パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第169話 『冒険者ギルドの需要』

 翌日。

 

 リリア嬢に提案したとおり、彼女を連れてオルディスの冒険者ギルドへとやってきた。

 

「ブラッドさん、お疲れ様です」

 

 ダンジョンから帰ってきた冒険者たちでごった返す中。

 

 受付カウンターの中から目ざとく俺たちを見つけたシルさんが、こちらまでわざわざやってきて挨拶をしてくれた。

 

 ……のだが、彼女の姿に違和感を覚える。

 

 彼女はいつもの制服姿ではなかった。

 

「やあ、シルさん。……ギルドの制服、変わったのか?」

 

 一般的に、冒険者ギルドでは冒険者と職員の区別が一目でつくように皆明るめで特徴的な制服を着用している。

 

 しかし今日のシルさんは人ごみに溶け込むような、落ち着いた雰囲気の服を着こなしていた。

 

 見た目の印象としては、商工ギルドのお偉方とか下級貴族の身に着けるスーツの女性版、といったところだろうか。

 

 というか、彼女だけがその恰好をしていた。

 

「……ん? それは」

 

 よくよく見れば、彼女の胸には見慣れない()章が輝いていた。

 

 これは……冒険者ギルドの紋章?

 

「ああ、これですか」

 

 シルさんが自分の制服に目を落としてから、誇らしげに微笑んでみせた。

 

「言ってませんでしたか? 私、少し前にギルドの副長代理になったんですよ」

 

 そのあとに「まあ、私を含め代理職って何人かいるんですけどね」と照れくさそうに付け加えていたが……副長代理、か。

 

 少々ややこしい役職名だが、要するにオルディス冒険者ギルドの幹部である。

 

 まさかの大躍進だ。

 

「それは出世したな。おめでとう」

 

 素直に賞賛の言葉が出た。

 

 たしかに彼女は以前も商工ギルドと折衝をしていたり、ギルド内でもかなり責任のある仕事を任されている節があったから、別に不思議ではない。

 

 なんだかんだで彼女の能力に見合ったポジションに収まった、ということだろうか。その分、苦労も多そうだが……

 

「それで、本日のご用向きは……お連れ様の件でしょうか」

 

 言って、シルさんが俺の隣に視線を移す。

 

「ああ、悪い。紹介がまだだったな。彼女はリリアという。俺と同じ聖剣錬成師だ」

 

「リリア・ワーズよ」

 

 言って、彼女が手を差し出した。

 

「お初にお目にかかります、リリア・ワーズ様。オルディス冒険者ギルド副長代理のシル・レクスフォードと申します。……ワーズ聖剣工房の現当主様と、こんな辺境の地でお会いできるとは思ってもみませんでしたが……何卒よろしくお願いいたします」

 

 言って、シルさんがリリア孃の差し出した手を、両手で握りしめた。

 

「なんだ、知っていたのか」

 

「当然ですよ。冒険者ギルドの幹部職を務めるというのに、王国有数の聖剣錬成師の顔と名を知らずしてなんとする、ですよ」

 

「ふふっ……嬉しいわね」

 

 その言葉を聞いて、ちょっとばかり照れ顔になるリリア孃。

 

 実のところ、彼女の顔をシルさんが知っているとは思っていなかった。

 

 聖剣職人の中では彼女の名を知らないヤツはモグリ認定されるレベルの有名人だが、それもあくまで業界内の話だからな。

 

 とはいえ、冒険者ギルドの幹部ならば武具や魔道具のブランドや有名職人の名前を把握しているのはある意味当然ではある。

 

 シルさん、出世するために勉強したんだろうなぁ。

 

 まあ、俺としても話が早くて助かる。

 

「こちらこそよろしく頼むわ、シルさん」

 

「それで……リリア様は、ここで冒険者登録を?」

 

「いや、実は別件でな。彼女のことで、おりいって相談したいことがあるんだ」

 

 そう俺が切り出すとシルさんはすぐに何かを察したらしく、真剣な表情になった。

 

「……承知いたしました。立ち話はなんですから、上にご案内いたしますね」

 

 

 

 ◇   

 

 

 

「……リリア様の聖剣の買い手を探している、ですか」

 

「ありていに言うとそうなる」  

 

「なるほど、ですね……」

 

 二階の会議室に通されたあとは、改めてリリア嬢とシルさんの間で挨拶を交わしたのち、すぐ本題に入った。

 

 とはいえ、ローテーブルを隔ててソファに座るシルさんの表情は芳しくない。

 

「正直なところを申し上げますと、ご紹介するのは難しいかも知れません」

 

「……それはなぜかしら?」

 

 きっぱりと断られたリリア嬢が食い下がる。

 

 これまで商工ギルドや街の武器屋などで断られている分、彼女は必死だ。

 

「もちろんリリア様の聖剣の質に疑義を抱いているのだとか、誰かに圧力を掛けられている、などというわけではありません。……単純に、需要の問題です」

 

 シルさんが申し訳なさそうな表情で続ける。

 

「まず、この街の冒険者のほとんどは等級EかDです。等級Cの冒険者を中心に構成される中堅パーティーは数組活動されていますが、実力的にも経済的にも聖剣の需要はおそらく見込めないでしょう。等級Bの冒険者も四、五名ほどおりますが、こちらも同様です」

 

 ちなみにその数名のうちの一人は俺である。

 

 需要は(別の意味で)もちろん、ない。

 

「一応この街にも、等級Aの方がリーダーをやっているパーティーが二組ほどいるにはいるのですが……折悪く、ひと組は近くの街のギルドの指名依頼で遠方に駆り出されておりまして、もうひと組もつい数日前に、やはり遠方の高難度ダンジョン攻略のために出発してしまっておりまして」  

 

 俺も等級Aの冒険者が数人いることは把握済みなので、彼ら彼女らの需要を見込んでいたのだが……残念ながら間が悪かったようだ。

 

 俺としてもリリア嬢に冒険者ギルドを紹介した以上、何かしらの成果は欲しかったが……こればかりは仕方がない。

 

 さすがに連中を追いかけて、聖剣の押し売りをするわけにもいかないからな。

 

「ギルドで聖剣を買い上げたりとかは……ないわよね?」

 

 リリア嬢がダメ元で聞いてみるが、案の定シルさんは首を横に振った。

 

「残念ですが……当ギルドには指定の武器商人がおりますので、いくらリリア様でも、二つ返事で『買いましょう』とは申し上げられないんです。そこは……お察し頂ければ」

 

「それはそうね……無理を言ったわ。ごめんなさい」

 

 リリア嬢が素直に頭を下げる。

 

 王国の冒険者ギルドは全体の方針として、地元業者や冒険者たちをサポートする名目でその土地の武具屋や魔道具屋から武器・魔道具を買い上げ、冒険者たちにそれらを貸与したり、定価より少し安い値段で販売している。

 

 それゆえ、いきなりワーズ家のような力のある業者がいきなり「ウチの高級品を扱ってくれ」とねじ込んでくるのは仁義に反する、ということだろう。

 

 俺も聖剣錬成師はそれなりに長くやっているから、その辺の機微が分からないわけでもない。

 

 もちろん、こっそりギルド内や周辺でめぼしい冒険者に営業をかけるというやり方もできなくないのだが……まあ、営業妨害だよな、これは。

 

 となると、あとは……

 

「そうだ、ギルド長はどうだ? たしか、元等級Aの冒険者でかなりの武器マニアだと聞いたことがあるし、リリアのこともよく知っていると思うが」

 

「それは、まあ……はい」

 

 なぜかシルさんは微妙な顔をしたあと、すぐに申し訳なさそうな表情を作った。

 

「確かにギルド長は……執務室の壁という壁を武器で埋め尽くすほどのマニアです。彼のポケットマネーで、ということならば多少検討の余地はあるかもしれません。ただ……あいにく今は王都で会合が開催されており、そちらに出張しておりまして」

 

 まさかギルド長も不在とは。

 

 まあ、ギルドのトップは基本的に忙しいからな。

 

 こればかりは巡り合わせが悪かったとしか言いようがない。

 

「それは残念ね……」

 

 これにはリリア嬢もガッカリした表情を浮かべたが……すぐに気持ちを切り替えたのか、気丈にも明るい笑みを浮かべてみせた。

 

「分かったわ。何度も無理を言ってごめんなさい」

 

「まあ、仕方ないか。シルさん、今日はすまなかった」

 

 さすがにこれ以上食い下がるのは、彼女の迷惑になってしまう。

 

 ……まあ、別にこれで彼女の金策の道が断たれたわけではない。

 

 この街の繁華街などにはそれなりに仕事(もちろん皿洗いやゴミ掃除などのまっとう(・・・・)なやつだ)が転がっているし、冒険者登録して素材を採取してきてもいいだろう。

 

 地道に旅費を稼げばいいだけだ。

 

「じゃあ、俺たちはこれで」

 

 言って、ソファから立ち上がったその時だった。

 

「お二人とも、お待ちください」

 

 シルさんが俺たちに待ったをかけた。

 

「まだ、私から(・・・)の話をしていません。……実は、個人的な伝手ですが、冒険者の方で聖剣に興味のある者がおりまして。まだお時間があるのでしたら、もう少しだけお話をさせていただけませんでしょうか?」

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