パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第170話 『ルーキー感』

「し、失礼します……!」

 

 シルさんが『ちょっと今呼んできます!』と言って連れてきたのは、まだ年若い冒険者だった。

 

 歳はまだ十四、五くらいだろうか。

 

 軽鎧と長剣を身に着けており、背は俺より少し低いくらい。

 

 キザキザの黒髪短髪で快活そうな顔立ちをしているが、それと同時に駆け出し冒険者特有の頼りなさげな雰囲気を纏っていた。

 

 それにしても、妙に既視感のある顔立ちだ。

 

 具体的には向かいに座っているギルド副長殿によく似てらっしゃる。

 

「すいません、身内びいきで……実は、聖剣を欲しているのは私の実弟なんです」

 

 ……などと思っていたら、シルさんがそう言ってバツの悪そうな顔で頭を下げた。

 

 なるほど、弟さんならば顔立ちが似ているのは当然だ。

 

 とはいえ、彼が聖剣を欲していて、十全に扱えるのならば、身内だろうが何だろうが構わないだろう。

 

 まあ、仕事を受注するのは俺じゃなくてリリア嬢だが。

 

「とにかく話を聞くわ。ええと……シルさんの弟さんだったかしら?」

 

 彼女は人好きのする笑みを顔に貼り付けつつ、弟君に先を促した。

 

「セオと申します! あっ、姉貴が……姉がいつもお世話になっております!」

 

 セオ君はテーブルの前で直立不動の姿勢を保ち大声で返事をするものの、トンチンカンな応答を返してくる。

 

 というかリリア嬢とは視線を合わせず、顔は真っ赤だ。

 

 まあ、気持ちはわかる。

 

 いきなり王都有数の有名聖剣錬成師を前に連れてこられたら挙動不審にもなるだろう。

 

 ……と思ったが、それは業界人だけか。

 

 これはまあ……年頃の少年らしい反応、といったところだろうか。

 

「リリアよ。こっちはブラッド。私は王都で、彼はこの街で聖剣錬成師をしているわ。よろしくね、セオ君」

 

「ウ……ウス! よろしくお願い……マス!」

 

 セオ君が顔を赤らめたまま、直角のお辞儀をする。

 

 つーか今めっちゃ噛んだな……

 

 うーむ、このルーキー感……初々しぎてなんだか胸の奥が甘酸っぱくなるな。

 

 俺にもこんな青春っぽい時期が……あったような……なかった……ような……

 

 それはともかく。

 

「一応確認しておくが、セオ君。君の等級はどのくらいだ?」

 

 冒険者の実力については、リリア嬢よりも俺の方が詳しい。

 

 彼女に代わって確認しておく。

 

 とはいえ、どう見ても彼は駆け出しだ。

 

 彼と同じくらいの年でも中堅くらいの実力を備えている奴らはいるが、そういう連中はそういう(・・・・)風格がある。

 

 一方、彼はというと……ぱっと見た感じ、等級Eか、よくてDになったばかりと言ったところだろう。

 

「ええと……等級Dです。つい二週間ほど前に、Eから昇格しました……ッス」

 

 果たして懸念した通りの回答がセオ君の口からもたらされる。

 

 もしかして実は見かけによらず高ランクだったり……と期待したが、まあそうだよな。

 

(ブラッド、等級Dってすごいの?)

 

(いや……)

 

 リリア嬢が耳打ちしてきたので、俺も小声で補足を入れておく。

 

(登録したての駆け出しがE、次がDだ。さらにC、Bと来て、一般的に最上級がAとなる。その上に等級Sというのもあるが、これは何かしら大きな功績を残した奴らだけが与えられる名誉等級みたいな感じだな)

 

(そうなんだ……)

 

 案の定、彼女は微妙な顔になった。

 

 もしかしたら、俺も同じような表情をしていたかもしれない。

 

 

 もっとも、駆け出しだから聖剣なんぞ使うな、などと言うつもりはない。

 

 ただ……

 

 最初のうちから己の実力に見合わない強力な武器を扱うのは、今後の彼の為にもよろしくない、ということだ。

 

 万が一のさいに融通が利かなくなるからな。

 

 たとえば、ダンジョン内で何らかのトラブルが生じ――多くは魔物との戦闘中だ――武器が破損したり、一時的に機能を喪失した場合など。

 

 その場合は、メインと近いグレードの武器を持っていればいいが、たいていはずっと性能の低いうえにメインほど使い慣れていないサブ武器で事態に対処することになる。

 

 そこで、強力なメイン武器の性能に頼った立ち振る舞いしか身に着けてこなかったのならば……その先に待つ運命を、あえて口にする必要はないだろう。

 

 ゆえに、ゆるぎない実力を身に着けるまでは、よくても中級グレードの武器までしか使わない方がいい……というのが俺の個人的な見解だ。

 

 とはいえ、である。

 

 連れてきたのは他でもないギルドの副長のシルさんだ。

 

 さすがに昇進したばかりのこの時期に、身内びいきで目が曇らせているとは思えなかった。

 

「……シルさん、一応事情を聞かせてくれないか」

 

「もちろんですとも」

 

 俺の言葉にシルさんが自信満々で頷いた。

 

「実は――」

 

 

 彼女の話を要約するとこうだ。

 

 ――セオ君が冒険者として登録したのはつい半年前。

 

 地元の幼馴染三人と一緒に『黒の約束』という名のパーティーを組み活動しているそうだ。

 

 現在、構成メンバーの等級は全員D。

 

 正直、名前は聞いたことがない。

 

 たしかにセオ君の顔については、そういえばたまにギルドで見かけたなぁ……くらいの印象はあるが、その程度だ。

 

 で、ポイントはここからだ。

 

 彼らのここ最近の実績としては、とあるダンジョンに出現したグリフォンを倒して素材をしっかりと持ち帰ったことで一時話題になったそうだ。

 

 そのとき俺はトレスデンに旅行中だったので直接見たわけではないが……等級Dの冒険者しかいないパーティーでグリフォンを討伐したというのが本当ならば、それを知ったギルド内は騒然となったに違いない。

 

 グリフォンの危険度は、ミノタウロスやオーガより若干上、ドラゴン未満くらいの相手だからな。

 

 一般的には、等級Cのパーティーが周到に準備したうえ数組合同で、あるいは等級Bのパーティーなら単独で、同じく周到に準備を整えたうえでどうにか倒せるかどうか……といったところだろうか。

 

 ……なるほど。

 

 そのレベルの魔物を討伐できるのならば(まぐれだとしても)、聖剣を所持する意味はあると判断しても構わないだろう。

 

 ちなみにシルさんがそれはもう得意げにそのエピソードを語るせいで、セオ君はとても気まずそうにしていた。

 

 シルさん……家族の活躍を他人に自慢したくなる気持ちはわかるが、それを隣で聞かされる弟の気持ちも考えてやってほしい。

 

「……話は分かったわ。グリフォンの強さならよく知っているから、そういうことなら仕事を請けても問題なさそうね」

 

「マジッスか!? やったぁ!!」

 

「セオ?」

 

「あ、スイマセン……ありがとうございます」

 

 一瞬子供らしい表情になるセオ君だったが、シルさんの冷たい視線を浴びてシュンと大人しくなった。

 

 嬉しい気持ちは分かるが、冒険者として上を目指すならばもう少し落ち着いた態度を身に着けたいところだ。

 

 まあ、俺も他人様のことをとやかく言えるような人間じゃないが。

 

「それで、セオ君。貴方はどんな剣が必要か、もう決まっているのかしら?」

 

「はい、それは……」

 

 リリア嬢の質問に、彼は少しだけ考え込んでから言った。

 

 

「俺が思いっきり振っても、絶対に壊れない剣を造ってほしいです」

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