パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第149話 『聖剣『呪詛返し』』

「悪いな、見送りに来てもらって」

 

「水臭いこと言いっこなしッスよ、先輩」

 

「みなさん、またいつでもトレスデンまで遊びに来てくださいね」

 

 ケルツの城門を背景に、リタが笑顔を浮かべている。

 

 彼女の隣にいるエキドナもまた、同様だ。

 

 

 今日はオルディスに戻る日である。

 

 

 二人とも半壊した魔道具店の片づけやらなにやらで忙しい中ぬけ出して、こうして見送りにやってきてくれた。

 

 ありがたいことである。

 

「ああ、もちろんさエキドナ。昨日語ってもらった『死霊魔術の魔道具への応用性についての展望』は私にとって大変有意義だった。いずれ君とは魔道具を共同開発してみたいものだね」

 

「ふふ……私の方こそ、ぜひともよろしくお願いします、カミラさん」

 

 二人は歩み寄ると、固く握手を交わしている。

 

 そういえば昨晩はカミラがエキドナの部屋に遊びに行ったままずっと帰ってこなかったが、どうやら二人なりの親交を深めていたようだ。

 

 確かに魔術師かつ魔道具職人となれば、いろいろ意見交換をしたくなるのは当然だろう。

 

 ちなみにセパは自動人形(オートマータ)の身体に戻り、レインと一緒に近くでじゃれ合っている。

 

 ……門番や他の通行人の迷惑にならないよう、あとで注意しておかねば。

 

 ちなみにダリオ氏やセバス氏はここにはいない。

 

 リタの話では二人とも見送りに来たがっていたそうだが、ダリオ氏は今後ネメシオ商会のトップを引き継ぐことになったうえローレッタさんとの結婚式に向けて準備したりといろいろ忙しく、そしてセバス氏も彼の補佐であちこち動き回っているそうで、とても外出できるような状況ではないそうだ。

 

 そういうわけで、今日のリタはネメシオ家の代表としてもこの場にいるとのことだった。

 

「そういえば、あれからファビオさんの調子はどうだ?」

 

 一応呪詛が身体から消え容体は良くなっているそうだが、その後の経過は見ていない。

 

 今ここにいるリタの表情も明るいから、おそらく元気にしているのだろうが。

 

「はい、お陰様で。今ごろ、兄さんは父さんにビシバシしごかれてると思うッスよ。見た目どおりっていうか、家庭内はともかく仕事は厳しい人なんで……これも全部、先輩のお陰っス」

 

 言って、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

 

「お、おう」

 

 ……そう真正面から言われると、こっちも照れてしまうな。

 

 まあ、こうして彼女の笑顔が見れたのならば俺としても嬉しい。

 

 と、そうだ。

 

「そうだ、お前に渡すものがあったんだった」

 

 俺は腰の魔導鞄(マジック・バッグ)から聖剣を模したお守り(タリスマン)を五つほど取り出して、リタに手渡した。

 

「……これは?」

 

「一回限りだが、『呪詛返し』の効果を込めたタリスマンだ。それぞれエキドナ、ファビオさん、ダリオさん、それにセバスさんとローレッタさん用だ。悪いが、あとで皆に渡してやってくれないか」

 

 なんとなく照れくさくて、彼女から視線を外して、続ける。

 

「昨日、宿に戻ったあと少々時間が余っていたから急いで錬成したんだ。当初は依頼だったとはいえ色々と世話になった形だし、せめてもの礼だ。……本当にささやかですまんが」

 

「とんでもないッス! ……ありがとうございます、先輩。必ず皆に渡しておきます」

 

 リタは嬉しそうに言って、キュッと両手でタリスマンを握りしめる。

 

「それと、お前には……これだ」

 

 言って、俺は魔導鞄からさらにもう一つ、タリスマンを取り出した。

 

 こっちは他の五つとはデザインが違い、ペンダント型にした。

 

 トップは聖剣を模した形だが、ほかのやつより一回り小さい。

 

 ……まあ、本当は同じものを六つ錬成するつもりだったのだが、あいにく素材が切れてしまった。

 

 その辺リタには申し訳ないが、デザインは凝ったので許して欲しい。

 

「これを、あたしに?」

 

「ああ。……ちょっとじっとしててくれ」

 

 リタは俺のタリスマンのせいで両手が塞がっているので、彼女の首に手を回してペンダントを付けてやる。

 

「っ……」

 

 彼女が肩がビクンと震わせ、妙な吐息を漏らす。

 

「っと、悪い。冷たかったか?」

 

「いえ、大丈夫ッス……先輩」

 

 だがリタは嫌がる様子もなく、むしろ俺の身体に自分の体重を預けてきたのだ。

 

 そして俺の胸元で、小さく囁いた。

 

「ありがとうございます……ずっと大事にするッス」

 

 と、彼女はすぐに俺から離れると真面目な顔になり、少し離れた場所でレインと一緒に草むらを転げまわっているセパに視線を移した。

 

 ……あいつら何やってんだ。

 

「それにしても先輩の聖剣……セパさんの力、とんでもないッスね。あたしの力量じゃ『短命の呪詛』なんて強力な呪詛を祓う聖剣、錬成できないッスよ。たぶん、この国どころか王都のどの職人でも無理だと思うッス。……一体どういうレシピなんスか?」

 

『ふふん……もちろん私が特別製だからですよ!』

 

 と、腰にレインを抱き着かせたまま、セパがリタの言葉に反応する。

 

 自動人形化しているにも関わらず器用にドヤ顔&ドヤポーズをキメるあたり、すでに身体操作を完全にマスターしているようだ。

 

 とりあえず彼女のことはスルーして、リタに向き直る。

 

「うーむ……術式は少々複雑だが、素材は多少レア度の高いものを使用しているとはいえ特別な要素はないんだが……多分お前でも錬成できると思うぞ」

 

「ほんとッスか!?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

 術式は、しっかりと研鑽を積んだ聖剣錬成師ならば問題なく組み上げられる程度のものだ。

 

 レシピさえあれば、リタの腕でも十分再現可能だろう。

 

 ただ一点、他の聖剣とは違う要素はあるにはある。

 

 それは『人造精霊』だ。

 

 こればかりは替えが効かない。

 

 『還流する龍脈』は川のように常に流れており、一瞬たりともその場に留まることはない。

 

 それはどんなに濃い淀みでも同じだ。

 

 だから『セパのような聖剣』を錬成することは可能かもしれないが、『セパそのもの』を再現することは不可能だ。

 

 もっとも、そんなことくらい彼女ならば理解したうえでの質問だろうが。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 その後は彼女やエキドナと少しだけ雑談をして、いよいよ別れの時となった。

 

「じゃあ、先輩も皆さんもお元気で」

 

「その際は、是非ともまた私のお店まで遊びに来てくださいね」

 

 リタとエキドナが笑顔で手を振っている。

 

「ああ、また来るよ」

 

 帰りはありがたいことにカミラが使ったルート……つまり国境まで辿り着いたあとは、その付近に設置された魔術師ギルド所有の転移魔法陣で一気にオルディスまで戻れることになっている。

 

 およそ二日程度の旅程だ。

 

 行きは一週間以上かかったので、カミラと魔術師ギルド様々である。

 

「それじゃあ、またな」

 

「あ……先輩、忘れてたッス!」

 

 すでにカミラや聖剣たちは挨拶を終え、少し先を歩いている。

 

 俺も彼女たちに追いつこうと踵を返したところで、リタが何かを思い出したように駆け寄ってきた。

 

「どうした、リタ」

 

 なにか忘れ物でもしたっけか?

 

 足を止め、振り返る。

 

 だが彼女は俺のすぐ側までやってくると、俺の肩に両手を載せ……つま先立ちになった。

 

「ちょっとお耳を拝借ッス」

 

「おう」

 

 なぜか彼女は俺の耳に口元を寄せ、小声で囁いてくる。

 

「……先輩、さっき言ってたセパさんの聖剣のレシピ、今度教えてくださいッス」

 

「別に構わんぞ。また多分こっちに来るしな。ただ、まったく同じ性能の聖剣が出来上がるわけじゃないぞ? 知ってるとは思うが」

 

 この国は、王国では流通していない魔物系のレア素材が手に入るからな。

 

 それに飯も美味い。

 

 少し時間は空くかもしれないが、また遊びに来ようと思っている。

 

「もちろん承知の上ッス! ……それと先輩、知ってるッスか?」

 

「なんだ?」

 

 彼女はさらに声色を落とし、小さな声で続ける。

 

「この国……トレスデンは荒野の民の国ッス。今は平和ッスけど、昔は厳しい自然環境や戦で男の人が死んでしまい未亡人や未婚の女の人が男の人よりもずっと多い時期が長かったんス」

 

 さらに彼女は続ける。

 

 俺にしか聞こえない、それでいて妙に熱っぽい囁き声で。

 

「だからこの国では、伝統的に男の人が何人もお嫁さんを娶っても構わないことになってるッス。だからあたし……待ってるッス」

 

「おま、一体何の話を――」

 

 思わず声を上げようとした瞬間、トン、と肩を押された。

 

「じゃ、また(・・)ッス、先輩!」

 

 彼女はサッと身をひるがえすと、あっという間にエキドナのところまで戻ってしまった。

 

 ……そこで気づいた。

 

 いつも身に着けている自分用の『呪詛返し』の護符は、先日のノスフェラトゥの一件で使い切ってしまっていたことに。

 

「ブラッド、ずいぶんと小難しい顔をしているね? ……リタ嬢と何の密談を交わしていたんだい」

 

「!?」

 

 気づけばカミラが隣にいた。

 

 どうやら俺が遅れているので呼びに来たらしい。

 

 もっとも、その目つきはジトッとしていたが。

 

「……別に大したことじゃない。後日、聖剣のレシピを教えてくれと頼まれただけだ」

 

「…………」

 

「本当だって!」

 

 オルディスに戻るまでの間、彼女のジト目に曝され続けたのは言うまでもない。

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