パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
リリア嬢の依頼が完了した、その二日後のことだった。
嵐は突然やってきた。
久しぶりに寝坊をして、セパとレインとのんびり朝食をとってから一緒に自宅の工房の掃除や整理整頓をし、日課である聖剣錬成訓練やら剣術訓練やら肉体鍛錬などをこなし……ひと段落ついたところで昼食を作ろうかと思い、一階に上がったところでリリア嬢が訪ねてきたのだ。
もとい怒鳴り込んできた。
「ちょっとブラッド! 何なのよこの街は!!」
「いや……あんたが何なんだよ」
リリア嬢はなぜか玄関の扉を開けた瞬間からカンカンに怒っていた。
ブルーブロンドの髪からパチパチと稲妻を放出しそうな勢いだ。
一体何が起きたのか。
とりあえず、この街……というからには、俺のせいではないはずだ。
そもそも心当たりがない。
となれば、歓楽街の飲み屋か屋台でぼったくられたのだろうか?
コイツ、美人だが職人気質とお嬢様気質のハイブリッドで山のように態度がでかいからな……
俺が屋台のあんちゃんだったら、三倍くらいの値段をふっかけていたかもしれん。
それはともかく、このまま玄関で騒がれても近所迷惑だ。
俺は慌てず騒がず、言った。
「……ちょうど昼飯にしようと思ってたところだ。食ってくか?」
「ハッ! 見くびらないでよね? いくらお金がないからって、あんたに無用な貸しを作るつもりはないわ!」
腕を組み気高く(?)鼻を鳴らしたところで、リリア嬢の腹からグルルルゥと獣じみた唸り声が聞こえてきた。
はいはい了解了解。
「じゃ、ダイニングまで案内するから上がってくれ」
「ちょっ……!? まだ昼食を食べるなんて一言もいってないわよ!」
「口はともかく腹は正直だよな」
「う、うるさいわね何か文句あるの!?」
俺の指摘に、なぜか顔を真っ赤にして抗議してくるリリア嬢。
なんでもいいから静かにして欲しい。
「いいから中に入れ。近所迷惑だ」
「うぐっ……お邪魔します」
結局リリア嬢は自分の腹の虫(と世間体)に負け、素直に家に上がり込んだ。
『ご主人、なにやら騒がしいですがお昼はまだですか……あ……ッシャイマセ』
と、セパがお昼の催促にやってきて……リリア嬢を一目見るなり、俺の背後にサッと隠れてしまった。
先日紹介だけはしたが、まだ打ち解けるには至っていないようだ。
「あーらセパちゃん!! 今日も可愛いわね~」
『ピッ!?』
一方リリア嬢は、セパを見るなりニヨニヨと気持ち悪い笑顔になり猫なで声で話しかけている。
どうやらこの女聖剣錬成師、可愛いらしい女の子とか小動物とかに目がないらしい。
なんか先日もアロン氏の依頼が完了した後は今のようにステラやセパに猫なで声で絡んでかなりウザがられていた(ちなみにレインには普通の態度で接していた)。
まあ、リリア嬢なりのポリシーなのか彼女たちに指一本触れることはないので、今のところは放置している。
できれば一線を超える前にさっさと稼いでもらって、王都に帰ってもらうのが一番だ。
……と思ったのだが。
◇
「……聖剣が売れない?」
「そうよ! この街の人間は見る目がないわ」
リリア嬢がテーブルの向こう側で鹿肉のソテーをつつきながら、そう愚痴をこぼした。
さっきのハイテンション状態から若干トーンダウンしているのは、多少空腹感が和らいだからだろうか。
彼女は俺やアロン氏らにきちんと報酬を支払ったせいで深刻な金欠状態に陥っているとは聞いている。
そんなわけで旅費を稼ぐため三か月程度は滞在すると言っていたから、どこかで仕事を見つけるつもりだと思っていたが……持参していた聖剣の一振りを売ることにしたようだ。
確かにその方が圧倒的に効率が良いのは間違いない。
ただ、売れない……というのはどういうことだろうか。
「とりあえず話は聞いてやる。どこに売りに行ったんだ?」
「それが……」
彼女の語った内容をまとめると、こうだ。
曰く、彼女は聖剣の買い手を求め、まずは商工ギルドを訪ねたそうだ。
この街には聖剣ギルドがないから、その行動は自体は正しい。
ただ、ここから話がおかしくなっていく。
ギルドで面会してくれた担当者に聖剣を見せ、買い手を探そうとしたところ、彼女の聖剣をギルドで買い取ることはできないし、買い手を紹介することはできないと言われ、ギルドから追い出されてしまったそうだ。
その後は直接武器屋に持ちこんだりもしたようだが……どこに行っても断られてしまい、途方に暮れて俺の家までやってきたとのことだった。
「なるほど……それは妙だな」
彼女の聖剣は間違いなく一級品だ。
市井の武器屋はともかくとして、ギルドで買い取れないどころか買い手の紹介すらできないというのは、妙な話だった。
「あんた……もしかして昔、この街で何かやらかしたとかじゃないだろうな?」
「そんなわけないでしょ。オルディスに来たのは、これが初めてなんだから……はぁ」
リリア嬢が大きなため息を吐きながら、俺の言葉を否定した。
てっきり猛抗議されるのかと思ったが、ずいぶんとしおらしい態度だ。
『ご主人、リリア様はずいぶんと意気消沈されていますね……もしかして鹿肉が嫌いだったのでしょうか? こんなに美味しいのに……』
『もしかして、お残しはあーしらが貰っちゃっていい感じ……?』
『お前らな……』
「ちょっとあんたたち、念話で内緒話するのやめてくれない? 普通に分かるんだからね」
「別に大した話じゃない、気にするな」
「気にするわよ……」
言いながら、リリア嬢が悲しそうにモソモソと鹿肉を食んでいる。
聖剣が売れなかったことがよほどショックだったのか、どうやら俺たちのささいなやりとりでもダメージを受けるようになってしまっているようだ。
これはだいぶ深刻だな……
「参考までに聞くが、売ろうとした聖剣はどんなやつだ?」
「食事中に失礼するけど……この子よ」
彼女が腰の
流麗なフォルムが特徴で、鞘も柄も派手過ぎず、それでいてセンスの良い意匠が施された逸品だ。
見覚えもある。
「決闘の時に、俺に渡したやつか」
「ええ。こっちは人造精霊を宿していないし、手放してもそこまで痛手じゃないから。むしろこういう機会を想定して持参していたくらいだし」
「なるほど……」
そうは言うものの、このクラスの業物をそこらの武器屋に持ち込んでも買い取ってくれないのは当たり前の話である。
あまりに高価すぎて、普通の人間では手が出ないからだ。
武器屋も商売だ。
売れない武器を買い取ることはしない。
足元を見なかったのは、彼女がリリア本人だと分かっていたからか。
地元の武器屋が良心的な商売人だったことが分かり俺としては嬉しいが、彼女にとっては不幸だったとしか言いようがない。
一方、商工ギルドについては不可思議な点が多い。
一次的に、ギルドに買い取るための原資がないというのはあり得る話だ。
しかし買い手まで繋ぐ検討すらしない、というのはおかしな話だった。
一応、ワーズ聖剣工房とリリア・ワーズの名は、王都では有名だ。
いくら辺境のオルディスだとしても、武器を商売道具とする商工ギルドの連中がその顔と名前を知らないはずがない。
むしろ顔パスの二つ返事で聖剣を買い取ってもおかしくはなかった。
そもそもギルドが仲介する商売ならば、当然ながら仲介料が発生する。
リリア嬢謹製の聖剣ともなれば売却に伴うギルドの利益はおそらく莫大なはずで、断る理由なんてどこにもないはずだ。
「ギルドが買い取りを渋った理由に心当たりはあるか?」
「それが分かれば苦労はしないわよ……」
リリア嬢が力なく首を振る。
「うーむ……」
彼女が何か隠しているのかと疑ったが、そういう節もない。
そもそもリリア嬢はこれまで接した感じだと、多少繕いはするものの基本的には思ったことを正直に言うことを美徳とする性格で、ウソとか隠しごとが苦手なタイプだ。
心当たりすらないというのは、おそらく本当だろう。
とはいえ、彼女が金を稼ぐには自分の得意分野を生かすことが手取り早い。
となれば……
「分かった。しばらく工房の隅を貸してやる。この街で需要がありそうな武器の品質はだいたいわかるから、そいつを錬成して売ればいい」
「ホント? でも、武器屋も商工ギルドもダメだって……」
「いや、まだ売る先はある」
「……それはどこかしら?」
リリア嬢はピンと来ていないようだが、多少高価でも彼女の錬成する聖剣……それも
「それは……冒険者ギルドだ」