パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第140話 『オーバーライト』

「『短命の呪詛』? なんじゃそれは」

 

 俺の言葉に、ノスフェラトゥがキョトンとした顔を返してくる。

 

「実際の名前は分からん。人の寿命を極端に短くする呪詛や魔術の仮称として、『短命の呪詛』という言葉を使った。お前の立場ならおそらく知っていると思うが……ネメシオの一族は概して短命だそうだ。リタの年齢ならともかく、ダリオさんの歳ならばすでに亡くなっていてもおかしくはないと聞いている」

 

「ああ、そうだ」

 

 ダリオ氏が頷く。

 

「俺は子供のころから自分の先の無い人生に絶望し、退廃的な生活を送っていた。だが先生に出会い、『眷属化』による厳しくも優しい指導のおかげで心身の健康を取り戻すことができたのだ。おかげで兄や姉が亡くなった歳を越えてもなお、こうして元気でいられている」

 

「それはちょっと違うと思うがの……」

 

 ノスフェラトゥが微妙な顔をしているが、ダリオ氏は気づいていない。

 

「じゃが……うむ、そういうことか。まあ、一族の皆が短命だというのはそこのダリオから聞いてはおる。もっとも一族のそれが呪詛によるもの……という発想はなかったがのう」

 

「呪詛……? 先輩、どういう事ッスか?」

 

 リタが困惑したように話しかけてくる。

 

 まあ、当然だな。

 

 彼女だってネメシオ家の者だ。

 

 今のところ元気に振舞っているが、気にならないわけがない。

 

「もちろん普通は、魔族が人族を眷属としたところで呪詛が解けたりすることはない。むしろ眷属化と呪詛が重複して悲惨なことになるだけだ。だが、ノス……ノンナは、今は『元』が付くが『不死魔族』だ」

 

「なんと、先生は不死魔族だったのですか!? 上級魔族の中でも極めて希少で高貴だという……その『眷属』だなんて、俺はなんと運のいい男なのだ!」

 

 ダリオ氏はとても嬉しそうだった。

 

 王国で生まれ育った俺としては、このお方の感覚はビタイチ分からんが……まあ幸せそうなので何もいうことはない。

 

「ぬぐ……なぜかダリオの無垢な笑顔が胸に刺さって痛くてたまらぬのじゃ……」

 

 一方ノスフェラトゥは苦悩に満ちた顔をしたが……すぐに彼女は真面目な顔に戻り、俺の方を見た。

 

「それはともかくとして、じゃ。正直、妾にも理屈が分からぬのじゃ」

 

 まあ、無理もない。

 

 この話は、呪詛や状態異常系魔術だけでなく多少なりとも聖剣錬成や精霊魔術に関する知識がなければ、関連性に気づくことすら難しいだろう。

 

 まあ、俺もカミラのように専門家ではないからさわり(・・・)だけではあるが。

 

「眷属化の魔術とは、その魔族が持つ特性に準じた能力が付与されるのが最大の特徴だ。ここまではお前もよく知っているだろう?」

 

「うむ」

 

「つまり『不死魔族』ならば、眷属は不完全とはいえ『不死』の力を持つことになる。一方『短命の呪詛』は対象を死に至らしめる力だ。どちらも強力だが、魂そのものに作用するという意味では『不死』と『死』の力はある意味同等(・・)だ」

 

 この考え方は聖剣錬成における『魂への力の付与』の観点から推察したものだが、大きく間違ってはいないだろう。

 

「……なるほど、そういうことなのじゃな」

 

 ようやく合点がいったというように、ノスフェラトゥが大きく頷いた。

 

「ああ」

 

 俺は頷いて、ダリオ氏を見た。

 

「その結果、表面上は『眷属化』により呪詛の力が無効化された状態が続き、ダリオさんは短命に終わる運命から一時的に脱することができている、というわけだ。……それを、俺は『上書き』したと表現した」

 

「な、んだと……」

 

 と、ダリオ氏がワナワナと震え、後ずさった。

 

「なんと……俺の中で今もなお、『生』と『死』がせめぎ合っているというのか……なんというか、ものすごくカッコいいな……」

 

「ダリオ様……」

 

「貴方……」

 

「あぁ、そういう結論になるんスね……まぁ兄さんらしいッスけど」

 

 ダリオ氏のあまりにすっとぼけた感想に対しセバス氏とローレッタさん、そしてリタは呆れた表情をするしかなさそうだったが、同時にどことなくホッとした様子も見て取れた。

 

「しかし……そうとなれば、余計にノンナ様を襲撃した賊どもの罪は重いですな。ダリオ様を暗殺しようと試みたのと同義ですから、我々商会としては万死に値する。どこの商会の差し金とも知れませんが、まさかそれを狙って……?」

 

「気持ちは分かるが、待ってくれセバスさん。おそらく魔剣持ちどもの目的はノンナだけだ。この状況は偶然起きただけだろう」

 

 まあ、他の商会と連中(・・)が組んでいることは考えられなくもないが……その可能性は低いだろう。

 

「どういうことでしょう?」

 

 セバス氏が疑問を呈す。

 

「それはだな……話せることと話せないことがあるんだが、とりあえずかいつまんで説明する。実はだな――」

 

 

 俺の見立てはこうだ。

 

 

 現在、王国では裏社会を中心に『魔剣』が出回っている。

 

 それ自体も問題なのだが、それよりも危惧すべきなのは、その魔剣の素材をどこで調達しているか、ということだ。

 

 そして、魔剣の素材の一つとして『魔族の魂』を用いているのが分かっている。

 

 だが、王国には魔族がほとんどいない。

 

 そして数少ない王国内の魔族はそれなりの地位にいたり強力な連中なので魔剣持ちの組織ではとても手が出せない。

 

 そこで、魔族の魂の調達先をどこに求めたか、というわけだ。

 

 ここまで来れば、皆が察した顔になった。

 

「つまりは、トレスデンということですか」

 

「おそらくは」

 

「…………なんということを。これは我が商会だけでなく国家間の一大事ですぞ。一刻も早く『四大総会』に報告しなくては」

 

 セバス氏が深刻そうな顔で、この場を辞そうとする。

 

「まあ、待てセバス」

 

 そこに待ったをかけたのは、ダリオ氏だった。

 

「魔剣持ちの組織のこちら側の本拠地は、捕らえた連中に吐かせれば分かるのだろう? ならばこれは好機ではないか?」

 

「ダリオ様、それは危険ですぞ」

 

「いいかセバス。俺は今後ネメシオ商会を背負って立つ男だ。今はその器ではないかもしれないが、必ずそうなってみせる。その第一歩として、身内に手を出した連中に目にものを見せてやるというのは悪くないだろう。違うか? セバスよ」

 

「それは……」

 

「国の民に仇なす輩を退治すれば、ネメシオ商会が他商会より発言力を増すための足掛かりとすることもできるだろう。俺は奴らを叩く。……そもそも先生に悪意を向けた奴らに手ずから制裁を加えずにいるなど我慢できん。協力しろ、セバス」

 

 言って、ダリオ氏はセバス氏に手を差し出した。

 

 どうやらダリオ氏はトレスデン国内で暗躍する魔剣持ちを退治する決意を固めたようだ。

 

 個人的にも、リタの周囲に魔剣持ちがうろつかれると面倒だからな。

 

 そうしてくれるのならありがたい。

 

「……分かりました。私も協力いたしましょう」

 

 彼の心意気が伝わったのか、セバス氏は大きなため息をつきつつも彼の手をグッと握った。

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