パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第153話 『久々の日常 上』

「今日は私が料理を作ろうと思うのだが」

 

「「「「!?」」」」

 

 カミラ邸のリビングで。

 

 家主である彼女が放ったその一言で、部屋中が緊迫感に包まれた。

 

 特にマリアとステラの顔たるや、まるで恐ろしい魔物を目撃したが如し、である。

 

 俺の隣で何やらじゃれあっていたセパ(自動人形姿)とレインも時が止まったようにピタリと動きを止めていた。

 

「おい、どうした?」

 

 どうやら何も感じていないのは俺だけのようだが……何だこの状況。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 トレスデンを発ち、魔術師ギルドの管理する『禁域』内に設置された転移魔法陣でオルディスまで帰ってきたのは一週間前のことだ。

 

 長期旅行のため処分していた生鮮食品などを買い直したり、部屋や工房に溜まった埃を掃除をして住環境を整えたり、トレスデンで得た戦利品もとい素材たちをちまちま整理していたら……あっという間に日が過ぎ去っていた。

 

 しばらくは依頼もなく、若干暇を持て余しつつも穏やかな日常そのもの。

 

 しかしながら、ある程度日常を堪能したら今度は逆に非日常が恋しくなるのが人の性である。

 

 何が言いたいかというと、外食がしたくなった。

 

 それも、知り合いを呼んでワイワイやるやつ。

 

 最近はカミラはともかく、マリアとステラとはあまり顔を合わせていなかったからな。

 

 そんなわけで、俺たちは街へと繰り出す前にカミラたちも誘おうと、彼女の家までやってきたというわけである。

 

 もっとも夕食の時間までは、少々間があった。

 

 そこでカミラ邸のリビングでしばし談笑しつつ時間を潰していたところ、突然彼女が自分で料理を作ると言い出したのだ。

 

 まあ、俺も別に外食自体はこだわっているわけでもなく、自宅以外で大勢で食事ができればいいかな程度の気分だったので、その提案に賛成だったのだが……

 

 そう考えていたのは、どうやら俺だけだったらしい。

 

 そしてカミラも、ただならぬ雰囲気を敏感に察知したようだ。

 

 怪訝な表情でリビングを見回す。

 

「なんだね? マリアもステラもまるで魔物が出たような顔して」

 

「いえ……なんでもありませんカミラどの」

 

「いえ、何も問題ありませんご主人様」

 

 歯切れの悪い口調でそう答えつつ、カミラから視線をそっと逸らす二人。

 

 なんだこの空気。

 

 しかし妙ではある。

 

 以前『屍竜の谷』へカミラと一緒に素材を探しに行ったときには、パンに肉や野菜を挟んだ料理を持ってきてくれたのを覚えている。

 

 その時食べたものは特に変な味はしなかったし、むしろ美味かった。

 

 そもそもカミラは精霊魔術師であり、腕利きの魔道具師だ。

 

 手先は器用で要領も良いし、料理だけが特別下手というのは考えられない。

 

 だからこそ、この状況への違和感は大きかった……のだが。

 

「ブラッド様、少々お話が」

 

 と、俺の様子を察したのかマリアがススス……と近寄ってくると、カミラに聞こえないよう耳元に口を寄せてきた。

 

(実は……ご主人様が戻られたあと、どういうわけか本格的に料理に目覚められまして)

 

(それの何が問題なんだ? いいことじゃないか)

 

(いえ、それが)

 

 珍しくマリアが深刻そうな雰囲気を醸し出している。

 

「料理の腕自体は問題ないのですが……変な食材をどこからともなく見つけてきては、調理器具ではなく妙な魔道具を使って調理したりするのです。今も、食糧庫に得体のしれない黄金色の肉や人面のようなものがある根菜が眠っています」

 

「な、なるほど」

 

 それならば、この妙な雰囲気にも頷ける。

 

 セパとレインの様子がおかしいのも、数日前に二人でステラと遊ぶためカミラ邸を訪ねたせいだろう。

 

 あの時は確か、彼女の家で昼食をごちそうになったはずだからな。

 

 マリアが続ける。

 

「私はともかく、ステラ様がその実験台になることはよろしくありません。彼女の健やかな成長の為にも、素性のはっきりした安全な食材を召し上がって頂きたいのです」

 

「それはそうだな……」

 

 肉の方は何肉か分からないが、人面の根菜ってのは……回復剤とかに混ぜ込んだ場合、解毒作用や強壮作用を付与する効果がある『マンドラゴラ』のことだよな?

 

 あれはれっきとした魔道具素材だ。

 

 もっともマンドラゴラ自体は生の状態では毒があり食べられないが、きちんと下処理をすればかなりの美味ではあるし、貴族の食卓に上るような高級食材でもある。

 

 とはいえ俺たちのような庶民にとってはお世辞にも一般的な食材とは言えないし、魔道具師が普段取り扱う素材ではないからマリアが知らなくても無理はない。

 

 あと、妙な魔道具というのは毒抜き用の器具だろうな。

 

 カミラの腕と知識があれば、毒抜きに失敗することなど万に一つもありえないが……確かにマリアの心配は分からなくもない。

 

 いずれにせよ、いくらステラの健やかな成長を思ってのことだとしても、魔術素材を普段の食事に混ぜ込むのはあまりよろしくない。

 

「そこでブラッド様にはお願いがございます」

 

 決意に満ちた様子のマリア。

 

「お、おう」

 

「これからご主人様は、おそらく食材の買い出しに出かけると思います。その際、ブラッド様に付き添っていただきたいのです」

 

 なんだ、そんなことか。

 

「分かった。要するにあいつが市場で妙な食材を買い込まないよう監視しておけばいいんだな?」

 

「さすがブラッド様、慧眼です。これはステラ様だけでなく、今夜の食卓の未来がかかっております。ぜひとも、ご主人様の暴走を食い止めて頂きたく存じます」

 

「分かった。まあ、大丈夫だとは思うが……」

 

 

 と思ったのだが、甘かった。

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