パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第147話 『ファビオ氏の告白』

「…………お前たち」

 

 目を開いたファビオ氏が口を開く。

 

 深く低い、しかし老人にしてはよく通る声だった。

 

「父さん!」

 

「親父!」

 

 リタとダリオ氏が急いで駆け寄る。

 

 二人とも顔をくしゃくしゃにしてファビオ氏に縋りつき、人目をはばからず号泣している。

 

「お前たちには……心配をかけたな。……すまなかった」

 

 半身を起こし二人の頭を優しく撫でるファビオ氏の顔はどこまでも優しい。

 

 他の幹部たちもその様子を見て感極まったのか、みな声は出さないものの天を仰いだり目元を抑えたりしている。

 

 先ほどセバス氏に連行されていったバル某は置いておいても、ファビオ氏の人望はたいそう(あつ)かったようだ。

 

「…………」

 

 そんな中、ノスフェラトゥ扮するノンナだけはなぜか食い入るような視線を俺に向けていたのが気になった。

 

「それにしても、これはどういうことだ。身体が随分と軽い。誰か……私に何かしたのか?」

 

 ファビオ氏はダリオとリタの頭を撫でつつも部屋をぐるりと見渡し、そして俺のところで視線が止まった。

 

「そちらの御仁……か」

 

 さすがは大商会のトップ。

 

 一瞬で見抜かれた。

 

 もっともこの場でネメシオ商会の関係者でないのは俺だけだから、当然ではあるが。

 

「親父、この方は聖剣錬成師のブラッド殿だ。親父の身体に巣食う呪詛をあの聖剣で(はら)ってくれたのだ」

 

 目に涙を湛えたままのダリオ氏が俺を紹介してくれる。

 

 ちなみにセパは気恥ずかしかったのか、気づかないうちに実体化を解き静かにしている。

 

 もしかしたら、いつものようにこの場面でドヤるのはまずいと思ったのかもしれない。

 

 そうであれば正しい判断だ。

 

「ブラッド……殿、であるか。まさか、そのようなことが可能だとはな」

 

「……話すと長くなりますから詳細は省きますが、俺の聖剣――『セパ』ならばたいていの呪詛は断ち切ることができます」

 

 言って、すでに腰の鞘に納めた『聖剣セパ』をポンと叩く。

 

「そうか……ならば、礼を言わねばなるまい。ブラッド殿……私の命を救ってくれたこと、感謝してもしきれぬ」

 

「いえ、これも仕事の一環ですから」

 

 もちろんリタのためでもあるが、この状況はセバス氏の依頼に基づくものだからな。

 

 報酬の交渉は……これからだが。

 

「ふむ。仕事、であるか。となれば、バルダーノが? 今、ここにいないようだが」

 

「いいや、親父。彼はセバスが手配してくれたのだ」

 

 ファビオ氏の不思議そうな顔で察したのか、ダリオ氏が俺の立場を補足してくれる。

 

「バルダーノ本部長の件はあとで説明する。……ブラッド殿は、元々はリタが以前勤めていた聖剣工房の同僚だそうだ。その後、いろいろあってリタの護衛を務めて貰っていてだな――」

 

「ふむ、そういう伝手だったのだな」

 

 ダリオ氏の説明を聞くと、ファビオ氏は納得したように大きく頷き、さらに俺に深く頭を下げた。

 

「話はリタからいろいろと聞いている。なるほど、話通りの好人物だ。……重ねて、礼を言う」

 

「いえ、そっちは個人的な事情もあったので……頭を上げてください」

 

 正直な話、リタの親父殿にここまで頭を下げられると俺もどう反応したらいいものやら困ってしまう。

 

 だがファビオ氏はなかなか頭を上げてくれなかった。

 

 まだ体調が戻っていなかったか……と思った、そのときだった。

 

「しかし……そうか。私は生き延びてしまったのだな……」

 

 彼の口から小さな呟きが漏れた。

 

 頭を下げたまま、グッと自分の両手を握りしめている。

 

 表情は分からない。

 

 だが、絞り出すような声色だった。

 

「親父? 皆、そろそろ――」

 

「私はまだ大丈夫だ」

 

 ダリオ氏が慌てて顔を覗き込むが、ファビオ氏はそんな彼をゆっくりと押しとどめて言う。

 

「……墓まで持っていこうと思ってたことだが、いい機会だ。お前たちにも話しておこう。私の犯した大罪を」

 

 ファビオ氏が顔を上げた。

 

 ダリオとリタだけでなく、俺たちをも見回す。

 

「込み入った話なら、部外者は外しましょうか?」

 

「いや、君にも聞いておいてほしいのだ」

 

 俺を呼び止めたあと、ファビオ氏が静かに語り出した。

 

「私は商会を立ち上げる前は、一介の行商人だったことは皆も知っているだろう。だがその傍ら、人族諸国を渡り歩き様々な情報を仕入れては魔族側に売っていたことは……誰にも打ち明けたことがなかったはずだ」

 

「なっ……」

 

「そんなことが……」

 

 当然、あちこちから驚きの声が上がる。

 

 彼の告白は、なかなかにショッキングだった。

 

「そしてまた同時に魔族国家を渡り歩き、そこで得た情報を人族に売っていたのだ」

 

 なるほど。

 

 ファビオ氏は、かつては二重スパイとして各国を渡り歩き情報を集めては両サイドに売っていたらしい。

 

 まあ、彼の若かった頃は人族と魔族が今よりもずっと仲が悪かったからな。

 

 驚きはあるが、ありえる話だ。

 

 

 そして彼は、その情報を元に商人として成り上がったのだ、と呟くように言った。

 

 

 ファビオ氏の告白は続く。

 

「――だが、そのような裏切り行為が(とが)められないわけがない。やがて私は魔族国家で反逆者として捕らえられてしまった。だが、処刑される寸前、手差し伸べてくれた者がいたのだ」

 

 それは若い魔族の女性だった。

 

 彼女は以前、街中でならず者たちに絡まれていたところ、魔族国家内で『仕事中』だったファビオ氏がたまたま見つけて助けてやった者だったそうだ。

 

 その後、助けられたファビオ氏はそのまま彼女と親密な関係になり、しばらく魔族国家側で甘い時間を過ごしていたそうな。

 

 ……モテモテだな、この爺さん。

 

 それはさておき、ファビオ氏は結局彼女も裏切って人族の国へと戻ってくることになった。

 

 そして『短命の呪詛』は……その別れのさいに、彼女に掛けられたものだそうだ。

 

 さすがに彼女への裏切りがどういうものだったのか、なぜ裏切ることになったのかは語られなかったが……一族全体に伝染する致死性の呪詛を付与されるくらいだから、彼女にとっては相当に手酷い仕打ちだったことは想像に難くない。

 

「…………」

 

 誰もが無言だった。

 

 ただ、ファビオ氏に対して軽蔑の視線を投げかける者はいなかった。

 

「……すまない。久しぶりに長い間話したせいで少し疲れてしまった」

 

 言って、ファビオ氏が横になる。

 

「親父、まだ病み上がりだ。無理する必要はない」

 

「うむ、すまない」

 

 ダリオ氏が気遣うように、ファビオ氏に毛布を掛けてやる。

 

 彼は横になりながら、部屋にいる者たちに視線を巡らせ言った。

 

「……事業の引継ぎはあとで追って知らせる。それと――」

 

 なぜかファビオ氏の視線がリタと俺を交互に往復する。

 

 そして言った。

 

「二人とも。婚姻の儀はいつにするか、もう決めてあるのだろうな?」

 

 

 

 ………………なんだって?

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