パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第156話 『いつも通りの……非日常 下』

「それじゃ、約束通り大人しくしてもらうぞ」

 

 リリア嬢の首に押し付けたサーベルの刃を離す。

 

 彼女はしばらく放心したようにこちらを眺めていたが、やがて自分の敗北を受け入れたようだ。

 

 ガックリと肩をうなだれ、構えた武器を降ろした。

 

「……私の敗け、だわ」

 

「悪いな。あんたの剣筋はよく知っててな」

 

 もっとも、リリア嬢の実力は大したものだった。

 

 予備動作は最小限で無駄な動きがなく、そして(はや)い。

 

 聖剣錬成師は仕事の内容的に剣術を嗜むものが多いが、彼女もまた剣士としても一流だった。

 

 俺が勝てたのは、ひとえにアリスの剣筋を知っていたからだ。

 

 とはいえ、勝ちは勝ちだが。

 

「で? 俺に対して何の恨みがあってこんなケンカを吹っ掛けてきたんだ」

 

「そ、それは……」

 

 なぜかこの期に及んでまごまごした様子を見せるリリア嬢。

 

 何か隠しているというよりも、妙に言いづらそうな様子である。

 

「こちらが勝った以上は話してもらうぞ」

 

「うぅ、実は……」

 

 俺の催促で彼女が口を開きかけた、その時だった。

 

「おっと兄ちゃん、そこまでだ」

 

 見れば、俺たちの横に狼獣人がいた。

 

「……あんたは」

 

 容姿は覚えていないが、声と口調は覚えている。

 

 さっき肩がぶつかったヤツだ。

 

「彼女は俺らの護衛対象でな。あんまり虐めてやらないでくれねぇか?」

 

 狼獣人は殺気こそないが、腰に帯びた剣の柄に手で触れていた。

 

 俺がリリア嬢に危害を加えるそぶりを見せれば容赦はしない、という意思表示である。

 

「その獣人は君に害意はないみたいだね、今のところは(・・・・・・・)

 

「……チッ。こっちも手練れだったか」

 

 狼獣人が舌打ちをした。

 

 見れば、カミラが彼の頭に杖を突き付けていた。

 

 すでに杖の先からは淡い魔力の光が漂っている。

 

 今、狼獣人が剣を振るうのとカミラの精霊魔術がヤツの頭を吹き飛ばすのとでは、どちらが速いかは分からない。

 

 つーかどこから出したんだそれ。

 

 ……と思ったら、カミラの腰に小さなポシェットが見えた。

 

 それ、よく見たら魔導鞄(マジック・バッグ)じゃねえか!

 

 それがあれば、重い荷物をわざわざ持って歩かなくても済んだんだが?

 

「こ、これは杖専用のやつだから……」

 

 俺の視線を受けて、バツの悪そうな表情でカミラが目を逸らす。

 

「……なあ姉ちゃん。別にこっちは本気でやり合うつもりはねぇよ。決闘は観てた。そっちの兄ちゃんの勝ちだ。それに文句を付けたいわけじゃねぇ。だが、これ以上の追い打ちはやめてくれって話だ」

 

「追い打ちなんてするつもりはねえよ」

 

「なら、そのサーベルを手放してくれないか?」

 

「……君が引くのが先だよ」

 

 カミラがグイ、と杖を獣人の頭に突き付けた。

 

「ちょっ……皆落ち着いてって! ペストル、私は大丈夫だから下がって!」

 

「できねぇな。俺が死んでもアンタを護るってのが俺らの仕事だ」

 

 一触即発の状態に、一番慌てているのはリリア嬢だ。

 

 もちろん、こちらもこれ以上事を荒立てる気はない。

 

 というか、このままだとカミラが一番最初に暴走しそうだ。

 

「わかった、俺が先に剣を置く。……これでいいか?」

 

 言いながら俺はゆっくりと腰をかがめサーベルを足元に置き、数歩ほどリリア嬢から離れた。

 

「すまねぇな、兄さん。あんたが一番話が分かるみてぇだな」

 

 俺のサーベルを足で蹴り遠ざけながら、獣人がホッとした様子で剣の柄から手を離した。

 

「…………」

 

 それを見届けてから、カミラが杖を引いた。

 

 そこで全員の緊迫感が和らいだ。

 

「なんだもう終わりか」

 

「まあ、いいモノ見られたぜ」

 

「ほらほらアンタら、店の前で見物してたのならウチで何か買っていきなよ!」

 

「うっせー、また今度な!」

 

 決着が完全についたと考えたのか、俺たちを取り囲んでいた野次馬たちが三々五々に散ってゆく。

 

 あっという間に、市場の様子は元通りになった。

 

「ごめんなさいペストル。余計なことに付き合わせてしまったわ」

 

「構わんよ。だが俺らとしても報酬を貰わんうちにアンタに死なれたら困るからな」

 

「ご、ごめんなさい……軽率だったわ」

 

 ペストルという狼獣人に窘められ、リリア嬢がシュンと肩を落とす。

 

 彼はどうやらこの街に来るまでに雇った護衛らしい。

 

 彼ら……と言っていたから、冒険者パーティーか傭兵団をまるごと雇ったのだろうか。

 

 まあ、いくらリリア嬢が腕が立つとはいえ、彼女は若い女性だ。

 

 一人旅は何かと面倒ごとが多いだろうことは、容易に想像できる。

 

 それらを未然に防ぐため、複数の屈強な護衛を雇うのは間違っていない。

 

「で、なんとなく事情は察しているが……せめて俺にケンカを吹っ掛けた理由を教えてくれないか」

 

「……わ、分かったわ。今さらだけど、アンタがこの街で一番の聖剣錬成師でいいのよね?」

 

 リリア嬢は頷き、懐から一通の手紙を取り出し、それから念を押すようにそう言った。

 

「一番かどうかは知らないが、俺の知る限りオルディスの聖剣錬成師は俺だけのはずだ」

 

「だったら、その手紙の封印は解けるはずよ」

 

「……?」

 

 妙なことを言われつつも、ひとまず彼女から手紙を受け取る。

 

 と、そこでカミラが俺の隣から顔を寄せてきた。

 

 公衆の面前で密着されるのはちょっと困るが、彼女も手紙に興味津々のようだ。

 

「差出人は『アステル・フォン・クロディス』……アリスからだね」

 

「……だな」

 

 手紙には、魔術処理が施された封蝋とともにアステル……アリスの署名が施されていた。

 

 この手の封印文書の開け方は分かっている。

 

「ええと……こうか」

 

 封蠟に指を強く押し付ける。

 

 こうすることで、封蝋に施された封印魔術が対象者の魔力を読み取り術式を解除する、という寸法だ。

 

 果たして俺が指を押し付けた途端に封蝋がドロドロと溶け、魔力の粒子へと代わり消滅した。

 

「まさかアンタ……貴方が本当に手紙の届け先だったなんて……」

 

 それを見て、リリア嬢が今まで以上にバツの悪そうな顔で呟く。

 

「何か都合が悪いのか?」

 

「い、いえ」

 

 目を逸らすリリア嬢はさておいて、とりあえずアリスからの手紙の内容を読み込むことにした。

 

 

 §   §   §

 

 

 親愛なるブラッド・オスロー殿

 

 

 やあ兄さま、元気かい?

 僕は王都に戻ってからものすごく忙しくしているよ。

 

 実は、魔剣持ちの連中が存外に深くこの国に浸透していることが判明してね。

 

 先日なんて旧交のある王国騎士団の面々と連携して、とある有力商人の屋敷に踏み込み大量の魔剣を押収したところさ。

 

 まさか僕も、衛兵部隊に武器を卸している大商人の幹部が魔剣持ちどもと通じているとは思わなかったよ。

 

 この事件の顛末は結構笑えるものだったけど……それは兄さまと直接お会いしたときにお話することにしようかな。手紙だと長くなるし。

 

 さて、前置きはこのくらいにして。

 

 兄さまには聖剣を一振り、錬成してほしいと思っているんだ。

 依頼主はこの手紙を持たせたリリア・ワーズだよ。

 あ、彼女は僕が懇意にしている聖剣錬成師の一人なんだけど、剣も教えていてね。

 その縁で兄さまを紹介することにした。

 

 彼女は王都では高名な聖剣錬成師だから兄さまも知っているよね?

 だから、そんな彼女がなぜ兄さまに依頼を……と思うかもしれない。

 

 それにはちょっと事情があってね。

 いずれにしても、詳細は彼女から聞いて欲しい。

 

 あ、リリアはどうも兄さまのことを勘違いしているみたいだったから、「オルディスに腕利きの知り合いがいる」とだけ伝えて、あえて兄さまの名前は伏せておいたよ。

 

 だから、もしかすると初対面でいきなりケンカを吹っ掛けられるかもしれない。

 

 実は彼女、僕からみてもかなりプライドが高くてね。

 まあ、聖剣錬成師としても剣士としてもかなりの高みにあるから、それも当然なんだけど。

 

 だからそのときは、遠慮なく彼女の鼻っ柱を叩き折ってほしいんだ。

 その方がわだかまりが解けて、うまく仕事が進むと思う。

 

 

 それと、これは僕の我儘なんだけど……

 

 兄さまには、いつか王都に遊びに来て欲しいな。

 そのときは、僕がずっとエスコートしてあげるからね!

 

 それじゃ!

 

 

 アリス・フォン・クロディス

 

 

 §   §   §

 

 

「…………」

 

 完全に俺が身内かのような砕けた文体と内容だが、大体の事情は分かった。

 

 ……この事態、全部アリスのせいじゃねーか!!!!

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