

 セバス氏なんかは、ダリオ氏のあまりの手のひら返しっぷりに面食らっていたようだが……今は自分の役目を全うすべく静かにリタの背後に立っている。

 

 ちなみに俺は今、なぜかリタの隣に座らされている。護衛とは。

 

 まあ座っていようが仕事に支障はないがな。

 

「先輩……ノンナさんとお知り合いだったんスか? 結構お偉いさんッスよ!?」

 

 リタも意外だったのか、俺に耳打ちしてくる。

 

 とりあえず俺と『ノンナ』の関係は、先日ダンジョンに潜った際に魔物に襲われていた彼女たちを助けた、というのが初対面だということになっている。

 

「いや……さっきも言ったろ。ちょっと先日潜ったダンジョンでな」

 

「あやしいッス……」

 

 なぜかリタがジトっとした目で俺を見てくる。

 

 勘のいい奴め。

 

 だが断じてお前の想像してそうなアレやコレではないぞ。

 

 むしろ逆だ。

 

「そこのブラッド……殿には、ダンジョンで魔物に襲われていたところを助けられてな。とても……とても世話になったのじゃ。ほ、本当にそれだけの関係じゃよ?」

 

 どうやらノスフェラトゥの方も自分の正体がバレるのはマズいと考えているらしく、しきりに目配せをして俺の言うことに口を合わせている。

 

 それにしてもコイツ演技が下手すぎないか?

 

 セリフは噛み噛みの棒読みだし、顔は真っ赤で汗びっしょり。

 

 当然目は泳ぎまくりだ。

 

 俺としては別にコイツの正体が今ここでバレてどうなろうが知ったことではないが……

 

 ただでさえ跡目争いだとか魔剣持ちの襲撃がどうだとか事情が込み入っているのに、ここでさらに混沌の種を芽吹かせてしまうと本当に収拾がつかなくなってしまう。

 

 とりあえず、ここは静観の構えで行こうと思う。

 

「それで……兄さんはノンナさんを『先生』と呼んでいるッスけど、そもそもこの人とはどういう関係なんスか?」

 

 と、リタがいきなり本題に斬り込んできた。

 

 彼女はその辺を忖度する性格ではないのは知っていたが……なんでコイツ、ちょっとむくれてるんだ?

 

 もしかしたら、自分だけが知らない事情があるのが気に入らなかったからだろうか?

 

 それならば、まあ気持ちはわかるけどな。

 

「それについては、俺が説明しよう」

 

 と、リタの質問を受けてそう切り出したのはダリオ氏だ。

 

 彼は続けてぶっちゃけた。ドヤ顔で。

 

「何を隠そう、ノンナ先生は魔族なのだ! そして俺の恩人でもあるのだよ」

 

 …………。

 

 俺の心労はなんだったんだ。

 

「…………」

 

 ノスフェラトゥの虚無顔については、言うまでもないだろう。

 

「そうだったんスね! 確かにノンナさんは凄腕の魔術師だって聞いてたっスから、納得ではあるッスけど」

 

 一方、事情を知らないリタは疑問がちょっとだけ氷解したせいか、ひとりニコニコ顔だ。

 

 もちろんここは王国ではないので、ノスフェラトゥが魔族だからと言って大商会の幹部的な立場にいてはいけない理由はない。

 

 俺としては正直どうでもいいのだが……それとは別に気になる事がある。

 

 ダリオ氏がノスフェラトゥのことを『命の恩人』と呼んでいるのはどういうことだ?

 

「それと、俺と先生との劇的な出会いについてだが……これも知りたいか? 当然知りたいだろうな!」

 

「当然ッスよ!」

 

 リタも俺と同じ考えのようだ。

 

 というかダリオ氏はヤツとの出会いについて話したくて仕方ないようだ。

 

 ならば俺もその流れに乗ってしまおうと思う。

 

 

 ……だが。

 

 

「ふむ。だがその前に、少々片付けなければならない用事があるようだ」

 

 と、ダリオ氏の顔つきが変わった。

 

「そうみたいだな」

 

「えっ……えっ?」

 

 リタを除く全員で顔を見合わせ、頷く。

 

「すでに邸宅の中に侵入されているようだ。なるべく安全な場所を選んだつもりだったが……ここもダメか。身の回りの世話をローレッタだけに任せていたのは、不幸中の幸いだったな」

 

 ダリオ氏が忌々しそうに呟く。

 

 彼の言う通り、複数の者がこの部屋を目指しゆっくりと近づいてくるのが分かった。

 

 物音も気配もない。

 

 だが、ここまでうっすら漂ってくる瘴気の臭いまでは隠しきれていない。

 

「リタ。聞くが、これはお前の差し金ではないんだな?」

 

 ダリオ氏がリタに訊ねる。

 

「……? どういうことッスか!?」

 

「……知らないのならばいい。……セバス、お前とも関係ないんだな?」

 

「もちろんです」

 

 セバス氏が頷いた。

 

「ならば協力しろ。アイツら……本当にしつこいのだ」

 

 辟易とした様子でダリオ氏がため息を吐く。

 

 それと同時だった。

 

「…………」

 

 応接室の四隅に、黒い影が現れ……人の形をとった。

 

 全部で四人。

 

 全員禍々しい形状の剣を持っている。魔剣だ。

 

 その中には、見た顔もあった。

 

「よう、猫背野郎。また会ったな」

 

「……あの時の者ですか」

 

 セバス氏が険しい顔になる。

 

「連中の持っている武器は多分すべて魔剣だ。絶対に触れるな。おそらく強力な呪詛か毒が仕込んである。……リタは俺の側から離れるな」

 

 一応全員に忠告しておく。

 

「……魔族は死ね。邪魔するやつは殺していい」

 

 ボソリと呟いたのは、エキドナを襲撃した猫背の男だ。

 

 立ち位置からすると、どうやら今回はリーダー的役割らしい。

 

「……やれ」

 

「「「…………!」」」

 

 男の合図とともに部屋中に殺気が充満する。

 

 次の瞬間、そいつを除く三人が一気に襲い掛かってきた。

 

 

 だが、相手の武器が魔剣だと判明していれば対処は容易い。

 

 俺は懐から魔法陣を描いた紙片を取り出し、床に押し付ける。

 

 パリッと魔力光が走り、俺の手に即席の『聖剣』が出現していた。

 

 もっとも、素材が床板なので聖剣とはいえ刃のないナマクラだ。

 

 なので正確には聖剣というより鈍器だが、相手を鎮圧する分にはこちらの方が都合がいい。

 

「死ねっ!」

 

「そんなへっぴり腰で人が殺せると思ってるのか?」

 

 猛然と斬りつけてきたヤツの攻撃を躱し、そのままそいつの両手を聖剣(木)で粉砕する。

 

「お、俺の腕がああぁぁっ!?!? ぐへぁっ!?」

 

 痛みで絶叫しのたうち回る魔剣持ちの顔面に蹴りを叩き込み、沈黙させる。

 

 ふん、やはり大したことないな。

 

 魔剣持ちはその剣の力に頼りきりで、肝心の剣術がおろそかだ。

 

 正直、俺からするとこれほどやりやすい相手はない。

 

 と、そのとき。

 

「……()アッッ!!」

 

「げはぁっっ!?!?」

 

 誰かが発した裂帛の気合のあと、ドゴン、と衝撃音。

 

 直後、俺のすぐそばをすごい勢いで人間が吹っ飛んでいくのが見えた。

 

 もちろん魔剣持ちだ。

 

 そいつは応接室の壁をぶちぬいて、隣の部屋に突っ込み……起き上がってくることはなかった。

 

 やったのはセバス氏……と思ったが違う。

 

 というか、すでに彼の足元に手足がねじ曲がった魔剣持ちが一人倒れている。

 

 と言うことは……

 

「フン。他愛のない奴らだ」

 

 やったのはダリオ氏だったようだ。

 

 彼は鼻を鳴らしながら、自分の乱れた襟を正しているところだった。

 

 

 おお……意外とダリオ氏はやるようだ。

 

 

「さて、残るはお前だけだが? 猫背野郎」

 

「ぐぬっ……!」

 

 

 けしかけた奴らを全員倒され、猫背の男が険しい顔で歯ぎしりをした。

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