パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第161話 『ワーズ家の秘匿ダンジョン③』

 ダンジョンの中に足を踏み入れると、埃っぽい淀んだ闇が俺たちを包みこんだ。

 

「ずいぶんと暗いな」

 

 ダンジョン化した遺跡は基本的に松明が設置されていたり光る苔などが生育していることが多いため、真っ暗だということはあまりないのだが……ここは違うらしい。

 

 もちろん俺も魔導カンテラを持参しているから、仮に照明のない闇のダンジョンでも支障はないのだが。

 

 と、思ったらリリア嬢が動いた。

 

「浅い階層はダンジョン由来の照明が存在しないの。……すぐに灯りを付けるわ。ええと……ここね」

 

 言いながら、彼女入口近くの壁面を撫でる。

 

 すると、ぼっ、ぼっ、と壁面の松明が灯り始めた。

 

 もちろん本物の松明ではない。

 

 この青白い炎はダンジョンの魔力を燃料にしているが、後付けの『魔導式』だ。

 

 とはいえその光は弱々しく、松明ごとに光量にムラがある。

 

 全体的に蝋燭よりはマシ、くらいの明るさだ。

 

 もしかしたら、長年使っていなかったせいで魔力の循環がうまく行っていないのかもしれない。

 

 確かに王都からここまで通って定期的に管理するのはかなり大変だ。

 

 察するに、ワーズ家の聖剣工房はオルディスに関係者がいないようだし。

 

 とはいえ、それ自体は問題ない。

 

 むしろ……

 

「へぇ、なかなかいい雰囲気のダンジョンだな」

 

「それは皮肉かしら?」

 

 なぜかジト目で睨まれた。

 

 普通に賞賛したんだが……さっきの発言のどこに皮肉要素があるというのか。

 

「もしかして、言葉が足りなかったのか? ダンジョンってのはこういう陰鬱な雰囲気こそが魅力だろう。個人的には後付けとはいえ松明の色が青白いのはポイント高いな。壁面の年季の入り方も悪くない。罠もあると聞いたし、魔物は……蟲系とアンデッドが中心だったか? いいじゃないか」

 

「アンタ、その様子だと皮肉じゃなく本気の賞賛なのね……」

 

 なぜか頭を抱えられた。

 

 解せぬ……

 

 聖剣錬成師や魔道具師をそこそこ長くやっていれば、なんだかんだで自らダンジョンに潜り素材を調達するようになるものだ。

 

 そうなれば自ずとダンジョンの構造に詳しくなるし、そのダンジョンが生じた歴史的な経緯だとか、内部に存在する罠や魔物だとかに興味が湧くのは自然な感情だろう。

 

 そういう意味ではこのダンジョンはなかなか『好み』だ。

 

 オルディスのダンジョン群はこれらの要素を持つ場所が多いが、この『秘匿ダンジョン』はさらにレア素材が手に入るという。

 

 ここまで至れり尽くせりだというのに賞賛しないというのはさすがに無礼というものだろう。

 

 ……まあ、リリア嬢に俺の気持ちは届いていないようだが。

 

「まあ、いいわ。とにかく先に進みましょう」

 

 なぜか疲れた声でそう言ってから、リリア嬢が先に進み始めた。

 

 ちなみに内部構造と罠の設置ポイント、魔物の種類は事前に確認済みだからそれほど危険な場所はない。

 

 一応気を付けるべきは、最下層近くはアンデッドが徘徊しているため『腐れの呪詛』をもらわないようにすることだろうか。

 

 もっともセパの『切断』の力でほぼ無効化できるから、とくに問題はない。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ブラッド、待って」

 

 しばらく進むとリリア嬢が立ち止まった。

 

「あ、ここ。左壁面は触れないで。スリットから刃が飛び出して指を斬り落とされるわよ。それと、そこから三歩先の色が変わっている床石は踏み抜かないで。天井から噴射された強酸を浴びて大火傷するわよ」

 

「了解。指を斬り落とされて焦ったところに酸をぶっかけられるわけか。なかなか殺意の高いダンジョンだな」

 

「秘匿ダンジョンなんだから当然でしょ」

 

 リリア嬢がなぜか得意げな顔でそう言ってくる。

 

 俺が酸を浴びるときは、あんたも巻き添えになるのはほぼ確定なんだが……とは、あえて口に出して言わない。

 

 一応依頼人殿だからな。

 

「そういえば、倒した魔物の素材はもらっていいんだよな?」

 

「ええ。好きなだけ倒して好きなだけ素材を集めて構わないわ」

 

「そいつはありがたい。秘匿ダンジョンの魔物を狩れる機会なんてそうそうないからな」

 

「ふふ、これも報酬の一部よ。遠慮はいらないわ」

 

 そんな会話を交わしつつ進んでいく。

 

 

 このダンジョンは比較的小規模で、事前に確認した見取り図では四階層構造だ。

 

 第一、第二階層は魔物がいない代わりに大量の罠が張り巡らされており、第三、第四階層に入ると罠の頻度は減少するものの魔物が出現し始めるとのこと。

 

 ダンジョン探索後半戦が俺のお楽しみタイムというわけだ。

 

 

 ちなみに今回必要とする素材は第四階層の最奥部、その壁面に露出した鉱脈から採れる『還竜鉱』という希少鉱石だ。

 

 本来は大地の奥深くを流れているはずの『還流する龍脈』のごく細い支流が何かのはずみで地上付近に現れ、そこにある鉱脈そのものが強い魔力を帯びることがある。

 

 それらは『還流する龍脈』由来の魔力を帯びているため人造精霊や霊魂のような存在との親和性が極めて高い。

 

 それゆえ、今回はコイツが聖剣の素材として必須になるという訳である。

 

 もっとも、聖剣の性能は本体に使用される素材の希少さよりも人造精霊の性能が占める割合がはるかに高いので、結局は腕のいい精霊術師と組むことの方が重要だが。

 

 

 そんな調子で第二階層までは罠を回避しつつ順調に踏破。

 

 いよいよ魔物の出現する第三階層に足を踏み入れたのだが……

 

『ギギッ!』

 

『キキキッ!!』

 

『キシキシ、キシキシ……』

 

「ひっ……なによこれ!」

 

 階段の先に続く通路を進み、その先の部屋の扉を開き……中を一目見た瞬間、リリア嬢が悲鳴を上げバタン! と扉を閉じた。

 

 顔が真っ青なのは、魔導松明のせいだけではないだろう。

 

「とんでもない数の魔物だな」

 

 俺もチラッと見えたのだが……

 

 礼拝堂のような広々とした部屋の中は、蟲型の魔物で埋め尽くされていたのだ。

 

 内訳は、甲虫型が一番多く、次に蜘蛛型、そして百足(ムカデ)型がそれに続く。

 

 ざっと見積もっても、数百体はいる。

 

 二人がかりとはいえ、とても剣だけで倒しきれるような数ではない。

 

「どうしよう……確かに三年くらいこのダンジョンは入ってなかったけど……こんなに魔物が増殖することってあるの!?」

 

 リリア嬢が絶望的な表情で頭を抱えている。

 

「このダンジョンの奥には『還竜鉱』の鉱脈があるんだろ? おそらくだが、他のダンジョンと比べて魔力が濃いうえ階層や場所によって魔力のムラができやすい構造なんだろう。浅い階層に罠が多く、ダンジョン由来の照明が存在していないことからもそう推定できる」

 

「今さら冷静な原因分析はいらないわよ! それより、どうやってここを突破するかが問題だわ」

 

「それならば問題ない」

 

「問題ないわけがないでしょ! アンタがそれなりの剣士なのは分かってるけど、あれを一瞬で滅ぼせるような攻撃手段を持っているとは思えないわよ」

 

「いや剣は使わんぞ。聖剣錬成(・・・・)なら使うが」 

 

「へ?」

 

 リリア嬢がお前は何を言っているんだ、みたいな顔になる。

 

「まあ見てろ。聖剣工房の中だけが聖剣錬成の現場じゃないことを教えてやる」

 

 言いながら、俺は魔導鞄から魔法陣の描かれた羊皮紙の束を取り出した。

 

「……! うそ、そんな使い方が……!」

 

 そいつを一目見るなり、彼女の目が大きく見開かれた。

 

 さすが同業者、話が早くて助かる。

 

「こいつは起動してしばらくしたあと、自動的に触れた場所から素材(・・)を奪って聖剣を錬成、高速射出する術式だ。部屋の中にばら撒けば……あとは分かるな?」

 

「まさか聖剣錬成陣そのもの(・・・・・・・・・)を攻撃に転用するなんて……今まで考えたことすらなかったわ! ふふ……ふふふ……っ! さすがアステル様が見込んだ男ね。アンタに依頼して正解だったわ!」

 

「いてっ!? おい背中を叩くな!」

 

 新しい知見を得て興奮したのか、リリア嬢がバンバンと俺の背中を叩いてくる。

 

 この女、存外力が強いので普通に痛い。

 

「とにかく、やってみるぞ」

 

「ええ、やっちゃってちょうだい!」

 

 

 気を取り直して、扉を開き羊皮紙を二十枚ほど、部屋に放り込む。

 

 ガガガッ! と凄まじい音が扉の向こう側でしばらく響き渡り――魔物は十数秒ほどで部屋から一掃された。

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