パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第172話 『相応しい者』

「……ブラッド、貴方はどう思う?」

 

「うーむ、そうだな……」

 

 セオ君の呪詛を切断できたものの、その前に彼がおバカな態度を取ってしまったせいでカンカンに怒ったシルさんにしょっ引かれていったあと。

 

 ギルド会議室に残された俺たちは、セオ君との取引をどうするかについて話し合っていた。

 

「一応確認だけど……実際問題、冒険者にとって、グリフォンという魔物はまぐれ(・・・)が起きれば、駆け出し程度の実力でも狩れる程度の魔物なのかしら?」

 

「無理だろうな」

 

 俺は首を横に振り、続ける。

 

「あんたも知っているだろうが、グリフォンは翼を持ち立体的な起動で相手をかく乱して戦う魔物だ。駆け出し程度の経験値じゃ、相手の動きを追うだけで精一杯だろう。初見で討伐するのは不可能に近いな」

 

「だとすれば、セオ君は以前グリフォンを倒したことがあった、ということなのかしら?」

 

「うーむ……そもそも駆け出しレベルの冒険者がグリフォンと遭遇することが稀だからな……ないと思う。おそらく他の種類の飛行する魔物と戦ったことがあって、その経験を上手く活かせたんだろう」

 

 もっともそうであれば、彼は戦闘力のみならず尋常ではない応用力と対応力を備えていることになるが。

 

 そしてリリア嬢も同様の考えだったようだ。

 

 しばらく彼女は顎に手を当て考え込み……それから大きく頷いた。

 

「分かったわ。当初の予定どおり、彼の要望に応えることにするわ」

 

 

 ということで、戻ってきたシルさんにセオ君を呼び戻してもらった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「マジすか? 実は冗談でした……とか言わないでくださいよ? 俺泣きますよ?」

 

「冗談なんて言わないわよ。セオ君、貴方の実力を考えれば聖剣を所有する資格は十分にあると私は判断したわ」

 

「やった……!!」

 

 再びギルドの会議室にやってきたセオ君が、喜びのあまりかグッと天に拳を突き上げた。

 

「本当によろしいのですか? その……見ての通りの愚弟ですし」

 

 そんな彼を心配そうに見つめるシルさん。

 

 さすがに愚弟は言いすぎだろ……と思ったが、さっきの呪詛に対する反応はあまり擁護できそうにない。

 

 もっともリリア嬢はそうは思っていないようだ。

 

「問題ないわ」

 

 彼女はきっぱりとそう言った。

 

「もちろん、彼の実力は後日あらためて測らせてもらうけど……グリフォンの上位個体は、ただの子供がまぐれで撃破できるほど甘い魔物じゃないわ。貴方も冒険者ギルドの職員ならば、その脅威を知らないわけでもないでしょう?」

 

「もちろん、よく存じておりますが……」

 

「シルさん、自分の弟だろ? 信じてやろうぜ。それに俺もリリアと同意見なんだ。問題ないと思うぞ」

 

「お二人がそう仰るのであれば……承知しました」

 

 シルさんはそう言って、小さく頷いた。

 

 実のところ……セオ君は駆け出し特有の頼りなさげな雰囲気を纏ってはいるものの、決して弱そうには見えなかった。

 

 

 第一に、足運び。

 

 明らかに剣術の鍛錬で身に着けたであろうそれは、滑らかで無駄のない動きだ。

 

 剣を振るにはまず足腰から、である。

 

 この基本ができているヤツは強い。

 

 

 第二に、部屋での位置取り。

 

 誰かがこの部屋に突然押し入ってきても即座に剣を抜き応戦できるよう、さりげなく壁から少し離れた場所に立っている。

 

 本人が意識的か無意識的にかは知らないが、この手の立ち回りは一朝一夕で身に付くものではない。

 

 ちなみにそのさいに護られるべき対象はシルさんだ。

 

 

 他にもいろいろあるが、いずれの要素も必ずしも冒険者としての実力を担保するものではないものの個人の戦闘力を推察するには十分だった。

 

 つまり彼は冒険者としての実戦経験が少ないだけで、相当なポテンシャルを備えているものと思われた。

 

 そうであれば、聖剣を所持しても持て余すことはないだろう。

 

「それじゃ、さっそくなんだけど……さっきの要望どおり、『なるべく折れにくい聖剣』ということでいいわね?」

 

「はい! まあ、今のパワーならそう簡単に折ることはないと思いますけど……やっぱり、ポキポキ折れたのがトラウマで。……あ、ベースはロングソードでお願いします!」

 

「うん、了解。……それで、予算はどのくらいかしら? 貴方も覚悟の上でしょうが、聖剣を錬成するには相応の金額がかかるわよ?」

 

「ええと……これまでの依頼の分とか諸々合計して、だいたい金貨50枚くらいですね」

 

 セオ君が得意げにそう言った。

 

 金貨50枚。

 

 たしかに駆け出し冒険者からすれば相当な大金のはずだ。

 

 豪遊せず慎ましくしていれば、向こう数年は働かず暮らしていけるだろう。

 

 ただ、リリア嬢のような高名な聖剣錬成師に依頼するには全然足りない額だ。

 

 

 もちろん彼女が譲歩するならば、それ以下の金額でも可能だろう。

 

 しかし、聖剣錬成師とて商人の一種だ。

 

 安易な値引きは、すなわち自分の価値の切り売りでもある。

 

 仮に懐具合が切羽詰まっていても、情に(ほだ)されたとしても、そう簡単にはすべきではない。

 

「うーん……それだと、希望通りの聖剣を錬成するのは厳しいわね……」

 

 案の定、彼女も金額を聞いて唸り声を上げる。

 

「ええ……超大金なんすけど……ていうかほぼ全財産なんですけど……」

 

「まあ待ちなさい。まだ結論は伝えてないわ」

 

 俺たちの雰囲気を察してセオ君が絶望の表情を浮かべるが、リリア嬢が待ったをかける。

 

「私も理由があってこの街で聖剣の買い手を探しているわ。だから……金貨50枚ならば、あとはちょっとした条件を飲めるのなら受けることは可能よ」

 

「飲みます! むしろ飲ませてください!」

 

「まあ落ち着きなさい。……実は、何本か『素体』を持ってきていてね。あとは強度を増すためのちょっとした(・・・・・・)素材を貴方の方で調達してもらえばいいわ。それならば素材費、調達費を差っ引いてちょうど金貨50枚で仕事を受けることができるわ」

 

 言って、彼女は腰の魔導鞄(マジック・バッグ)から美しい装飾が施されたロングソードを取り出した。

 

 素体、ということは人造精霊が宿っていないのだろうが……彼女が錬成した剣だから、モノ自体は一流だ。

 

 個人的には、もう少し武骨な方が好みではあるが。

 

「おお……かっけえ!」

 

 もっともセオ君くらいの年頃には、このくらい派手な方が『刺さる』ようだ。

 

 彼のキラキラした視線は、リリア嬢の持つ聖剣の素体に釘付けだった。

 

 ただ、気になることもある。

 

 俺は半ば察しつつも、あえて彼女に尋ねた。

 

「で、その『ちょっとした』素材ってのはなんだ?」

 

「強度を増す素材なら、決まっているでしょ」

 

 彼女はしたり顔でピン、と指を立ててから、こう続けたのだった。

 

機甲竜(アイアンスケイルドラゴン)の逆麟よ。そうね……五枚ほどあれば十分だわ」

 

「…………」

 

 うん、知ってた。

 

 問題は、ソイツを仕留めるための最低等級が……『B』以上だってことだ。

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