パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
「フン、他愛のないやつらだ。以前身代金目当てに俺を誘拐しようと襲ってきたゴロツキどもの方がよっぽど骨があったぞ?」
ダリオ氏が冷徹に言い放つ。
「ぐっ……だから俺だけで十分だと言っただろうに」
猫背男が悔しそうに歯ぎしりしているが、撤退する様子は見られない。
……あいつ、まだ諦めていないな。
そう疑う証拠はある。
魔剣の一本は先日見た陰に潜るヤツだが、もう一本はこの前持っていたものとは違うものだったからだ。
デザインは似通っているが、その剥き出しの刃の紋様は以前のものと微妙に違う。
ただ、どんな能力は分からない。
この前と同じ『斬りつけた場所に穴をあける』力ではないと思うが、同等かそれ以上の力のはずだ。
できればあの魔剣を無効化したいところだが……俺はセパを持ってきていない。
そして言うまでもないことだが、あの猫背男は先ほど倒した三人と比べて格段に強い。
とはいえ、である。
こちらにはダリオ氏だけでなくセバス氏もいる。
ノスフェラトゥは戦力に含めていいか分からないが……まあ、そう簡単に死ぬヤツではないはずだ。
要するにこの猫背男、この場に足を踏み入れた時点ですでに詰んでいる。
あとはどう料理されるのかの問題だ。
とはいえ、当の本人はまだそのことに気づいていないようだが。
「汚らわしい魔族に与する奴らは……全員死ね!」
そう叫んで、ノスフェラトゥに襲い掛かった。
「フン、高潔かつ清廉な先生のどこが汚らわしいというのだ! ……理由は知らんが先生には傷一つ付けさせん。仇なす輩は全員叩き潰すだけだ」
と、そこに立ちふさがったのはダリオ氏だ。
ってオイオイ、アイツ言ってる側から……
「邪魔をするな!」
猫背男がダリオ氏に斬りかかった。
「ダリオさん! そいつは魔剣持ちで――」
「そんなことは承知の上だ! ……
だが彼は、なんとその攻撃を腕で受け止め――そのまま身体を猫背男の懐に滑り込ませると、強烈な体当たりを食らわせた。
「なんだとっ!? ……ごへあっ!?!?」
ドゴン! と人体からはしてはいけない音がヤツの腹から響いてくる。
そして――
猫背男は衝撃で吹っ飛ぶわけでもなく、白目を剥きその場に崩れ落ちた。
これはつまり、ダリオ氏の放った体当たりによる衝撃が余すところなく猫背男の身体に浸透したことを示している。
これでは、どんなに猫背男が強くても耐えきれるものではないだろう。
……俺も工房時代に、ふらりと訪れた格闘家にこの手の技を見せてもらったことがある。
たしかそいつは、体術を極めると体内に流れる『気』を自在に操ることができ、それを敵に叩き込むことでダメージを与える技があるとかなんとか言っていたが……まさに今ダリオ氏が見せたのがそれだ。
もっとも、その後彼は懇々と気の流れだとか体内の力の移動方法だとかを説明していたのだが、結局聖剣錬成に全く応用できない技術体系だったので細かいことは忘れてしまった。
「ほう……『鋼体』のみならず『崩撃』までも完璧に身につけていたとは……あれからきちんと研鑽を積んでいたわけですか。お見事です」
感心したような声を漏らしているのはセバス氏だ。
そういえばこの人はリタとダリオ氏に拳闘やら近接格闘術やらを教えていたんだったか。
ならば、この戦闘力は納得ではある。
それはさておき。
「うへぁ……これ、絶対内臓イッてるッスね……」
ドン引きした様子で、リタが俺の背後から顔を出し、倒れた猫背男を眺めている。
「ふん。これで賊の始末は完了だな」
クールにそう言って、乱れた服装を直すダリオ氏。
「お見事です、ダリオ様」
これにはセバス氏もニッコリだ。
とりあえず、彼の中でダリオ氏の印象がだいぶいい方向に傾いたように見える。
それにしても……
大商人の時期当主候補かつ褐色クール風イケメンかつ頭脳明晰(これはまだ疑わしいが)で近接格闘もできるとか完璧超人か?
もうコイツがネメシオ商会の時期当主で決まりだろ。
誰ももう反対してないしリタも職人の道歩みたがってるし……
……などと思っていたら。
「ちょっ、兄さん! その腕……!?」
「む? おぉっ!? なんかどんどん腕が捻じれてきてるぞ痛い痛い痛い痛いっ!?!?」
案の定。
魔剣の力なのか、ダリオ氏が猫背男に斬りつけられたところから徐々にではあるが腕が捻じれてきているのが見て取れた。
このままだと多分、今日中には身体中が捻じれて死ぬことになるだろう。
推測だが、この猫背男はこの魔剣の力で俺たちを戦闘不能にしたうえで、おそらくノスフェラトゥをどこかに連れ去るつもりだったのではないだろうか。
それにしても、やはり魔剣だけあってエグい力だ。
「ダ、ダリオ様ーーっ!?!?」
「あ、あなたっ! いつもそうやって無理をするから……!!」
セバス氏とローレッタさんが慌ててダリオ氏に駆け寄るがなす術がない。
「むう……これは相当に強力な呪詛じゃな。ある程度時間があればどうにかできるのじゃが……解呪するよりお主がねじ切れて死ぬ方が早いのじゃ」
「先生っ!? では俺はどうすれば!?!?」
はあ……だから言わんこっちゃない。
前言撤回。
多分この人、外面が良くてケンカが強いだけのただのアホだ。
とはいえ、ここで彼が死んでしまうとリタが商会の次期当主に確定してしまう。
それは彼女の本意ではない。
「ダリオさん、そいつは通常の手段では解呪できん。……ちょっと待ってろ、今からそいつを『切断』できる
「それは……俺がねじ切れて死ぬまでに間に合うのだろうか……」
『呪詛』と聞いてさすがにビビったのか、ダリオ氏が息も絶え絶えで聞いてくる。
もちろん間に合うだろうが、呆れていた俺はあえて冷徹に言い放った。
「知らん。俺が間に合うよう祈ってろ」
とはいえ、さすがに俺も誰かが呪詛でねじ切れて死ぬ凄惨なシーンは見たくない。
急ぐとするか。
しかし、ここから宿までだいぶ距離があるが、本当に間に合うだろうか……(間に合った)