パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第171話 『怪力の呪詛』

「俺、剣士なんですが……最近、どんな剣を使ってもすぐダメにしちゃうんですよ」

 

 セオ君はシルさんの隣に座ると、先ほどの元気な様子からうって変わって深刻そうな顔をしている。

 

「一応、丈夫そうなやつはどれも試したんです」

 

 彼はそこで一呼吸おいてから、堰を切ったかのように喋り出した。

 

「大剣やブロードソード、とにかく頑丈そうで肉厚な刃のやつならなんでも……ドラゴンすら撲殺できそうな鉄塊を鍛えた大剣とかも、知り合いの鍛冶師に頼み込んで作ってもらったんです。でも……やっぱりダメでした。俺だって剣士の端くれだし、剣の扱いは心得ているつもりです。……今まで、こんなヘマをしたことなかったんだ!」

 

 気持ちは痛いほど分かる。

 

 俺だって装備した武器を片っ端から壊しまくってしまったら、しばらく寝込むと思う。

 

「……それで今、パーティーの連中からかなり詰められてて。次武器をぶっ壊したらクビだって、リーダーから最終通告を喰らっちゃいまして……もう後がないんです! リリアさん、ブラッドさん、どうか何しても壊れない聖剣を造ってもらえませんか……! お金なら、これまで貯めてきたのと、グリフォンを倒したおかげでそれなりにあります。……どうか、この通りです……!」

 

 最後の言葉は、消え入りそうな声色だった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 俺とリリア嬢は顔を見合わせた。

 

 セオ君の外見は、ごく普通の少年だ。

 

 なんなら冒険者としては華奢な方だろう。

 

 どう見ても、剣を振るっただけでポキポキ折るような怪力を持っているようには見えなかった。

 

 もちろん、大剣やブロードソードとて変な振り方をすれば折れることはある。

 

 技量や体格に見合わない武器を使って破損させてしまうというのも、初心者にはありがちなトラブルだ。

 

 ただ……『鉄塊のような頑丈な大剣』すら折ってしまうとなると、彼の技量以前に何か他の原因があるとしか思えなかった。

 

 ……ん? 待てよ。

 

「セオ君、ちょっと聞いてもいいか?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「その症状が出始めたのは、いつ頃からだ?」

 

「そうですね……たしか、グリフォンを討伐したあと少ししてからですね。そこから段々剣を折ることが多くなって……でも、それが何か関係あるんですか?」

 

「おそらくは。……そいつを倒したときのことなんだが……もしかして、返り血を大量に浴びたりしなかったか?」

 

「ええっ? すげぇ、ブラッドさん何で分かるんですか!?」

 

 俺の指摘に、セオ君が驚きの声を上げた。

 

「確かに浴びました! 浴びましたよ! 俺がトドメを刺したんで! いやぁ、それはもうドップリと頭から足の先まで。あの時の様子は……仲間もドン引きでしたね……まあ、ダンジョンの魔物だから血はすぐに消えちゃいましたけど」

 

 図星だったのか、先ほどとは打って変わり身を乗り出して興奮気味にまくしたてるセオ君。

 

 と、そのときだった。

 

 ――バキャッ!

 

 彼の手元で派手な音が鳴った。

 

「あっ……」

 

 見れば、身を乗り出すさいに彼が掴んだローテーブルの天板が、まるで乾いたパンを握りつぶしたようにボロボロに砕けていたのだ。

 

「ちょっ……あんた何やってんのよ!」

 

「あっ、ゴメン姉貴! やっべぇ……気を付けてたのに……」

 

「ちょっとどういうことよ、これは……」

 

「ふむ……」

 

 それを見て目を吊り上げるシルさん、怒られてシュンとするセオ君、そしてそんな光景を目の当たりにして唖然とするリリア嬢。

 

 このテーブルはかなり分厚い(オーク)材だ。

 

 普通の人間が握りしめただけで破損するようなやわ(・・)な材質ではない。

 

 もちろんギルドの会議室に置くような調度品だから、腐って脆くなっていたなんてこともないだろう。

 

 ……それで、疑念が確信に変わった。

 

「なるほど。これはおそらく呪詛の作用によるものだな」

 

「……呪詛ですって?」

 

 リリア嬢が聞き返してくる。

 

「ああ。魔物の中には、たまに呪詛を身体に蓄えている個体が出現する。いわゆる『上位個体』というやつだな。……おそらくセオ君たちが倒した個体がそれだ」

 

 おそらくグリフォンも呪詛の影響下にあったはずで、通常個体よりもずっと強かったはずだ。

 

 そんな強力な魔物を駆け出し冒険者四人組で討伐したのだから、相当な快挙である。

 

 とはいえ、その代償は『呪詛の付与』というかなり厄介なものだったわけだが。

 

「呪詛を付与される条件は様々だが、体液を介する場合が一番多い。アンデッドに噛まれたり武器で傷を負わされたりするのは一般的だが……今回は返り血が原因だろうな」

 

 セオ君を見る限り、主な症状は感情の昂りに伴う制御不能な身体能力の一時的向上。

 

 あえて命名するならば、『怪力の呪詛』とでも言うべきだろうか。

 

 そして厄介なことに、彼の発言からすると徐々にその力が強まっていると思われる。

 

 このまま放置すれば、意図しないところで過剰な力を発揮して、誰かを傷つけるかもしれないし、下手をすると頭をちょっと掻いたときにそのまま頭の皮まで抉り取ってしまうかもしれなかった。

 

「じゅ、呪詛ですって!? い、一刻も早く解呪しないと……!」

 

 俺の言葉に、シルさんの顔が青くなった。

 

「寺院の診療は夕方までだから、早く行かないと閉まっちゃう……! セオ、今すぐに行くわよ! すいません、ブラッドさん、リリアさん……! 彼を死なせるわけには行きませんので……!!」

 

「ちょっ、姉貴!?」

 

 冒険者ギルド職員をある程度こなしていたシルさんは、『呪詛』の恐ろしさをよく知っている。

 

 ゆえに彼女は慌てふためきセオ君の腕をむんずと掴むと、無理やり立たせ会議室の外へ連れ出そうとした。

 

「ちょ……姉貴、落ち着けって!」

 

 と、席を立った俺たちとシルさんをセオ君が慌てて止めた。

 

「ええと、まず整理させてください」

 

 さっきとは打って変わって妙に落ち着いた様子の彼がそう言った。

 

「ブラッドさんの見立てだと、いま俺の身体にはグリフォンを倒したときに付与された呪詛が息づいている(・・・・・・)、ということですよね? そのせいで、戦闘時とかに異様な怪力を発揮した結果、俺の出す力の負荷に耐え切れず、剣という剣が折れてしまった。……これで合ってますか?」

 

「……まあ、そうだな」

 

 表現の仕方が気になるが、おおむねその通りではある。

 

 セオ君はなぜかワナワナと手を見つめ、嬉しそうに口の端を歪めている。

 

「クハ、ハハハ……! ということは……ということは! この荒ぶる『呪詛』を飼いならすことができれば……俺は冒険者として、さらなる高みへと昇りつめることができる……ってことか!? なるほど、呪詛……上等じゃねえか! ブラッドさん、リリアさん、俺はこのままでいいから絶対に壊れない聖剣をげふんっ!?」

 

「バカなこと言ってんじゃないわよ!」

 

 なんか興奮しながらトンチキな言動を口走り始めたセオ君の頭に、怒り狂ったシルさんの鉄槌が振り下ろされた。

 

「あー、なんか……年頃の男の子ってそういうとこあるわよね……」

 

 そんな様子を眺めながら、リリア嬢が冷ややかな口調でポツリと呟いた。

 

 

 ……ちなみにその後。

 

 俺が自宅から連れてきたセパの力で、彼に掛けられた『怪力の呪詛』はサクッと切断されたのだった。

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