パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
「ブラッド殿、ご苦労だった。あとは我々で対処する。そうでなくては意味がないからな」
魔剣持ちの尋問(傷一つ付けていないので尋問である)から得た情報の報告を受け、ダリオ氏が決意に満ちた表情で頷いた。
――アジトはスラム街の奥にある、廃屋のひとつだそうだ。
ここまでは他の雑魚魔剣持ちからも得られた情報だ。
しかし彼の自白により、そのさらに奥に魔術により隠蔽された扉があり、そこからダンジョンじみた地下空間へ通じていることが判明した。
最近ケルツでは魔族だけを狙った殺しや行方不明事件が立て続けに何件もあったそうだが(人探し依頼はケルツ冒険者ギルドでも見た記憶がある)、そのほとんどが魔剣の素材に使う魔族の魂を収拾するためだったようだ。
まあ、なんというか……
その他で判明したのは、アジトの内部構造や敵の大まかな配置、所持している魔剣の力、それに現地の指示役の呼称などだろうか。
この一件で黒幕まで辿り着くことができるかと言うと難しそうだが、アジトを叩き潰すだけならばそれでも十分な情報だ。
聞けば、ダリオ氏は高ランク冒険者や腕利きの傭兵を集めた私設兵団を所有しているらしく、彼らとともに急襲をかけるつもりのようだった。
さらにはセバス氏と黒服たち、そしてノスフェラトゥも参戦するとのことで、さしもの魔剣持ちどもも勝ち目はないと思われる。
この掃討作戦が成功すれば、連中がこの国で大っぴらに活動することは難しくなるだろう。
で、そうなると気になるのは。
「セバスさん。リタの護衛依頼はどうする?」
「相手の目的がはっきりした以上、お嬢様が危険な目に遭う可能性はほぼなくなったかと思われますが……せめて今夜まではお願いしたく思います」
つまりは今晩ですべてのカタをつけるつもりらしい。
とはいえ、他のアジトが存在する可能性もあるし、残党からの報復を受ける可能性もある。
自分たちが戻ってくるまでは依頼継続で、という意味だろう。
俺としても、事が完全に終わるまでリタの側にいる方が安全だと思う。
「分かった」
「ありがとうございます」
「では、セバス、先生。すまないがよろしく頼む」
「もちろんですとも」
「魔族の魂の力で呪詛を付与した剣なんぞ片腹痛いというものじゃ。
「先生がいれば百人力です」
「うむ、苦しゅうないぞ」
「…………」
先日ダンジョンでミノタウロスに殺されかけていたとは思えないドヤっぷりだが、さすがにそれを蒸し返すのは野暮というものだろう。
おおかた、魔族の魂を剣に封じる術式や付与する呪詛の中に自分の不死を取り戻すヒントを見つけようとしているのだろうが……俺の知ったことではないし、まあ好きにやればいい。
「それじゃあ、あたしたちはこの辺で失礼するッス」
「うむ。リタ、お前は自分の信じる道を進めばいい。商会のことは俺に任せておけ」
「無理しちゃダメッスよ?」
自信満々の顔でダリオ氏が頷くと、リタが苦笑して見せた。
とはいえ、心配する様子はない。
彼女も先ほどの一件でダリオ氏を見直したのかもしれない。
「じゃあ、宿に戻るか」
「はいっス!」
そんなわけで、ネメシオ商会の跡目争いは一応の決着を見せたのだった。
◇
「また……まただ! なぜ私を起こさず置いていくんだブラッド! 本当に……本当に君という男は……!!」
「カミラさん、落ち着いてください! 理由は私が話したでしょう!?」
「しかし……! 離してくれエキドナ! この男……ブラッドとは、ここでしっかり
「お話って……その手で光っている魔術はなんですか!? それ、私には攻撃魔術にしか見えないですよ!?」
宿に戻ったら、カミラが大層ご立腹だった。
俺の顔を見るなりいきなり襲いかかってきたのだが、すんでのところでエキドナが彼女に巻きつきストップをかけた。
そのあたりはさすがは蛇魔族である。
長い胴体を有効活用し、おそらく身体能力強化用のインナースーツを着込んだままのカミラをどうにか押しとどめている。
ちなみに宿に戻ったあと、すぐカミラの部屋に様子を見に行こうとしたところ廊下でエキドナとばったり出くわしたのだが、なぜか彼女は妙に慌てた様子だった。
そこで彼女に話を聞いてみれば、どうやらカミラは俺たちがダリオ邸に向かったあとすぐに目を覚ましたらしい。
そして俺たちに置いて行かれたことに憤慨していたそうだ。
とはいえ行き先までは分からず、その後は同じく宿で退屈していたエキドナに愚痴ったりしつつ俺たちの帰りを待ち(同じ魔道具職人だったせいかすぐに意気投合したそうだ)……こうして帰還した俺に食って掛かっているというわけだ。
良かれと思ってのことだったが、完全に裏目に出てしまったようだ。
おまけにこれで二度目だからな……
なんとなく、俺も言い返しづらい。
「悪かったって。お前があまりにも可愛い寝顔だったから起こせなかったんだよ」
「なっ…………!?!? そんな甘言で私が絆《ほだ》されるとでも……もっと言いたまえ!」
ボン、と一瞬で顔を真っ赤にしたあと、目をグルグルさせながら訳の分からない返しをしてくるカミラ。
「なっ……!? さらに力が強くなった……ですって!?」
カミラがグググ……と再び前進を始め、それでもどうにか押し止めていたエキドナの口元が引きつった。
手の魔術は消えているが、なぜかカミラの吐息が荒ぶっていて怖い。
しまった……場を和ませるためのちょっとしたジョークのつもりだったのだがどうやら俺は彼女のリミッターを外してしまったらしい。
「先輩、カミラさん……もうお腹いっぱいなので……そろそろいいッスか……」
虚ろな眼差しで俺たちの騒ぎを眺めていたリタが、うんざりしたようにぼやいた。
『そうですよ、ご主人! さっさとお義母……カミラ様に謝って私の身体を大きくしてください!』
『マスター、あーしも仲間に入れてもらっていいー?』
「ややこしくなるからお前らは黙ってろ!」
宿に戻ったセバスから魔剣持ちどものアジトを壊滅させたとの報が入ったのは、その深夜のことだった。