パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第158話 『遠雷旅団』

 結局俺は、リリア嬢の依頼人に会ってみることにした。

 

 なんだかんだで自分の目と耳で判断しないことには始まらない、そう思ったからだ。

 

 

 数日後。

 

 リリア嬢と街の広場で待ち合わせ、ある程度の事前情報を確認したのち依頼人が待つレストランに向かった。

 

 話を聞けば、彼女の依頼人は彼女をここまで送り届けた護衛の長らしい。

 

 先の大戦では結構活躍した傭兵団らしいわよ――とは彼女の談である。

 

 

「着いたわ」

 

 リリア嬢に案内されたのは、オルディスではかなり高級な部類のレストランだった。

 

 以前カミラとのデートで来たことがあるから知っている。

 

 たしか、肉料理が美味かったはずだ。

 

 そのまま店に入り、一番奥にある個室へ。

 

「アロン、連れてきたわ」

 

「失礼する……っ!?」

 

 足を踏み入れると、部屋中に充満した煙たい空気に思わずむせそうになった。

 

 薄暗い照明の下、テーブルの周りには四人の男女が席についていた。

 

 いずれも獣人だ。

 

 すでに食事の後なのか、空になった皿がいくつも並んでいる。

 

 そんな中。

 

 一番奥の席で男が葉巻をくゆらせながら、こちらをジロリと一瞥した。

 

「あんたがリリア殿の助手か。……アロンだ。『遠雷旅団』という傭兵団の長をやっている」

 

 鋭い眼光、顔を覆う金色の立派な(たてがみ)

 

 腰掛けている椅子が子供用に思えるほどに巨大な体躯。

 

 厳つい顔や丸太のように太い腕にはいくつもの傷痕が走っており、彼が数々の修羅場を潜り抜けてきた猛者であることを示している。

 

 傷はさておき、彼のような種族には見覚えがあった。

 

 以前アリスがガウル氏という男を連れてきたことがあったが……彼と同じ獅子獣人だ。

 

 もっとも、洗練された軍人の雰囲気を纏っていたガウル氏と比べ、アロン氏は濃密な暴力の臭いを纏っていたが。

 

 

 アロン氏のほかは、狼獣人の男と猫獣人の女、それに蜥蜴人(リザードマン)の男がそれぞれ席についている。

 

 傭兵団がこれだけのはずはないから、彼ら彼女らは幹部なのだろう。

 

 一人は先日出会った狼獣人だ。

 

 彼だけは俺と目が合うとニヤリと口の端を歪め、軽く手を上げて挨拶してきた。

 

「ブラッドだ。この街で聖剣錬成師をしている」

 

「よろしく頼む、ブラッド殿。あぁ、こいつらはウチの幹部だ。悪いが同席させてもらう。おいお前ら、依頼人の助手殿に自己紹介しろ」

 

 アロン氏が促すと、三人が次々に名乗りをあげてゆく。

 

「ダージだ。先日は世話になったな」

 

 一番最初は、市場でリリア嬢を護衛していた狼獣人だ。

 

 先日の一件で気に入られたのか、気安い様子で手を振ってくる。

 

「マーレだ」

 

「シップルと申します。以後お見知りおきを」

 

 続いて猫獣人の女と蜥蜴人が声を上げる。

 

 マーレと名乗った猫獣人はこちらをジロリと睨んでいる。

 

 猫獣人は一般的に人見知りが激しい気質だと聞いているから、初対面の俺はまだ仲間だと認められていないのだろう。

 

 まあ、気にするほどではない。

 

 リザードマンの男は口調こそ丁寧だが、まったく表情が読めない。

 

 とはいえ、その金色の瞳は俺の顔を興味深げに覗き込んでいる。

 

 どうやらマーレと違いこちらを敵視しているわけではないらしい。

 

 親しげ、とは程遠い視線だったが。

 

「すまんなブラッド殿。俺らはあまり礼儀作法に詳しくなくてな。悪く思わんでくれ」

 

「いや、別に気にしてないさ」

 

 この厳ついメンツで変に愛想良くされても気色悪いからな。

 

「……さて、まずは説明を聞きたい、ということだったな」

 

 トントン、と煙草の灰を灰皿に落とすと、アロン氏が話を切り出した。

 

「ああ。悪いが、仕事を引き受けるかどうかはあんたらの話を聞いてからにしたい」

 

 そう言った次の瞬間。

 

「あーん? ビビってんのか? お前」

 

 ガン、とテーブルに片足を上げ、猫獣人のマーレ嬢がギロリとこちらを睨んできた。

 

 どうやら威嚇しているようだ。

 

 何となく、知り合いの竜狩りバカ女を思い出す。

 

 雰囲気はそっくりだ。

 

 もっとも迫力という点でいうならば、彼女に比べれば目の前のマーレ嬢は子猫みたいなものだったが。

 

 とはいえ、舐められたままでは話が進まない。

 

「別にケンカしに来たわけじゃないが……腕っぷしを見せて話が進むなら、俺としても(やぶさ)かではないが」

 

「上等だこら!」

 

「おいマーレ、やめとけ。依頼主殿を瞬殺する腕前だぞ。お前じゃ逆立ちしても勝てん」

 

「あぁん? ダージてめぇビビッてんじゃ………………マジで?」

 

 狼獣人のダージ氏が慌ててマーレ嬢を嗜める。

 

 そんな様子に一瞬彼女が激高しかけるが、すぐに動きが止まる。

 

「マジだ。死ぬぞ。お前は一度でも依頼主殿に勝ったことがあったか?」

 

「ウソだろ……」

 

 この世の終わりみたいな顔で俺を見るマーレ嬢。

 

「…………私を強さの物差しにしないで欲しいんだけど……」

 

 ボソッとリリア嬢が呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。

 

 

「……さて、場も和んできたところだ。さっそく本題に入ろうか」

 

 さすが傭兵団の長。

 

 この微妙な空気をものともせずに強引に話を進めだした。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 アロン氏の話す内容をざっくり要約するとこうだ。

 

 

 彼らは『遠雷旅団』という傭兵団で、アロン氏はその団長をやっている。

 

 席に着いている三人はそれぞれ小隊を率いる隊長格、と言うことらしい。

 

 で、遠雷旅団にはもう一人、隊長格がいた。

 

 

 シーラという獅子獣人の女性だ。

 

 彼女はアロン氏の最も信頼のおける幹部であり、そして彼の妻だった。

 

 

 『遠雷旅団』は四年ほど前、とある戦場に赴き……そして多くの仲間を失った。

 

 前線よりかなり離れた場所で、皆の警戒心がまだ薄い頃合いを狙った奇襲だったそうだ。

 

 そしてシーラ氏もそこで命を落とした。

 

 敵に襲われたアロン氏をかばっての死だったそうだ。

 

 だが、そこで一つの偶然……というか奇跡が起きた。

 

 リリア嬢の父親が通りかかったのだ。

 

 

 彼はもちろん聖剣錬成師だ。

 

 前線で戦う貴族たちが持つ聖剣を調整するため、先を急いでいたらしい。

 

 そして彼は、さらに偶然なことに『封印瓶』を持っていた。

 

 おそらく聖剣に万が一のことを考えて、予備のものを携行していたのだろう。

 

 それで人造精霊の御霊のように、シーラ嬢の魂を封印したのだそうだ。

 

 

「これが、我が妻だ」

 

 話が終わると、アロン氏は腰に身に着けた魔導鞄(マジック・バッグ)と思しき鞄から瓶を取り出しテーブルの上に置いた。

 

 確かに封印瓶だった。

 

 中には淡く発光する球体が浮かんでいる。

 

「……これは」

 

 そして、思わず息を呑んだ。

 

 瓶の周囲には、複雑な術式がびっしりと刻まれていた。

 

 ざっと見た感じだが、魂の崩壊と劣化を防ぐと同時に記憶と人格を保存する術式が組み込まれているように見える。

 

 見える……と言ったのは、バカみたいな密度の術式が何層にも堆積しているせいで、その全貌を確認することができなかったからだ。

 

 おまけに死霊魔術や精霊魔術、それに古代魔術と思しき魔術構文があちこちに組み込まれているようだ。

 

 恐ろしく高度かつ精緻な術式である。

 

 これはおそらく、リリア嬢の家に伝わる術式だろう。

 

 しかも門外不出の。

 

 少なくとも、ただの封印瓶にはこのような術式は刻まれていない。

 

「貴方なら、一目見ただけでこの術式の価値が分かるはずよ。……報酬にはこの術式も含まれているわ。どう? 受ける気になったかしら?」

 

 リリア嬢が俺の耳元でそう囁いた。

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