パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第159話 『ワーズ家の秘匿ダンジョン①』

「……秘匿ダンジョンだと?」

 

「そう。このオルディスには、ワーズ家が所有しているダンジョンがあるの」

 

 さらにアロン氏とリリア嬢の話を詳しく聞いていくと耳慣れない単語が飛び出した。

 

 耳慣れないだけで、もちろん意味は知っている。

 

 秘匿ダンジョン。

 

 王国の歴史的な経緯から『秘匿ダンジョン』と呼ばれるが、必ずしも隠されていたり秘境に存在する訳ではない。

 

 簡単に言えば、国や冒険者ギルドが管轄する一般的なダンジョンとは異なり貴族や王族などが個人や一族で所有するダンジョンのことだ。

 

 もちろん貴族や王族だけでなく、ワーズ家を始め老舗だったりこだわりの強い聖剣工房がダンジョンを所有しているのはある意味当然ではある。

 

 ……まあ、元職場のようにダンジョンを所有せず、一般に流通している素材ばかりを使う工房も多いが。

 

「それで、先日話した依頼内容にも関わってくるのだけど……」

 

 リリア嬢が話を続ける。

 

「ワーズ家は聖剣錬成に特殊な鉱石を使用するの。それが聖剣と人造精霊との親和性を高め、性能を飛躍的に向上させるというわけ。だけど……」

 

「……だけど?」

 

 彼女の言いたいことを半ば察しつつ、俺は先を促す。

 

「依頼の内容に、素材採取を目的としたダンジョン攻略が含まれているのは覚えているわよね? 貴方にも秘匿ダンジョンに同行してもらいたいの」

 

「……こんなに屈強な護衛がいるのにか?」

 

 俺は部屋を見回して言った。

 

 もちろんダンジョン攻略に同行するのは(やぶさ)かではない。

 

 むしろ大歓迎だ。

 

 レア素材が手に入る私有ダンジョンに立ち入れる機会なんてそうそうないからな。

 

 ただ、目の前にいるアロン氏ら『遠雷旅団』の面々は、明らかに実力者揃いだ。

 

 彼らは冒険者ではなく傭兵だそうだが、それでも大抵のダンジョンは踏破できるだろう。

 

 わざわざ俺が同行する必要はないはずだ。

 

「そのことなんだけど……」

 

 リリア嬢が気まずそうな様子で声のトーンを落とす。

 

 それからアロン氏らをチラリと見た。

 

「我々も納得の上、ここにいる。それに俺たちは傭兵だ。ダンジョン探索は専門じゃない」

 

「分かってるけど……ごめんなさい」

 

 謝罪するリリア嬢とは対照的に、アロン氏は相変わらず葉巻を咥えながらも鷹揚に頷いてみせる。

 

 なかなかプロ意識の強い連中だ。

 

 その辺の線引きが分かっている(・・・・・・)奴らと仕事をするのは気分がいい。

 

 俺は連中が少しだけ気に入ってきた。

 

 風体はさておいても、依頼人としては悪くないタイプだ。

 

「ブラッド、もしかしたら貴方なら知っているかもしれないけど……秘匿ダンジョンは基本的に部外者が立ち入れないように魔術による結界で封じてあるわ。……うちのダンジョンは特に厳格(・・・・)で、何十年も前からそういう風になっているの」

 

「……なるほど、だからの俺ということか」

 

 おおよその事情は理解できた。

 

 ワーズ家の秘匿ダンジョンは、かなりシビアな条件で立ち入ることができる人物を限定しているのだろう。

 

 多分だが、人族(・・)で、聖剣錬成に相応の心得のある者。

 

 だとすれば獣人のアロン氏らは内部に同行できない。

 

「……話が早くて助かるわ」

 

 俺が頷くと、リリア嬢はホッとした表情を見せた。

 

「念のため説明すると、人族以外の者がダンジョンに立ち入ろうとしても、結界に拒絶されてしまうの。それに、ちょっとした聖剣の知識も試されるわ。もちろんダンジョン内は魔物も出現するから、戦闘の心得がないとダメ。その意味では、貴方以上の適任はいないのよ……ブラッド、貴方は一応冒険者もやっていたはずよね?」

 

「ああ、等級はBだけどな」

 

「十分よ……それで、どうする?」

 

「おっと、そうだったな」

 

 彼女から遠慮がちに問われ、そこでまだ俺が肝心の返答をしていなかったことを思い出した。

 

「依頼は受けるよ。アロンさん、リリアさん……よろしく頼む」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ワーズ家の秘匿ダンジョンはオルディス外周部から少し離れた場所にある。

 

 冒険者たちが通うダンジョンといえば外周部にある遺跡群だが、目的のダンジョンはそのさらに奥の小高い丘を越えた先の森にあるという。

 

 俺たちが今いるのは、その森に少しばかり分け入った場所だ。

 

 この周辺は当然ながら私有地なので、冒険者の影はない。

 

 おまけにかなり長い間人が立ち入っていないのか、ここへと至る道も荒れ放題である。

 

 おかげでアロン氏ら『遠雷旅団』の主な仕事は、俺たちの行く手を阻む雑草や灌木の伐採……要するに藪漕(やぶこ)ぎとなっていた。

 

「に”ゃっ!? 変な虫が口に入った! ぶぇっ!? まっずぅーっ!!」

 

「俺の故郷には『草薙の剣』っつう伝説の剣があるんだが……そいつを持って来ればよかったぜ。まあ、あればだがな」

 

「お前ら、無駄口を叩くな! 我らが姫様と王子殿を安全かつ快適にダンジョンまでエスコートするのが俺らの仕事だぞ」

 

「へいへい」

 

「分かってますよ、団長」

 

 猫獣人のマーレ嬢が両手に持った山刀(マチェット)で草を刈りながら渋い顔で何かを吐き出し、狼獣人のダージ氏は苦笑しつつ剣でバサバサと下草を斬り払っていく。

 

 アロン氏の獲物は大剣だ。

 

 軽口を叩きつつ、灌木を豪快になぎ倒しながら悠々と進んでいく。

 

 さすがに弁えているのか、葉巻は咥えていなかったが。

 

 

 ちなみに俺とリリア嬢はその後ろをのんびりとついていくだけのお仕事である。

 

 まさに王族の散歩だ。

 

 一応ダンジョン探索用にセパとレインは連れてきているので、藪漕ぎの手助けくらいはできなくもないのだが。

 

 もちろんリリア嬢も相応に武装している。

 

 だから先ほど二人で手伝いを申し出たのだが……アロン氏にきっぱりと断られた。

 

 曰く、『この手の仕事は俺らの専門だ』らしい。

 

 なるほど正規軍や王族などが通りやすいように道を切り拓くのが傭兵の仕事だといえばそうなのだが、プロ根性もここまで極まっていれば感心するしかない。

 

 ちなみにカミラがこの場にいれば、風の精霊魔術などで一瞬で道が切り拓かれたと思うが……彼らの名誉の為にも口には出さないでおいた。

 

「そういえば、『遠雷旅団』の他の面々は来なくてよかったのか」

 

 手持ち無沙汰なので歩きながらリリア嬢に話題を振ってみる。

 

 たしか、『遠雷旅団』に所属する傭兵は二十数人ほどいるらしいが。

 

 だが彼女は肩をすくめただけだ。

 

「三人で十分だそうよ。確かに大勢いたところでこの小道ではあまり意味がないかもしれないわね」

 

「それはそうだけどな。だったら他の連中は今なにをしているんだ?」

 

「オルディス周辺の集落で魔物駆除だとか、そこに向かう行商人の護衛だとかを個別に請けてもらっているわ。皆、身体を動かしておきたいそうよ」

 

「そうなのか」

 

 傭兵団のスポンサーはリリア嬢だ。

 

 だから彼らに金銭面での不便はないはずだが……昼間に酒場で飲んだくれているタイプの連中ではないらしい。

 

「この辺りはそうでもないと聞いたけども、それでも獣人に対する偏見がないとは言えないでしょうし、ただでさえ傭兵団なんて冒険者よりも物騒な印象だし……イメージアップ作戦だそうよ。私としても拒否する理由もないし、好きに過ごしてもらっているわ」

 

「なるほど」

 

 そういえば、さっき城門付近で傭兵団のメンバーらしき連中とすれ違ったが、みな屈強かつ礼儀正しい連中だった。

 

 おそらくアロン氏の方針だろうが、感心なことだ。

 

 そういう意味ではマーレ嬢はあの態度で大丈夫なのだろうか、と一抹の不安が去来したが、そういえば彼女もレストランの従業員にはまともな態度を取っていたからな。

 

 多分あれは『ギャップ作戦』なのだろう。知らんけど。

 

 それはさておき。

 

「……お、あれが秘匿ダンジョンか」

 

 アロン氏らが切り開いた道をしばらく進むと、森の中に(うず)もれるようにして佇む石積みの遺跡が見えた。

 

 とはいえ開口部の状態は良く、閉じられた黒鉄製の扉にはうっすらと魔法陣らしき紋様が浮かび上がっていた。

 

「ええ、そうよ。あれがワーズ家の秘匿ダンジョン。……ただ、内部に入る前に一仕事必要みたいね」

 

「みたいだな」

 

 ここまでの道のりで察していたが、遺跡の周辺には魔物が巣食っていた。

 

 ……矮翼竜(ワイバーン)だ。

 

 そいつらが、遺跡の天辺に文字通り巣を作っている。

 

 (つがい)と、その仔竜が数体。

 

 もっともその数体も巣立ち前らしく、ほとんど親と変わらない体格をしている。

 

 範囲攻撃系の魔術がなければ、少々面倒な構成だ。

 

「ガル……藪漕ぎも飽きた頃だ……次が竜狩りとは、なかなか美味しい仕事に当たったようだな」

 

 唸り声を上げながら、アロン氏が不敵な笑みを見せた。

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