パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第152話 『閑話⑦ 寄り道デート(極) 下』

 少し先の宿場町で食事をとり、小一時間ほど休憩してから『禁域』へ。

 

 幸いなことに、目指すべき場所は転移魔法陣の設置してある『ヨーキ古代神殿跡地』のすぐ脇の森林地帯だった。

 

 もちろん魔術師ギルドの禁域指定を受けているだけあって、ただの森というわけではない。

 

 カミラの説明では、この森――『常夜(とこよ)の森』は地上部でありながらダンジョン化している珍しい場所だそうだ。

 

 そのせいだろうか、森の外からは内部がまったく見通せない。

 

 鬱蒼と木々が生い茂っているわけでも、藪が深いわけではないのだが……不自然なほどに、奥になるにつれて暗くなっているのだ。

 

 おまけに森の奥からは魔物のものと思しき存在の鳴き声がいくつも聞こえてくる。

 

 なるほど、確かにこの先は『ダンジョン』で間違いなさそうだ。

 

「この『常夜の森』は視界が悪く、方向感覚が狂いやすい。『禁域』だけに強力な魔物も出没する。君も十全に戦えるよう、『灯り』を付与しておくとしようか。それでも離れすぎると見つけられなくなるから、なるべく固まって行動するように」

 

「了解」

 

 森に入る直前で、カミラが杖を振り精霊魔術を発動。

 

 彼女自身と俺の頭上の両方に、拳大の光球を出現させた。

 

 煌々と周囲を照らし出す暖かな光は、俺がいつも使っている探索用魔導カンテラと比べても輝度が高く先を見通しやすい。

 

 なによりも、両手の邪魔をしないことが素晴らしい。

 

「おお、やっぱ『光の精霊』の魔術は便利だな」

 

「ふふ……そうだろう? こうして片手で杖、もう片方で君の腕を取ることだってできる」

 

 と、森に足を踏み入れたのと同時にカミラが俺の肩にぴったりと身体を寄せ、さらに腕に手を回してきたのだ。

 

「おい」

 

「ふふ……何だね?」

 

 こちらをチラリと見ながら、彼女は嬉しそうに目を細める。

 

 なんか鼻歌でも歌い出しそうなほど機嫌がよさそうだ。

 

「……いや、なんでもない」

 

 そんな幸せそうな彼女の様子を眺めていると、なんだか怒る気が失せてしまった。

 

 まあ、コイツも非常時になってまで惚気(のろけ)ているほどアホではない。

 

 しばらく付き合ってやるか。

 

「……ったく。魔物が出てくるまでだぞ」

 

「分かってるさ」

 

『…………』

 

『…………』

 

 ちなみに当然のごとく、俺の腰には聖剣状態のレインとセパが装備してあるのだが……なぜかこういう時に限って二人とも妙に空気を読むというか物分かりがいいのが不気味である。

 

 もしかしてカミラと何かしらの話が付いているんじゃないだろうな?

 

 まあセパの方は空気を読んで無言というよりは、若干拗ねている気配を感じるが。

 

 というのも、今セパは聖剣の姿だからだ。

 

 お気に入りの自動人形(ガワ)の方は神殿入口でお留守番である。

 

 森に入るギリギリまで『ご主人! このままがいいです! ご主人!!』とさんざん駄々をこねまくっていたが、さすがに戦闘力ゼロの自動人形(オートマータ)を魔物の蔓延る森の中まで随伴させるわけにはいかなかった。

 

 あれ、素材代だけでもアホほど金がかかってるからな……

 

 それにしても、森の中の道なき道を歩き続けているというのにカミラが俺の横にぴったりくっついて離れてくれない。

 

「おい……さすがに歩きにくいんだが」

 

「迷うよりはいいだろう? それとも、私とはぐれたいというのかい?」

 

「そんな可愛く拗ねて見せても無駄だ……ほら、奥に魔物がいるぞ」

 

 言って、俺は木々の向こう側を指さした。

 

 丁度、ちょっとした茂みの向こう側に爛々と光る赤い目が一対見えた。

 

 視点が高いのでかなり巨大な相手だ。

 

 視線からして、すでに捕捉されている。

 

 今すぐにでも戦闘態勢に入らなければ、相手の先制攻撃を許してしまう。

 

 だがカミラはあわてず騒がず魔物に視線をやりもせず、手に持った魔術杖をひと振りした。

 

「――『土の精霊に命ず、石筍(せきじゅん)(もっ)て敵を貫け』」

 

 次の瞬間。

 

 ――ザシュッ! 

 

『プギッ!?』

 

 茂みから飛び出そうとしていた巨大な猪型の魔物が、地面から無数に突き出た石槍に貫かれ消滅した。

 

 だが、魔物の襲撃はこれで終わりではない。

 

「おい、今度は上から――」

 

「――『風の精霊に命ず、見えざる刃で敵を切り刻め』」

 

『ギギッ!?』

 

 今度は上から伸びてきたツタ状の魔物が、彼女の繰り出した風の刃でスパパパッとコマ切れになる。

 

「うふふ……! 楽しいね、ブラッド」

 

 そんな中でも、彼女は笑顔でこちらをジッと見つめたままである。

 

「お、おう」

 

 というか、カミラが強すぎる件。

 

 こいつら、一応『禁域』に生息する魔物だよな?

 

 ツタの魔物は初見だが、その前に倒した猪の魔物はたしか、『グレートボア』だったはずだ。

 

 中堅冒険者パーティーが数組がかりで討伐依頼に臨むような相手である。

 

 とはいえ、俺たちを狙う魔物はこれだけじゃない。

 

「おい囲まれてるぞ!」

 

 気づけば、全方位に魔物の気配を感じる。

 

『ごご、ご主人! 完全に包囲されてますよ!? なんですかこの数は!?』

 

『おおー! これはもしかして、あーしの出番ー?」

 

 『禁域』が『禁域』とされるには理由がある。

 

 場所そのものが人里遠く離れた場所にあるからとか、強力な薬物や麻薬の原料となる植物が生育しているからとか……

 

 あるいは、強力な魔物が多数生息しているせいで立ち入ることに大変な危険が伴う、とか。

 

 この場所は、少なくとも一番最後のヤツなのは間違いなかった。

 

「グレートボアにマンティコア、それにバジリスク。この森では一般的な魔物だよ」

 

「どいつこいつも冒険者ギルドの危険度ランク上位の魔物だろ」

 

「ふふ……それの何が問題かな? 私と君、それに君の聖剣たちもいるというのに」

 

 言って、カミラが挑発的な笑みを俺に向けてくる。

 

 コイツ……めちゃくちゃ楽しそうにしやがって。

 

 上等だ。

 

 だったら俺も楽しまなければ損、というものだ。

 

「いや、いい素材が採れる獲物ばかりだ」

 

「だろう?」

 

 言いながら、俺とカミラは背中合わせになった。

 

 彼女はすでに次の魔術を放つ準備を整えている。

 

 森の地下水脈に住まう水の精霊に命じ広範囲にいくつもの落とし穴(シンクホール)や局所的な洪水を発生させる、かなり凶悪な精霊魔術だ。

 

 もちろん俺も、すでにレインを抜き放っている。

 

 セパは……魔物に呪詛でも掛けられたときには活躍してもらうとしようか。

 

「トレスデンではのんびりしすぎたからな。ちょうどいい運動だ」

 

「私も、あの街で美味しいものを食べ過ぎたからね。少々減量が必要さ」

 

「それじゃあ、いっちょ暴れますか」

 

「行こうじゃないか」

 

『『『ガアアアアアアァァァ!!』』』

 

 

 俺たちは魔物たちを蹴散らしつつ、『常夜の森』の深部へと進撃を開始したのだった。

 

 

 

 ちなみに深部に潜む魔物を倒して得た、ギルマスへの手土産というのは……毛生え薬の元となる、『森ギンチャクの刺胞』という素材だった。

 

 なんでもすり鉢でゴリゴリ挽いて頭に塗ると、液状になった刺胞が頭皮をチクチクと刺激して発毛を促すのだとか。

 

 

 ……魔術師ギルドのギルマス氏は一生カミラに頭が上がらないのではなかろうか。

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