パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
ステラは傭兵一家に生まれた。
父と母はともに傭兵稼業。
彼女自身も、物心つく前から両親とともに王国や周辺諸国の戦場を転々とする生活を送っていたそうだ。
そして数年前に、両親とステラ――『遠雷旅団』は、とある戦場で魔族軍の襲撃を受けた。
周到に準備された深夜の奇襲で、なす術もなかったようだ。
そして混乱のさなか、彼女は両親とはぐれてしまい……一人になってしまった。
まだ六、七歳のころだったそうだ。
その後、戦場付近を両親や傭兵団の仲間を探しさまよっていたところを魔族の兵に捕まり、『戦利品』として奴隷商人に売り飛ばされてしまったそうだ。
もちろんアロン氏は戦いが終わったあと、くまなく戦場やその周辺を探し回ったそうだが、当然見つかることはなかった。
その後は紆余曲折を経て……ステラはこの街で暮らすことになったわけだが――
まさか彼女が、依頼主アロンと彼の妻であるシーラの子だとは思わなかった。
王国や周辺諸国では獣人で構成される傭兵団はそこまで珍しいというほどでもないからな。
いずれにせよ、ステラが両親と再会できたのは喜ばしいことだ。
◇
「カミラ殿、ブラッド殿。貴殿らがステラをずっと保護してくれていたのだな。さらには悪党どものせいで失った腕に義手まで施してくれていたとは……いくら感謝してもし足りんが、とにかくまずは礼を言わせてくれ。本当に…………ありがとう」
工房の上階にある応接間で、ソファに腰掛けたアロン氏が深く頭を下げた。
彼の隣には、彼の太い腕に抱きかかえられちょっと照れくさそうな様子のステラがちょこんと座っており、さらにその隣には霊体のシーラ氏がゆったりと腰掛けている。
リリア嬢が聖剣完成の報を伝えにアロン氏の滞在している宿に向かい事情を説明すると、彼は文字通り飛ぶような勢いでここまで駆けつけてきたらしい。
まあ、それも当然だ。
自分の妻が生き返った(といっても霊体の状態だが)うえ、戦場ではぐれ生存が絶望視されていた我が子が生きていること分かったのだから。
その後の三人の様子は……まあ、あえて語るまでもないだろう。
というか、シーラ氏の聖剣の簡単な説明をしたあとはしばらく家族水入らずの時間を設けるため、俺とカミラ、それにリリア嬢はしばらく部屋の外に出ていたからな。
俺が見たのは、アロン氏が応接間まですごい勢いでやってきて、ステラとシーラ氏を一目見るなり嬉しさのあまり前のめりに卒倒したところまでだ(すぐに意識を取り戻したが)。
だから実際のところ、三人がどんなことを話していたのか詳しくは知らない。
もっともこうして一家が並んでソファに座り、獣面のアロンはともかくとしてステラはすこし目の下が赤くなっている。
きっと悪くはない再会だったのだろう。
余談だが、アロン氏とステラは今でこそ落ちついているものの、二人ともついさっきまでずっと喉がゴロゴロ鳴っていたので指摘していいものかかなり悩んだものだ(シーラ氏は霊体だからか会話はできるものの喉は鳴らないらしい)。
ちなみにシーラ氏の『本体』である聖剣は、俺たちとアロン氏ら三人を隔てるローテーブルの上だ。
アロン氏の希望により彼の得物と同じ刃渡りのロングソードを錬成したが、おそらく彼が聖剣を抜くことはないだろう。
「それにしても、まさかこの子が生きていたとはな。実を言うと、完全に諦めていたのだ。今ではそうではないと分かるが……当時は魔族どもが、敵の子供を生かしたまま連れ帰るなどと思いもしなかったからな」
アロン氏が優しくステラの頭を撫でながら、まるで罪を告白するような口調でそう言った。
彼の気持ちは分からなくもない。
戦場がとても残酷な場所であることは、俺もアロン氏ほどではないが多少は知っている。
現実と折り合いをつけた彼の決断を責めることはできない。
「まあ、何はともあれ良かったじゃない……ブラッド、何見てんのよ」
「……いや」
リリア嬢が三人の幸せそうな様子にうっすらと涙を浮かべているのを見ていたら、ジト目で睨まれた。
ちなみにアロン氏や旅団の幹部連中が街中でステラが出会うことがなかったか疑問ではあったが……
彼女はたいてい午前中に近所の店を回るか俺の工房に素材を届けにきたついでにセパとレインと遊んでいくくらいで、行動範囲はそこまで広くない。
これまで出会わなかったのもある意味当然だ。
特にアロンたち『遠雷旅団』が滞在している宿周辺の歓楽街は治安もよろしくないうえいかがわしい店も多数存在するため、カミラが足を踏み入れないよう言い含めていたようだからな。
素直で聞き分けの良いステラゆえ、これまで再会の機会がなかったとも言えよう。
もっとも、そうでなくともオルディスの街はそれなりに広いから、このような縁がなければ出会うことすらなかったかもしれないが。
そう思うと、今回の依頼は彼女にとってもまさに僥倖だったと言うほかない。
「それで……ステラ。君はこれからどうしたいんだい?」
頃合いを見計らったように切り出したのは、俺の隣に座るカミラだ。
優しい口調と視線だが、意味はつまり『家族のもとへ帰るのかどうか』を聞いている。
おそらくカミラは、別にステラに選択を迫りたいわけではないだろう。
ただ、今この場で聞いておかねばならない話だった。
「…………そう、でありますね」
ステラは少しだけ困ったように、はにかんだ。
どちらにするにせよ即答すると思っていたので、意外な反応だ。
そこでアロン氏が助け舟を出す。
「……ステラは、カミラ殿の店で世話になっているんだったな」
「はい、ちちうえ」
「もうお前も十歳になるだろう。獣人の、それも傭兵団の長の子ならば、自分の歩むべき道は己で判断して、自らの足で歩むべき頃合いだ」
「ちょっとアロン! 家族の問題に口を挟むべきじゃないかもしれないけど、さすがに早いんじゃないの?」
リリア嬢が慌ててアロン氏を止める。
「まあまてリリア。お前も職人の家系ならば、アロンさんの言い分は理解できるはずだ」
「まあ、そうだけど……」
リリア嬢が、俺の言葉に渋々頷く。
ステラが両親とはぐれた年頃には、すでに傭兵としての基本は身に着けていたはずだ。
じっさい彼女は魔族に捕らえられるまでは戦場で一人生き延びていたわけだし、俺たちが保護している間にも引ったくりを単独で捕縛する程度には強かった。
もちろんそのあたりの顛末はアロン氏に話してある。
だからこそ、彼はステラに問うているのだ。
「わかっております、ちちうえ。傭兵団の子なれば、自分の進むべきみちは自分できめなければなりません」
「うむ、それでこそ俺の子だ」
『ステラ。私は貴方の決断を尊重するわ。ここに留まるのでも、私たちと一緒に傭兵稼業を再開するのでも構わない。重要なのは、貴方が貴方自身の答えを出すことよ』
アロン氏が満足そうに頷き、シーラ氏が優しく微笑む。
「はい、ちちうえ、ははうえ。わたしは――」
ステラが真剣な顔になり、口を開き、一度逡巡するように口を閉じ……それから再び口を開いた。
「わたしは、この街に残りたくおもいます」
※補 足:冒険者と傭兵における獣人の比率について
前提として、冒険者は少数による閉所(ダンジョン)での対魔物戦闘や罠の解除、独自のノウハウが要求されるのに対して、傭兵は対人戦闘中心かつ数十人規模の人員運用が求められる傾向があるため、必ずしも一方がもう一方の上位互換となるわけではありません。
上記の理由から、冒険者については傭兵に比べ獣人であることの優位性(フィジカルの優位性)はそれほどありません。
しかしながら種族固有の能力(耳や鼻が効く、夜目が効くなど)を生かして冒険者として活躍する者は存在するようです。
……みたいな感じです。