パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第163話 『義憤の聖剣錬成師』

「へえ……これがアンタの工房ってわけね。こじんまりとしてるけど、悪くないじゃない」

 

「まあ、ゆっくりしてってくれ」

 

 『還竜鉱』を無事確保できたのならば、次はいよいよ聖剣錬成だ。

 

 場所はといえば、当然の成り行きで俺の工房を使うことになった。

 

 ここのところ外出ばかりで自前の工房を使う機会があまりなかったが……掃除と整理整頓だけはしっかりやっているのでいつでも使える状態だ。

 

「ちょっとブラッド! これはどこで手に入れたの? 見たことない素材なんだけど!?」

 

 個人工房が珍しいのか、興味津々な様子で歩き回り棚の中身や壁に立てかけておいた練習用聖剣などを見物していたリリア嬢が、驚いた声を上げた。

 

「ああ、それは『砂鉄蠍』の尾針だな。最近トレスデンに行く用事があったから買ってきた」

 

「トレスデン共和国!? 片道で何日かかると思ってるのよ!? アンタ、あっちの人だったの?」

 

「いや、別件で向こう産の素材が必要になってな。そのついでに地元産の素材を大量に買い込んできたんだよ」

 

「そんなの商人に頼めばいいじゃない……あ」

 

 とリリア嬢が言いかけて、察したように頷く。

 

「それでも手に入らない素材っていえば……トレスデンは魔族領と接してるから、もしかしてそっちでしか採れない魔物素材とか?」

 

「そういうことだ」

 

 王国の商人が魔族領産の素材を取り扱うことは、基本ない。

 

 輸送コストとか採取の手間で、単純に採算が取れないからだ。

 

 もっとも素材そのものを国内に持ち込むことは禁止されていないので(上級治癒魔術でないと解毒できない猛毒素材など許可が必要なものもあるが)、俺のような職人が個人で輸入したり冒険者に依頼して採取してきてもらうことは可能だ。

 

 ゆえに、個人経営の職人は冒険者との兼業が多い。

 

 まあ、その代表例が俺だ。

 

「それにしても、やっぱり個人の工房主ってフットワークが軽いわね。羨ましいわ」

 

「大所帯でも、調達方法はいくらでもありそうなものだがな」

 

 ワーズ家ほどの有力工房ならば、いくつもの大商人が取引先になっているはずだし、高名な冒険者とも懇意にしているはずだ。

 

 いずれにしても、しかるべき金を積めばトレスデンどころか魔族領からでも素材を取り寄せることができそうなものだが。

 

 だが彼女は残念そうな顔で首を横に振った。

 

「うーん……確かに国外のレア素材でも、商人や冒険者に頼めば取り寄せ自体は可能だけど……そもそも王都にいるとトレスデンでどんな素材が手に入るかの情報が入ってこないから知りようがないわ。これでも情報の網は常に張っているつもりなんだけど『砂鉄蠍』の尾針なんて素材、初めて見たし……あ、これは?」

 

「そいつは爆発性多肉植物(ブローアップカクタス)の花弁を乾燥させたものだな。十年に一度しか採取できない超レア素材だぞ。いいだろ」

 

「……一枚頂戴?」

 

「可愛く言っても無駄だ。金貨十枚な」

 

「ぐぬぬ……この守銭奴!」

 

「適正価格だ。輸送費用を考えろ」

 

「ぐぬぬぬ……! あ、作業台に敷く基礎魔法陣はもう一回り大きめの方がいいわ」

 

「了解。このくらいでいいか?」

 

「それで大丈夫よ」

 

 などと雑談を交わしながらも、二人で順調に準備を進めていく。

 

 リリア嬢は清楚な見かけとは裏腹に気が強いし毒舌気味だが、仕事そのものはしっかりやるタイプだ。

 

 ほどなくして、聖剣錬成の準備が整った。

 

 

「やあブラッド。調子はどうだい?」

 

「お邪魔しまーす!」

 

 準備が終わったのでしばらく休憩していると、カミラとステラが訪ねてきた。

 

 今回はかなり大がかりな仕事になるので、助っ人が必要だったからな。

 

 ステラについては以前から聖剣錬成に興味があったらしく、自ら手を上げた形だ。

 

 ちなみにセパとレインは上階で大人しくしてもらっている。

 

 リリア嬢にはすでに二人とも紹介済みだが、聖剣錬成の手伝いには向かないからな。

 

「カミラだ。先日市場で顔を合わせたことがあるから、詳しい自己紹介は不要だと思うが…………今日はよろしく頼む」

 

「カミラさん、…………今日はよろしく頼むわね」

 

 二人が笑顔で握手を交わす。

 

 ……が、どうも様子がおかしい。

 

 二人とも笑顔なのに、こめかみに青筋が立っているように見える。

 

 よく見たら、握手のはずが握り合いの力比べになっていた。

 

 

 ……なにやってんだコイツら。

 

 

 その勝負が終わると(どうやら互角だったようだ)、今度はリリア嬢がステラを見た。

 

「ええと、そちらの可愛らしい獣人さんは……」

 

「ステラと申します! 本日はよろしくお願いいたします!」

 

「よろしくね、ステラちゃん。……ええと」

 

 ステラの元気な返事に顔を緩ませたリリア嬢だったが、すぐに彼女の左腕に気づき、反応に困ったようにこちらをチラリと見やった。

 

「ああ、気にするな。こう見えてしっかりした子だ。手先も器用だし問題ない」

 

「そういうことじゃなくて……ちょっと来てもらえる?」

 

 さすがに本人の前で言うのは憚られたのか、険しい顔で俺の腕を掴み工房の外へ出るよう促してくる。

 

 まあ、言いたいことは分かる。

 

 俺は大人しく彼女と一緒に工房を出た。

 

「ちょっと、あの子義手じゃない! アンタの腕は買ってるけど、あんな状態の子供に力仕事を……獣人の子に手伝わせるというのは、さすがに感心できないわよ」

 

 二人きりになった途端、リリア嬢が血相を変えて詰め寄ってきた。

 

 どうやら彼女はステラのことを誤解しているらしい。

 

 まあ、説明がまだだったから仕方ない。

 

「落ち着け。今回の手伝いは彼女たっての希望だ。それと事情はあとで話すが、あの子の義手は聖剣錬成の技術をつぎ込んだ特製品だ。左腕は生身と同じように動くから問題ない。……それとも、獣人の子が手伝いに入るのは嫌だったか?」

 

「見くびらないでくれる? 今どきそんな偏見を持つのは大戦前に大人だった連中だけだわ」

 

「なら、問題ないな」

 

「……それよりあとで事情を聞かせてもらうわよ。特に『聖剣錬成の技術をつぎ込んだ』のところを詳しく、ね」

 

「……まあ、いずれな」

 

 意趣返しのつもりなのか、言外に『アンタ人体実験をやったでしょ』と含みを持たせた言葉に目を逸らざるを得ない。

 

 ステラを助けるためとはいえ、倫理的に問題がなかったと言えば正直自信はないからな。

 

「さ、話が済んだのなら戻りましょう。……ま、信じてたけどね」

 

「……? 何をだ?」

 

「いいからさっさと始めるわよ!」

 

 なぜか顔が赤くなったリリア嬢に首を傾げつつ、俺たちは工房に戻ったのだった。

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