パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
「ブラッド、彼女の依頼は受けるつもりなのかい?」
「うーむ、そうだな……」
リリア嬢との突発的な決闘のあと。
カミラ邸に戻り、食卓に就いてからも俺はまだ悩んでいた。
目の前に並べられた、料理の数々は、カミラ(と彼女の監視役のマリアとステラ)が腕によりを掛けて作ってくれた逸品ばかりだ。
どの料理からも、ふわりと食欲をそそる匂いが漂ってくる。
「頂きます!」
「いっただきまーす!」
「頂きます、です!」
「ご主人様もブラッド様も冷めないうちにどうぞお召し上がりください」
「ああ、頂くとしようか」
「あ、ああ」
すでに聖剣たちとステラは目の前の料理にかぶりついている。
しかし俺は、なかなか料理に手を付ける気にはなれなかった。
◇
――死者の魂で聖剣を錬成することになったので、その協力をお願いしたい。
大雑把にまとめると、リリア嬢からの依頼は、そういう内容だった。
この聖剣錬成工程はかなり大がかりなもので、少なくとも二名以上での役割分担が必要だそうだ。
おまけにその工程は複雑かつ高度な知識を要するため、分担人員はそれなりに腕の確かな聖剣錬成師でなければならないらしい。
しかしリリア嬢の身の回りには、そのお眼鏡にかなう人間はいない。
困り果てた彼女がかねてより親交のあったアリスに相談したところ、オルディスにいる俺を紹介されたということだった。
まあ、経緯自体を聞く限り光栄なことではある。
報酬は相場の倍以上、そして今回の依頼に関する聖剣錬成ノウハウのすべて。
必要な素材は先方ですべて準備する。
こちらの持ち出しは労力以外、ほぼゼロ。
一部の素材については現地調達が必要らしく、ダンジョンなどに同行してほしいとも言われたが……それはまあいい。
探索にかかる経費は向こう持ちらしいしな。
正直、破格といっていい依頼だ。
特にノウハウについては、明らかに門外不出レベルの貴重なモノだ。
できることなら二つ返事で受けたいところである。
だが、依頼内容が内容だけに慎重に検討する必要があった。
死者の魂で聖剣を錬成すること自体は理論上可能だ。
それが責められるべきかどうかはまた別の問題だが、できなくはない。
ただ……それよりも懸念すべきことがある。
死者の魂を聖剣錬成師に用いるということは、それはつまり、
となれば、である。
まさか死者の魂を、ごく普通の聖剣を制御する人造精霊と同じように取り扱うつもりではないだろう。
その程度ならば、王都にいる腕利きの聖剣錬成師に頼めばいい。
遠路はるばるオルディスまでやってきて、俺に頼む必要はない。
だがアリスがあえて『人格と知性を持つ聖剣』を錬成できる俺を紹介したことからも、どう考えてもリリア嬢の――彼女に依頼した者の――目的が、疑似的な『死者蘇生』なのは明らかだった。
もっとも、死者の魂……とりわけ人間の魂は人造精霊とくらべて不安定だ。
おまけに人造精霊の御霊のように聖剣にうまく定着するように調整を施していない。
することもできない。
だから仮に聖剣の素体に魂を宿すことに成功したとしても、宿った直後から時徐々に魂が崩壊してゆき――これは俺の予想だが――数日も経たないうちに、ただの物言わぬ剣に戻ってしまうことだろう。
それでもやることなのか……と言われればやる意味はある。
そしてそれが問題だった。
つまり――
死んだ者に聞きたいことがある。
聞き出したい情報がある。
殺されたのなら下手人が誰か。
病死や老衰ならば遺産の在処はどこか。
あるいはその全部かもしれない。
それがリリア嬢の目的かどうかは分からないが、すくなくとも
面倒ごとの臭いしかしない。
そんな依頼を受けてまで、大金やノウハウを得るメリットはあるのかどうか。
だからいったん彼女の依頼は保留として、後日返答する旨を伝えた。
もっとも俺の反応は想定内だったようで、リリア嬢は特に難色を示すこともなく、その場はそれで終わった。
彼女は彼女の依頼人と一緒にいるらしく、しばらくこの街に滞在するそうだ。
「もし受けるつもりが少しでもあるならば、私の依頼人を紹介するから会って判断するといいわ。……3日待つから、それまでに返事を考えておいて」
そう言い残し、彼女は護衛と一緒に市場から去っていった。
◇
「私としては、受ける必要はないと思うけどね」
カミラが料理を口に運びながらそんなことを言ってくる。
「まあ、そうかもしれないけどな」
さすがに犯罪の片棒を担がせるようなことはないと思いたいが(死霊魔術の類は王国では禁忌とされているが、行使したところで罰則はない)、どんな事情が背景にあるのかはリリア嬢の依頼人に話を聞いてみないことには分からない。
「うーむ……」
悩みつつも、俺も目の前の皿に手を付けた。
あまり時間を置くと、せっかくの料理が冷めてしまうからな。
まずは具材たっぷりのスープを口に運ぶ。
煮込んだ肉と野菜が口の中でホロホロとほどけてゆく。
鼻から抜ける爽やかな香りは、市場で調達したハーブだろうか。
咀嚼して飲み込むと、悶々とした気分が少しだけ和らいだ。
「どうだいブラッド、美味いだろう?」
言いながら、カミラがドヤ顔で俺の顔を覗き込んできた。
どうやらこの料理は彼女が作ったようだ。
「ああ、美味い」
「ふふ……そうだろうそうだろう!」
彼女は顔を綻ばせながら続ける。
「なにせこのスープは、土魔術で硬化処理した土鍋に具材を入れて蓋を粘土で固め密閉して、火焔魔術で一気に煮込んだんだからね。これにより内部が高圧高温の状態が保たれ、普通の煮込み料理では不可能な柔らかい食感が実現できるというわけさ」
「おお、そいつはすごいな」
実際すごい発想だ。
こういう魔術ならば、どんどん発明していきたいところだ。
……魔術は使い方次第で人を幸せにすることも不幸にすることもできる。
もちろん聖剣錬成も同じだ。
リリア嬢の依頼は、どちらだろうか。
「むぐむぐっ、はふっ! この猪肉スペアリブは絶品ですね! 噛めば噛むほど肉汁とともに旨味があふれ出てきます! ……レイン、そこのお皿にあるスペアリブはお残しですか? ならば私が食べて差し上げましょう!」
「あーっ! せっかくあとで食べようと思ってたのに! それじゃ、あーしはセパが『お残しした』リンゴジュースもーらいっ!」
「あっ、あーっ! それは私のデザートです!! なんて非道な真似をっ……!! ご主人! レインが私のジュースを横取りを……!」
「お前らもうちょっと静かに食えないのか……」
まったく……人が悩んでいるのに、ウチの聖剣たちはコレだからな。
だがまあ、コイツら見ていると悩んでいる自分がアホみたいに思えるのも事実だ。
……まあ、依頼のことは一晩寝てから考えるか。
「セパ様、レイン様、スペアリブもリンゴジュースもまだまだお代わりがありますから大丈夫ですよ」
「マリア、すまん……だが、コイツらを必要以上に甘やかさなくてもいいからな?」
「みなで食卓を囲むのは、たのしいですね! あっセパどの、そのパイ包みはお残しですね! 私が頂くのです!」
「あーっ!? ステラまで!?」
半泣きのセパの悲鳴がダイニング内に響き渡る。
まあ、すぐにステラが残していたデザートをセパがかっさらって取っ組み合いになっていたが。
というかマリアはニヨニヨ(無表情)していないでさっさとキッズどもを止めてやってくれ。