パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
「ブラッド、ちょっと寄り道しても構わないかな?」
トレスデンからの帰り道。
国境を越え王国領内に入ったところで、カミラからそんな提案があった。
「別に構わんが……寄り道って、どこに行くつもりだ?」
雲一つない青空の下、なだらかな丘陵を突っ切るようにして続く街道をのんびりと歩きながら、彼女に応じる。
ここからは、一旦最寄りの宿場町で休憩を取り、その後はカミラの所属するオルディス魔術師ギルドが管理する国境近くの転移魔法陣で一気にオルディスまで帰還する予定だ。
そういう意味では残りの旅程は一日くらいだし、寄り道をするというのなら別に付き合うもやぶさかではない。
ただ……寄り道するところなんて、この辺りにあっただろうか?
行きにも使った地図によれば、この先の宿場町を越えたあと、街道から十キロほど逸れた場所に天然の温泉があったと記されていたはずだ。
思い当たる『寄り道』はそれくらいしか思いつかない。
「もしかして温泉か? 寄り道するにはかなり遠いぞ」
『温泉!?』
『温泉? やったー!』
俺たちの後ろを歩くセパとレインが色めき立つ。
……そういえばセパは今、
まあダンジョン内での行動も想定して堅牢かつ防水仕様になっているので大丈夫だと思うが。
だが彼女はそんな彼女たちの様子に苦笑しつつ、言った。
「ふふ……残念だけども、温泉ではないよ。これは完全に私の都合でね、魔術師ギルドのギルマスに手土産を持って帰るための寄り道なのさ」
『温泉……』
『温泉……』
期待を裏切られた聖剣たちが捨てられた子犬みたいな顔になった。
まあ、『温泉』と口に出してしまったのは俺だし、今度二人はどこかオルディス近くの温泉にでも連れて行ってやろう。
しかし……はて。
「これ以上に土産が必要なのか?」
俺は彼女の腰に身に着けた『
なにせ彼女は、ケルツでかなりの量の土産を買い込んでいる。
トレスデン名産のお菓子や珍味系の乾物、それに魔術に使う素材から複雑な刺繍が施されたランプシェードに、水晶を削り出して作られた髑髏なんてのもある。
まあ後半は自分用だろうが。
とはいえ、お菓子や食料品の類だけにしてもギルド職員の人数の数十倍はありそうな量が彼女の小さな魔導鞄(カスタムして大幅に拡張済)に詰め込まれている。
この中にギルマスへの土産が含まれていないことに驚きである。
ちなみになぜ彼女の土産の内容を詳しく知っているかと言えば、トレスデン最終日に彼女の買い物に付き合わされたからだ。
それにしても、なぜ女性というヤツは、こうも買い物時間が長いのか。
まあ、俺も仕事やら依頼やらがない間はケルツの素材屋街でバカみたいに素材を買いまくっていたので、まったく人のことは言えないわけだが。
トレスデン産の素材、一生分買い込んだ気がする。
それはさておきギルマスへの手土産だ。
「実は、彼の弱みを握ろうと思っていてね」
ククク、と不穏な笑みを浮かべながら不穏なことを口走るカミラ。
「お前……オルディスの魔術師ギルドを乗っ取るつもりなのか?」
ドン引きである。
まさかコイツに、そんな野心があるとは知らなかった。
だが、確かギルマスの人は結構な歳だったはずだ。
風の噂では、あと数年で引退するらしい……ので、のほほんと待っていれば、いずれ彼女にもギルマスの席が回ってくることもあるだろう。
カミラはなんだかんだ言っても王国魔術師ギルド全体でもかなりの古株だからな。
……それを口に出したら殺されるから言わないが。
だが彼女は慌てて首を横に振り否定する。
「まさか! 今の私にそんなギラついた感情はないよ。ただ……彼はなんだかんだで私に便宜を図ってくれるからね。日ごろの感謝を兼ねて、というやつさ。まあ、くれてやれば弱みはちゃんと握れるシロモノだけどね」
「ちゃんと握れるのかよ……」
一体なんだそのヤバい手土産は。
他の街のギルマスの首とかか?
「……なにか物騒なことを考えてないかね? 違う違う、ちょっとした魔術用素材さ」
「なるほど」
それならば頷ける。
なんだかんだ言っても魔術師ギルドの長を務めるような人物は、三度の飯より研究が好きなタイプだろう。権力も同じくらい好きだとは思うが。
いずれにせよ、異国のお菓子や珍味なんかよりもレア素材の方が喜ばれそうなのは容易に想像できる。
「で、その素材ってのはどこで手に入れるんだ?}
「それは……もちろん『禁域』の深部さ。もちろん君も自分用の素材をどんどん採取して構わない。どうだい、ワクワクしてきただろう?」
「…………」
ギルマスの首級でないことにホッとしたし、『禁域』産の素材採り放題はすこぶる魅力的だ。
ただ……それはそれで荒事の臭いしかしないんだが?