パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第160話 『ワーズ家の秘匿ダンジョン②』

「全部で四体か……俺が正面から殴り込んで親竜二体を仕留める。ダージ、マーレは左右から回り込んでそれぞれ仔竜をやれ」

 

「了解」

 

「了解」

 

 すばやく遺跡の風下に移動し、茂みに身を隠しながらアロン氏が二人に指示を出していく。

 

 さすがはプロの傭兵だ。

 

 矮翼竜(ワイバーン)を目にした瞬間、さきほどまでのゆるい雰囲気から一変。

 

 三人は兵士の顔つきになっていた。

 

「リリア殿とブラッド殿はそこでのんびり休憩でもしててくれ。三分で片付けて戻ってくる」

 

 アロン氏が一旦俺たちのところまで戻ってくると、不敵な笑みを浮かべながらそう言った。

 

 なかなかに頼もしい連中だ。

 

 とはいえ、ワイバーンはどこぞの人外じみた竜狩りのような無茶苦茶な戦い方をしない限りそこそこ強敵だ。

 

 三人の実力を不安視していないが、万が一のことがある。

 

『レイン、セパ、いつでも出られるよう準備はしておけ』

 

『りょーかい』

 

『承知しました、ご主人』

 

 念のためいつでも助っ人に入れるよう身構えつつ、俺は茂みの中にしゃがみこんだ。

 

「まあ、見てなさい。あの三人は特に実力者だから」

 

 俺の隣でリリアは自慢げにそう言っているが、彼女も休憩なんてせず臨戦態勢を取っている。

 

 彼女の言葉からは彼らに対する信頼は感じ取れるものの、俺と同じように油断はしないタイプなのだろう。

 

「まあ、お手並み拝見といこうか」

 

 

「……お前ら、行動開始だ!」

 

「ガウッ!!」

 

「シャッ!!」

 

 アロン氏の合図とともに、ダージ氏とマーレ嬢が素早く散開。

 

 前者は下草の中を這うようにして、後者は軽快に近くの木々を伝いながら。

 

 いずれにしても音もなく、仔竜を仕留めるべく森の中へと消えていった。

 

 それを見届けたあと、アロン氏が立ち上がり咆哮を上げる。

 

「――ガオオオォォォ!! 来いやドラゴン! 食い殺してやるぞッ!」

 

 ビリビリと腹の底を震わせる大音量が、森の中に響き渡る。

 

 直後、アロン氏は獅子獣人の強靭な肉体にものを言わせ、大剣を肩に担いだまま大きく跳躍した。

 

 それと同時に、巣の周辺でのんびりと寛いでいたワイバーンたちが首をもたげ警戒心をあらわにするが――遅い。

 

「オオオオオォォォ!!」

 

 落下の勢いと振り下ろしの遠心力を乗せた強烈な斬撃が、地上にいた親竜の一体を襲った。

 

『グオッ!?』

 

 ガシュッッ!

 

 肉と骨が断ち切られる鈍い音がして、ワイバーンの身体が真っ二つになる。

 

 もちろん相方を殺されたワイバーンも黙っていない。

 

『ガアアァァァッッ!』

 

 怒り狂い、咆哮を上げながら鋭い牙や鉤爪でアロン氏に襲い掛かるが――

 

「むんっ!」

 

 ガインッ!

 

 なんとアロン氏はワイバーンの突進を、大剣の腹で受け止めた。

 

 相手は下位種とはいえ、竜である。

 

 突進の勢いは暴走した馬車くらいはあるはずだ。

 

 それを、魔術による強化もなしにたった一人で止めている。

 

 とんでもない膂力だ。

 

「ぬおおおおぉぉぉッ!」

 

『ギギッ!?』

 

 おお、凄い。

 

 アロン氏はワイバーンの攻撃を受け止めただけでなく、突進の勢いを完全に殺して……いや、押し返していた。

 

「これで……終いだ!」

 

『ガッ――』

 

 押し返した勢いのままアロン氏が身体をねじり、横薙ぎに大剣をワイバーンに叩きつけた。

 

 バツン、と音がして竜の首が根元から断たれ宙を舞う。

 

 周囲に静けさが戻る。

 

「ふん、こんなものか」

 

 大剣を振るい血を払うアロン氏。

 

「ダージ、マーレ! そっちはどうだ!」

 

「こちらも制圧完了だ」

 

「同じく」

 

 ダージとマーレの声が高い場所から聞こえた。

 

 見れば、いつのまにか遺跡の上にある巣の上に二人が立っている。

 

 どちらも首尾よく仔竜を倒したのか、血にまみれた武器を掲げて得意げな様子をしている。

 

「ね、言ったでしょ?」

 

 リリアが得意げに微笑んでいる。

 

「ああ、すごいな」

 

 素直に賞賛した。

 

 もちろんこの手の集団戦は冒険者も得意だが……隠密性といい連携の練度といい、実力的には等級C以上……パーティー全体の戦闘力ならばBに限りなく近いと言っていいかもしれない。

 

 端的に言って『いいものを見せてもらった』といったところだろうか。

 

 最近は他のパーティー(連中は冒険者ではないが)に混ざって行動することがなかったので、なかなか面白いものを見せてもらったな。

 

 俺もダンジョン探索は気合を入れて行くとしようじゃないか。

 

「よし。俺らはこいつらを処理しながらアンタらの帰りを待つとするよ。仕事の後にはバカでかい竜のステーキとテールスープが待ってるぜ」

 

 倒したワイバーンの血抜きをしながら、アロン氏が上機嫌な様子で俺に話しかけてきた。

 

 ダージとマーレは周囲から倒木や枯れ木などを集めて焚き木の用意をしている。

 

 すでに周囲には、彼らの魔導鞄(マジック・バッグ)から取り出したと思しき調理器具が並べられていた。

 

「あんた、料理もできるのか」

 

「おいおいバカにするなよ? 傭兵ってのは武器を振り回すだけが能じゃねえ。煮炊きができて一人前だ」

 

 俺の言葉に、ニヤリとアロン氏が笑う。

 

 よくよく考えてみれば、そのあたりは傭兵も冒険者も変わらない気がする。

 

 当然料理だって当然にできるのだろう。

 

 ……傭兵料理、楽しみだな。

 

「確かにそうか。それじゃあ、料理が冷めないうちに戻ってくるよ」

 

「遅くなっても温めなおしてやるから、好きなだけ潜ってこい」

 

 そんな会話を交わしているうちにアロン氏が竜の解体を終え、肉の下処理に入っていた。

 

 なかなかの手際の良さだ。

 

 これは期待していいのではなかろうか。

 

「ブラッド、そろそろ行くわよ」

 

「ああ」

 

 リリア嬢に促され、俺はダンジョンの入口に立った。

 

 扉は頑丈な黒鉄製。

 

 ノブを中心としてうっすらと魔法陣が浮かび上がっている。

 

 前情報のとおり、封印が施されているようだ。

 

「気を付けて。触れるくらいなら問題ないけど、うかつに解除しようとすると魔法陣に弾かれて手が無くなるわよ」

 

「それは怖いな。で、どうやって解除するんだ?」

 

 話の流れでそうは言ったものの、魔法陣の構造はほぼほぼ理解できている。

 

 封印の術式、定められた種族と正式な手順以外での解除を拒絶し反撃する術式。

 

 あとは魔法陣が描かれている扉が植物などに侵食されないよう、ごく微弱な電撃魔術が組み込まれているようだ。

 

 たしかにこれではうかつに触れない。

 

 解除方法は――

 

「ここと、ここを見て」

 

 リリア嬢が魔法陣の左右の端を順番に指さした。

 

 その二か所には、穴が開いていた。

 

 扉の鍵穴としてはかなり不自然な位置だ。

 

 そしてその『穴』を中心として、扉の魔法陣と重なるように手のひらサイズの魔法陣が広がっている。

 

 難解かつ回りくどい記述ではあったが、すぐに内容は理解できた。

 

「聖剣への属性付与術式、に見えるが……」

 

 魔法陣の構成には全く関係ない記述だ。

 

 なんでこんなものが……と口から言葉が出かかったところで気づいた。

 

「なるほど、これが『鍵穴』か」

 

「……驚いたわね。もうちょっと解読で悩むかと思ったのだけど……正解よ」

 

 意外そうな様子でリリア嬢がそんなことを言ってくる。

 

 ……ん? ちょっと待て。

 

「もしかして試したのか?」

 

「今さらそんなことをするつもりはないわよ! ……私だって初見のときは五分くらいはしっかり読み込まなければ分からなかったんだから。そのくらいは待つつもりだったし、どうしても分からなければ教えるつもりだったし!」

 

 早口でそうまくしたてた、彼女の視線は少し泳いでいた。

 

 まあ彼女のプライドの高さは分かっていることだ。

 

 俺の聖剣錬成師としての実力がどのくらいか試したくなったのも分からない話ではない。

 

 もちろん俺もその程度でへそを曲げるような性格じゃない。

 

「じゃあ、さっさと攻略してしまおう。……持ってきてるんだろ? 鍵ってやつを」

 

「ええ、もちろんだわ。その魔法陣の記述が読めるならば、解除方法も分かるわね?」

 

 言って、リリア嬢が自分の魔導鞄から形状の異なる鍵を二本取り出して、そのうちの一本を俺に手渡してきた。

 

「念のため確認しておくが、鍵を差し込むのと同時に魔法陣の付与術式に記載された魔力量を流し込むんだよな? 聖剣錬成時と同じ要領で」

 

「それで問題ないわ。じゃあ、やるわよ。タイミングはバラバラで大丈夫だから」

 

「了解」

 

 二人で左右の鍵穴に鍵を差し入れ、術式を解除。

 

 次の瞬間。

 

 扉に描かれたすべての魔法陣がフッと消え、ガチン、と錠が外れる音がした。

 

()いたわ」

 

 言いながら、リリアがノブを回し軽く引くと、重厚そうな黒い扉は音もなく開いた。

 

 その隙間からヒンヤリとした空気が漏れ出てきて、俺の足元に纏わりついてくる。

 

 いいねぇ、この雰囲気。

 

 やはりダンジョン探索はワクワクする。

 

「……行きましょう」

 

「ああ」

 

 俺たちは頷き合ってから、『秘匿ダンジョン』へ足を踏み入れたのだった。




【備 考】
・地上の魔物はちゃんと肉体があるので死亡しても基本的には消滅しません。
・ダンジョンの魔物は基本的に魔素で構成されているため死亡すると素材となる部位以外を残して消滅します。
 ※なおどちらも例外はあります(保険)
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