パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第174話 『ルーキーの引率②』

 『北方山脈第三工廠遺跡』に足を踏み入れるとすぐ、飛行型の魔物が襲ってきた。

 

 子供の頭ほどの大きさもある巨大な眼球に蝙蝠の翼が生えた奇怪な形状で、俊敏な動作であちこちを飛び回る――『フライ・ビット』だ。

 

 数は三体。

 

 まあ、挨拶がわりってところか。

 

「うわっ!?」

 

「なっ、なんだあれ!」

 

「キモッ……」

 

 もっともセオ君ら三人組は『フライ・ビット』が初見なせいか、得体のしれない魔物にビビっているようだ。

 

 この手の生命を冒涜したようなデザインは古代魔導文明初期に生み出された魔導生命には比較的よく見かけるが、コイツはさらに機械文明由来の特徴も備えている。

 

「三人とも、常に動いて連中に包囲されないよう気を付けろ! 足を止めたら眼から発射されるレーザーの十字砲火を喰らうぞ」

 

「レーザー!? マジかよ……!」

 

「ッス、了解です!」

 

「りょ、了解ですっ!」

 

『ヂギギッ!』

 

 ――バチュン! バシュッ、バヂン!

 

 俺が指示を飛ばしたその直後。

 

 『フライ・ビット』の眼球から次々と光条が発射され、三人が立っていた地面に穴を穿った。

 

 が、彼らはすでに散開している。

 

「ふむ。新人にしてはいい動きだね」

 

 カミラが展開しかけた防御魔術を解き、賞賛の言葉を口にした。

 

 どうやらフォローは不要だと判断したらしい。

 

 確かに三人とも、俺の指示に対する反応の速さは悪くない。

 

 いくらグリフォンを倒したとはいえ、まだまだ経験が少なくフォローする場面が多いかと思っていたが……これならばある程度三人に戦闘を任せてしまっても問題ないだろう。

 

「どうだ三人とも、とりあえずそいつらと戦ってみるか?」

 

 彼らの等級だと、このダンジョンに足を踏み入れる機会はそうそうない。

 

 実力が十分ならば、後輩に経験を積ませてやるのも先輩冒険者の務めでもある。

 

 危ない場面があれば、適切にフォローしてやればいいだろう。

 

 ……別にザコ処理を丸投げしたわけではない。

 

「や、やってみます!」

 

「ハハ、俺の剣が『啼』いてやがるぜ……!」

 

「セオ、言い方!」

 

 とりあえず、三人とも魔物との戦闘を嫌がる様子はない。

 

 むしろかなりやる気のようだ。

 

「セオ、ミーナ! とりあえず俺が奴らの注意を引くから、隙をついてヤツらを叩いていってくれ!」

 

「了解!」

 

「分かった!」

 

 そう言い残して、ラルフ君が『フライ・ビット』の真ん中に躍り出た。

 

 魔物たちの注意が一斉に彼に向く。

 

「オラオラ目ん玉お化けども! お前らの相手はこのラルフ様がしてやんよ!」

 

 大声で叫びながら魔物を挑発するラルフ君。

 

 ただ、その変顔と謎の踊りは余計だと思う。

 

 魔物は基本的に人間の表情や動きに意味を見出さないからな。

 

 と、思ったのだが……

 

『ヂギッ!!』

 

 どういうわけか、魔物たちがまるで彼の動きに苛立ったかように小刻みに飛行を繰り返した後、大きく距離を取った。

 

 多方向からレーザーを浴びせるつもりだ。

 

 だが魔物たちは、背後から忍び寄るセオ君とミーナちゃんには気づいていない。

 

「今だっ!」

 

「せあっ!」

 

「――『雷の長槍(サンダースピア)!』」

 

 三人の声が重なる。

 

 ラルフ君の放った投げナイフが、セオ君の素早い斬撃が、ミーナちゃんの雷魔術が、それぞれ三体の『フライ・ビット』を同時に粉砕した。

 

「っしゃ!! 高難度ダンジョンって聞いてたけど、俺ら割とイケるんじゃね?」

 

「フッ……そこそこ歯ごたえはあるけどな」

 

「ふふ……私たち、高難度ダンジョンの魔物相手に対等に渡り合ってる……!?」

 

「三人とも、そいつらはただの斥候だ。すでに他の魔物を呼んでいるだろうから、しばらく戦闘が続くぞ。気合入れろ」

 

「「「えっ」」」

 

 得意げな三人の表情が、一気に引きつった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ハア、ハア……死ぬ……死ぬッ!」

 

「クソ、膝が笑って立てねぇ……!」

 

「……………」

 

 

 第三階層の終盤に到達したところで、三人がガクリとその場にへたり込んだ。

 

 ラルフ君とセオ君はそのままダンジョンの床に寝っ転がり、手足を投げだしている。

 

 ミーナちゃんはそれほど肉体疲労はなさそうだが、何度も魔術を行使したせいか立ち上がれずそのまま虚空をぼんやり見つめている。

 

 すでに息も絶え絶えといった具合の三人だが、ここまで来る間に『フライ・ビット』を二十体、アイアンゴーレムを四体、それから武装スケルトンを三十体ほど撃破している。

 

 ルーキーにして大戦果だ。

 

 もちろん途中で何度か危ない場面もあり、俺とカミラがフォローに回ることもあったが、今のところ誰ひとりとして大きなケガもせず、無事にここまでやってこれている。

 

 実力的には、すでにD級上位どころかC級の中の上くらいの実力を有しているのは間違いなかった。

 

 とはいえ、機甲竜(アイアンスケイルドラゴン)が出現するのは、第五階層より下だ。

 

 さすがにこの状態で先に進むのは危険だろう。

 

「ふむ、そろそろ休憩をとっておこうか」

 

「だな」

 

 そんな三人の様子を見て、俺とカミラは互いに頷き合った。

 

「「「…………」」」

 

 三人から返事はなかったが、カミラの言葉のあとに明らかにホッとした空気が広がるのを感じた。

 

「よし、決まりだね」

 

 周囲の魔物は一掃しているから安全は確保できているが、念のため、とカミラが周囲に魔力障壁を張り盤石の安全地帯が完成する。

 

「それじゃ、三人ともコイツを飲んで元気を出せ」

 

「……それはなんですか?」

 

 俺が魔導鞄(マジック・バッグ)から取り出した小瓶を見て、唯一声の出せるミーナちゃんが尋ねてくる。

 

「回復剤だ。まだ食事の時間には早いが、体力が戻らないことには先に進めないだろ?」

 

 俺は言って、三人にそれぞれ小瓶を渡す。

 

「あっ、ありがとうございます!」

 

 三人はよほど疲れていたのか、素直に小瓶を受けとると封を切り、一気に中身を飲み干した。

 

「うげぇ……」

 

「し、舌がしびれる……」

 

「……苦いです……」

 

 が、三人ともすぐに舌を出しながら顔をしかめている。

 

 まあ、原料が薬草由来の比較的安価なやつだからな。

 

 味の方はまあお察しだ。

 

 とはいえ、効果はすぐに表れた。

 

「…………あれ、身体が楽になった?」

 

「おっ、膝の震えが止まったぞ」

 

「回復剤、すごい……」

 

 三人の顔に生気が戻り、セオ君とラルフ君は身体を起こして驚きの声を上げている。

 

 うむ、やはり見立て通りだな。

 

 三人に与えたのはそれほど強力なものではないが、体力回復の効果よりも魔力補給を重視している。

 

 見たところ、魔術師のミーナちゃんだけではなく、ラルフ君は魔物のヘイトを稼ぐ挑発魔術、セオ君は身体強化の魔術を上手く使ってそれぞれ立ち回っていたようだからな。

 

「すげー……こんな効くの、飲んだことないや。やっぱベテラン冒険者って高級回復剤を常備しているんだな」

 

「はは……なんかダンジョンに入る前より元気な気がするわ」

 

「ブラッドさん、この回復剤ってどこに売ってるんですか? ギルド指定の魔道具屋さんでは見たことないんですけど……もしかして特注品だったりするんですか……?」

 

 すっかり元気になったミーナちゃんが、おずおずとそんなことを尋ねてくる。

 

 もしかして高価なアイテムを使わせてしまったと気にしているのだろうか。

 

 もちろん、そんなことはない。

 

「いや、値段自体は他のとそう変わらんぞ。ただ、ギルド指定のとこには売ってないかもな。コイツの店で売ってるやつだからな」

 

「そうなんですか!?」

 

 ミーナちゃんが驚きの目でカミラを見た。

 

「……フフ、私の本職は魔道具師だよ?」

 

 本日二度目のドヤ顔をするカミラ。

 

 何を隠そう、この回復剤は彼女の魔道具店で販売している新製品なのである。

 

 名前はまだない。

 

 俺はまあ……取引先ということでかなり安値で譲ってもらっているが、そうでなくてもルーキーがちょっと背伸びをすれば手が届く価格に設定してある。

 

 とはいえ、いずれ冒険者ギルドにも売り出すことになるだろう。

 

 

 余談だが、この回復剤開発のきっかけは、ステラの魔術練習のあとに効率的に体力と魔力を同時に回復できるドリンクが欲しいと思ったことだとか。

 

 なお味については彼女にもかなり不評だったとのことで、ローティーン向けの甘口バージョンも開発予定とのことである。

 

「よし、体力が回復したのならどんどん進むぞ。今日は機甲竜を大量に狩らなきゃならんからな」

 

「ウス!」

 

「御意!」

 

「はい、頑張ります!」

 

 

 ……その後、元気を取り戻した三人の快進撃は、目的の第五階層に到達するまで続いたのだった。

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