パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
第三階層の魔物溜まりを突破すると、あとはそこまで危険な場面もなく第四階層まで踏破することができた。
結局出てくる魔物と言えば、蟲型の魔物とスケルトンだけである。
蟲型はそれなりに強力な個体もいるにはいたが、俺とリリア嬢の腕ならば何の障害にもならない程度だ。
そもそもリリア嬢についても、一対一の戦闘においては無類の強さを誇っていたしな。
「ハァッ!」
『ギイィィッ――――』
彼女よりも数倍は大きな
というか聖剣の一振りで七、八回は斬撃が生じているようだ。
おまけに鋼鉄並みの硬度を誇る甲虫魔物の外殻をまるでバターみたいに斬り裂いている。
なるほど、あれがリリア嬢の聖剣の本来の力か。
さすがは王国屈指の聖剣錬成師の仕事ぶりである。
「ふふん……私の『
ただ、魔物を倒したあとに自前の聖剣を自慢したいのか、いちいち俺の方にドヤ顔を向けてくるのはやめてほしい。
一方俺といえば……
『キシキシッ!』
リリア嬢の戦いを観覧していたら、突如天井にあった亀裂部分から
数は五体。
チラリと彼女を見やるが、すでに少し先で複数体の魔物と交戦状態に入っていた。
一応こちらが魔物に襲われたことは認識しているようだが、相手をしている魔物が存外に強くこちらの援護に駆けつける余裕はなさそうだ。
そもそもこのくらいで助っ人に入ることもない、と考えているのかもしれない。
まあ、いずれにせよ問題ない。
「レイン、いくぞ」
『うえぇぇ蟲型キモイ……なんか猛毒持ちって魔力からして苦いんだよね……』
レインの嫌そうな声が頭に鳴り響く。
「我慢しろ。ドロドロに腐ったゾンビよりはマシだろ」
『うぅ、究極の選択……』
そんなに嫌なのか……
ちなみに呪詛持ちの魔物は魔力のエグみがキツいそうだ。
とはいえコイツの好き嫌いで斬る敵をえり好みできるほど恵まれた状況ではない。
『ギギッ!』
「おっと」
突出してきた最初の一体の頭を
――バシュン!
次の瞬間、魔物が身体ごと消滅した。
さすがはレイン、愚痴はこぼしてもダンジョン産の魔物に対しては無敵の強さを発揮してくれる。
『うぅ苦い……けど、これはこれでありかも!』
「新たな嗜好に目覚めたなら、あと四体は楽勝だな」
『や、やっぱさっきのナシで!』
そんなやり取りをしつつ、サクッと魔物を討伐完了。
その後も似たような状況が何度か訪れたが危ない場面は特になく、ついに第四階層最奥部に到達したのだった。
◇
「これが『還竜鉱』の鉱脈か」
第四階層の最奥部は礼拝堂だった。
右壁面が半分ほど崩壊し、岩盤が露出しており、淡い燐光を発している。
「……綺麗」
俺の隣に立つリリア嬢が小さく声を漏らすのが分かった。
「……ああ」
同感だ。
その光景を一言で言い表せば、『満天の星空』。
地下深くにありながら夜空を思わせる『還竜鉱』の青白い
採掘するのがもったいないほどだが、コイツを持って帰らなければ次の段階に進まない。
とはいえ、必要量はこの星屑たちの、ほんの一欠片。
この手の鉱脈は脆いので、持ってきた
「それじゃ、さっさと採取して……リリア?」
「…………」
採取を促そうと彼女の方を見ると、どうも様子がおかしかった。
先ほどの調子が嘘のように目が虚ろで、俺の声にも反応せず無言で還竜鉱をじっと見つめている。
ただ見惚れているにしては、さすがに胡乱な状態だ。
これは……
「おい、リリア!」
「…………なん、デ、ワタシ、殺しタ、の」
肩を揺するが、彼女は虚ろな瞳のまま意味不明な言葉を呟いただけだ。
彼女の身に何が起きたのかはすぐに気づいた。
周囲には、冷たく不穏な気配が漂っていたからだ。
「……クソ、
このアンデッドは他者に成り代わろうとして、身体に憑りつく習性がある。
どうやら『還竜鉱』に気を取られ、気づくのが遅れてしまったようだ。
第四階層はアンデッドが出現すると聞いていたから、この手の対策を万全にしていたのだが……
リリア嬢が無策だったのか、対策をしていたがレイスの力が思いのほか強力で突破されてしまったか。
さすがに後者だろう。
つーか、いちいち他人の装備や対策の強度なんて確認しないぞ!?
おまけに彼女が内部構造を知っているはずのダンジョンだしな。
だが、今回はそれが裏目に出てしまった形だ。
「ぎぎ、ぎギ……なんデお前ハ生きてル……! ズルイ……恨めシい……ッ!」
彼女が白目を剥き、ギリギリと歯ぎしりをしている。
それから手に持った聖剣を反対に持ち替え……自分の首に突き刺そうとして――
「リリアッ!」
ギィン!
とっさに
「ぎゃッ!?」
彼女の口から悲鳴が漏れ、剣を取り落とした。
間一髪だ。
彼女の首筋には浅い傷が付いているが、致命傷には程遠い。
もしかしたら手首の方は折れているかもしれないが、そっちはあとで謝って許してもらうしかない。
今は彼女を助けることが最優先だ。
「セパ、お前の出番だ!」
『りょ、了解ですご主人!』
次の手でセパを引き抜く。
「ヤ、メロ……!」
それから俺は暴れるリリア嬢を無理矢理抱き寄せ、肩口から心臓に向けてセパを深く突き刺した。
「ギギ……やダ……まダ死にたク……な、イ……」
レイスの支離滅裂な断末魔がリリア嬢の口から漏れ……すぐに彼女の身体がガクンと重くなった。
無事、セパの力でレイスだけを『切断』できたようだ。
それと同時に、彼女の寝息が聞こえ始めた。
意識は失ったままだが、生きてはいるらしい。
ふう、とため息をつく。
が、まだ油断はできない。
『…………』『…………』『…………』
『ごご、ご主人! ご主人! なんですかこの人たちは!』
『なんか半透明……? ちょっと綺麗……かもー?』
気が付けば、そこかしこに半透明の人間らしきモノがいた。
天井や壁面に
完全に囲まれている。
おそらくこいつらは、ダンジョンの元になった宗教施設を建造した労働者や信者などの成れの果てだろう。
建物が完成したあと口封じに殺されたか、人柱になったか。
もっともこのダンジョンの内部に墓地のような場所がなかったので、別の場所で死んだ魂が『還竜鉱』の力で引き寄せられたのかもしれない。
この素材は、魂と物体の親和性を高める性質があるからな。
だがそんな事情は、俺たちには知ったことじゃない。
「お前らの人生はもう
『…………』『…………』
レイスたちは何も言わない。
当然だ。
コイツラは人の姿をしているが、本質はただの魔物だからな。
その精神は人間からほど遠く変質してしまっている。
とはいえ、一応こちらの言うことは聞こえていたらしい。
『……ヌ、……メ……』
『……、……ゾ……』
連中はブツブツと何かを囁きながら、スウと姿が消え失せ……完全に気配が感じ取れなくなった。
もちろん俺の言葉に従って自主的に冥府に向かったわけではないだろうが、どうやらこれ以上ちょっかいを出すつもりはないらしい。
「う……あ……痛ったぁー!? ちょっと何これ!? 手首がものすごい腫れてるんだけど!?!?」
と、そうこうしているうちにリリア嬢が目覚めたようだ。
とりあえず精神に影響が出ている様子はないので、少し安心する。
「悪いな。俺がぶん殴ったせいだ。ほれ、回復剤」
「えっ、何でよ!? 魔物とかじゃなくて!?」
「……理由はあとで話す。それより素材採掘だ。手首が治ったらさっさと取りかかってくれ」
レイスに憑依されるなんて醜態を晒したなんて言ったら、このプライドの高い女がどういう反応に出るのか分からないからな。
「えぇ~? 何か含みのある口ぶりね……あっ、この回復剤、王都でも有名な治癒術師のじゃない! ……凄っ! 一瞬で腫れが消えたわ!」
……その後はぶつくさ言うリリア嬢をせっつきどうにか採掘を終えると、どうにか地上まで戻ったのだった。
※補足
ブラッドのアンデッド対策というか状態異常対策ですが、つい最近某魔族の魅了や呪詛を喰らった苦い経験があるため日ごろから万全に万全を重ねているので、レイス程度では手も足も出ない感じです。