パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第167話 『手に入れたもの』

「……そうか」

 

 アロン氏が静かにそう言った。

 

 獣人の男性は表情が読みづらい。

 

 だが彼の声色から、少なからず落胆しているのが分かった。

 

 シーラ氏は言葉を発さなかったが、悲しそうな表情をしている。

 

 まあ、当然だ。

 

 生き別れになった子供とせっかく再会できたのに、彼女が自分たちと一緒に居られないと言っているのも同然だからな。

 

 とはいえ二人が感情的にならなかったのは、もしかしたら彼女がそういう答えを準備しているかもしれない、と考えていたからだろう。

 

 なにしろ、三人が離れ離れになって五年近くが経過している。

 

 大人にとってはそうでなくとも、まだ幼い子供にとってはあまりに長すぎる時間だ。

 

「一応、理由を聞いてもいいか?」

 

 アロン氏が静かに聞いた。

 

「もちろんですとも」

 

 ステラは頷いたあとチラリと俺たちを見てから、言葉を選びつつ語り始めた。

 

「この街には、恩をかえすべき方々がたくさんいらっしゃいます」

 

「…………」

 

「…………」

 

 アロン氏とシーラ氏は、彼女の言葉を黙って聞いている。

 

「わたしを奴隷の身分から、そしてダンジョンから救いだしてくれたブラッドどの。すむ場所とお仕事を与えてくれたカミラどの。おふたかたは、この義手もつくってくれました」

 

 言って、ステラは右腕で左腕の義手を大切そうにゆっくりと撫でた。

 

「もちろん身の回りのお世話をしてくださるマリアどのや、いつも遊んでくれるセパどのとレインどのにもたくさんの恩があります。そのほかにも、武器屋さんのマルクどのや、素材屋さんのエレナどのにもたくさんよくしてもらいました」

 

「お前はこの街で、たくさんの人たちに優しくしてもらったのだな」

 

「……はい!」

 

 アロン氏の言葉に、満面の笑みを見せるステラ。

 

 いつも明るく素直な彼女だからこそ、これが本心だと分かる。

 

 俺たちとしても、彼女の言葉に温かい気持ちになった。

 

 カミラなんてちょっと涙ぐんでいる。

 

 ……なぜかリリア嬢がボロボロ泣いているのは意味が分からんが、まあそういうヤツなんだろう。涙もろいことは、別に悪いことじゃない。

 

 ステラが続ける。

 

「それに、あまりかしこくないわたしでもこの腕がどれほど高価ですごい技術を使って作られたのかはわかります。おかげさまで、だれに迷惑をかけることもなく暮らすことができております」

 

「ステラ、それを気にする必要はないよ。何しろその義手は禁……むぐっ!?」

 

 カミラが横やりを入れようとしたので彼女の口を塞ぐ。

 

(……ブラッド、何をするんだ!)

 

(……空気を読めって)

 

 カミラが小声で抗議してくるが、俺は首を横に振って彼女を窘める。

 

 確かにステラの義手は人体実験の要素を多分に含んでいる。

 

 それは事実だ。

 

 それに王国では禁……多少グレーな技術をほんのちょっとばかり使用しているかもしれない。

 

 だが、それをもって彼女の『ご恩』をチャラにしようとする行為は……少なくともこの場においては無粋だ。

 

 もちろん、カミラとしては義手のことで負い目を感じて欲しくはないのだろう。その気持ちはよく分かる。俺も同じ気持ちだからな。

 

 だが、その話は今すべきじゃない。

 

「すまん。続けてくれ」

 

「は、はい」

 

 その後も、ステラは拙い言葉ながらもこの街がどれほど大切か、どれだけ大事な人がいるかを語った。

 

 俺たちとしては、嬉しい言葉ばかりだ。

 

 だが、アロン氏らにとってはそうではないはずだ。

 

 それでも二人は、真剣な顔つきで彼女の話を最後まで聞いていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……お前の気持ちはよく分かった」

 

 彼女が話し終えたあと、アロン氏が顎の(たてがみ)を撫でながら、グルルと喉を鳴らした。

 

「傭兵稼業ってのは、根無し草だ。特に、王国の獣人は……な」

 

 アロン氏が続ける。

 

「それでも『血』の縁というやつは生まれながら持っている。お前にとっては、俺やシーラがそうだな。……『人』の縁も、群れてりゃ自然にできてくる。『旅団』の連中がそうだ。もっとも連中の大半は、お前がいなくなってから入ってきた奴らだからな……まあ、いずれ紹介してやる」

 

「はい、ちちうえ」

 

 ステラは父親の言葉を一言も聞き漏らさないようにと、耳をピンと立て、真剣な顔つきで聞いている。

 

「……だが『地』の縁というやつは、俺らにとってはそう簡単に得られるものじゃない。何しろ戦場を転々とする生活だからな。おまけに商売道具は『暴力』だ。地元の連中とは縁ができるどころか恨まれることが大半だ」

 

 アロン氏はそこで一度言葉を切り、ステラに向き直った。

 

「……ステラ。お前は俺たちには得ることができない、大切なものを手に入れたのだ。それを奪うことはできん。……お前はここで暮らせ」

 

「私も同感よ。貴方の幸せを奪うことはできないわ」

 

「…………ちちうえ、ははうえ、わたしは……」

 

「そんな顔をするな! 別に今生の別れになるわけじゃねえし、あと三か月ほどはこの街に滞在する予定だからしばらくは一緒だ! ガハハ!」

 

 さきほどのしんみりした雰囲気からうって変わって、アロン氏が豪快に笑いステラの頭をワシワシと撫でくり回す。

 

「そ、そうなんです!?」

 

 言いながら目を回しているステラだが、その表情は明るい。

 

 なんだかんだ言っても、親が一緒に居られるのは嬉しいことだろうからな。

 

 

 さて、これにてめでたしめでたし……

 

 と言いたいところだが、妙に引っかかるところがあった。

 

「ちょっと待ってくれ。もうリリアの依頼は完了したよな? そうなると、しばらく観光……にしては随分と長い滞在だが」

 

 もちろんステラのためには、アロン氏とシーラ氏ができるだけ長い間オルディスに滞在する方がいいのだろうが……それにしても三か月は長い。

 

 ここから王都まで戻るのにひと月以上はかかることを考えれば、そんなに長期滞在していていいはずがない。

 

「いえ、これは私の事情なんだけど……」

 

 恐る恐るといった様子で切り出したのは、リリア嬢だ。

 

「実をいうと、あんたへの報酬とアロンたちへの支払いで、私の懐がすっからかんになっちゃっててね……ちょっとこの街で、けっこう本気で旅費を稼がないと王都まで帰れないのよね」

 

 そう切り出したリリア嬢の顔は、言うまでもなくものすごくバツの悪い表情だった。

 

 

 

 ※素材屋のエレナさんはまだ本編未登場ですが、そのうち出すかもです

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