パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
第五階層まで降り、入り組んだ通路を抜けた先は巨大なホール状の空間だった。
幅と奥行きは数百メートル程度。
鋼板製の壁面には階段がへばりついており、二階部分の
緩く弧を描く天井までの高さは三十メートルはあるだろうか。
一言で言い表せば、軍事基地の『格納庫』のような雰囲気だ。
そして格納庫ならば、当然格納されるべき兵器が存在する。
「……目標を発見。いったん引くぞ」
討伐プランを練るため全員で通路まで戻る。
「あれが……でけぇ……」
セオ君が押し殺した声でそんな感想を漏らす。
ズズン、ズズン……と地響きを立てながらホール内を闊歩するのは、地竜に似た半機械、半生物の魔物――
全長はおおよそ10メートル。
身体のほとんどをゴツゴツとした鋼の鱗に覆われ、天井から吊り下がる照明に照らされ黒く光っている。
特徴的なのは、ほとんどのドラゴンが持つ翼がある位置に、左右それぞれに二門ずつ、全長5メートルほどもある巨大な砲が生えているところだ。
この砲は強力な
魔術で身体能力や反応速度を底上げしておくか、強力な魔力障壁を張って攻撃に備えておかなければ、あっというまに木っ端みじんにされてしまうだろう。
「ふむ、五階層に降りて最初の部屋にいるとは幸先がいいね」
「だな」
そんな強力な竜種を前に、カミラが嬉しそうに頷いている。
彼女にとっては、奴らが素材にしか見えていないらしい。
まあ俺もだが。
「とりあえず、一体目は君らの獲物で構わないぞ」
「あざす! じゃあ、お言葉に甘えて」
元気よく返事をしたのはセオ君だ。
ようやく標的に出会えたせいか、テンションが高い。
「よく見たら、動きはかなりトロいな。こっちにも気づいていないみたいだ。……案外見掛け倒しかもな!」
ラルフ君が通路の影からホールを覗き、そんなことを呟いている。
「ラルフ、俺が先行するがいいか? あの鱗じゃ、お前の短剣じゃどうしようもないだろ」
「ああ、いいぜ。今日の切り込み隊長はお前だ」
「クク……腕が鳴るぜ!」
「私も攻撃魔術で支援するからね」
「ミーナ、頼んだぞ! ……じゃあいくか!」
「ちょっと待ちな」
「ぐわっ!?」
機甲竜めがけて突撃しようとしたセオ君の襟首を、カミラがガッと掴んだ。
ダンジョン探索用に例のボディスーツを着込んでいるため腕力が強化されているせいか、セオ君は片手で止められてしまった。
「な……なんすかカミラさん!?」
せっかくやる気のところを寸止めされたセオ君はちょっと不機嫌そうだ。
もっともカミラは、彼の様子に全く意に介した様子はない。
「なに、万が一のことがあるかもしれないだろう? 三人とも、念のため防御魔術を施しておこう。――風の精霊よ」
言って、カミラは三人に向かって杖を振った。
彼らの足元からふわりと風が立ち昇り、身体を包み込む。
「おお!?」
「なんか動きづらいな……?」
「きゃっ!?」
三人はこの手の防御魔術に慣れていないのか、みな目を白黒させている。
とはいえ、相手が竜種ならば万全な準備が必要だろう。
彼女の行動は正しい。
というか、機甲竜との戦闘では高位の防御魔術が必須といっていい。
「…………」
と、そのとき。
魔法を行使しながらカミラが俺に視線を向け、ウインクした。
一瞬何事かと思ったが、すぐに理解する。
機甲竜の攻撃、いや『防御』は――
なるほど、彼らには『身体で覚えてもらう』ということか。
あまり褒められた行為ではないが、彼らみたいなイケイケのパーティーには必要な経験だと考えたのだろう。
俺もあえて言葉には出さず、とりあえず彼女に頷いておく。
「これでよし」
魔術を行使し終えたカミラが満足そうに頷く。
「はあ、別に要らないっすけどね……俺、頑丈だし」
「そうかい? まあお守り代わりだよ」
「……まあ、一応感謝はしておきます」
不機嫌なセオ君もカミラに心配されていることは理解しているのか、おざなりにではあったが感謝の言葉を口にする。
ちなみに戦闘支援に回るラルフ君とミーナちゃんは素直に感謝の言葉を述べていたが……それはさておき。
「それじゃ……気を取り直していくぞ!」
「セオ、気を付けろよ!」
「援護は任せて!」
三人は頷き合ったあと、各自配置についた。
セオ君は機甲竜の背後からの奇襲、ラルフ君とミーナちゃんはセオ君の初撃に畳みかけるように魔物を攻撃する算段のようだ。
「…………」
息を殺しながら、セオ君がソロソロと機甲竜に接近する。
そして――
「おらぁっ!」
セオ君が相手の死角から猛然と飛び掛かり、機甲竜の後ろ足の付け根当たりに強烈な斬撃を見舞った。
――ギイン!
巨大な鱗が真っ二つに断ち斬られ、鮮血が吹き出す。
『グオッ――!?』
痛みからか、機甲竜の身体がグラついた。
「よっしゃ……! 次は――へっ!?」
セオ君がそのまま二撃目を放とうとした、そのときだった。
――キイィィン……!
セオ君が斬りつけた鱗から甲高い音が鳴り響き、どんどん赤熱してゆくのが見えた。
「なんだこれ――!?」
何が起きたのかを悟ったときにはすでに時遅し。
――ドン!
機甲竜の傷ついた鱗を中心として爆発が起き、セオ君が勢いよく宙を舞う。
彼はそのままホールの端まで飛ばされてゆき、壁面に叩きつけられてしまった。
――『攻性反応装甲麟』という。
機甲竜などの半機械系魔物が持つ、攻性魔術防御の一種だ。
連中は巨大な身体を維持するために、全身を覆う大きな鱗の一枚一枚に多量の魔力がため込んでおり、それらを効率よく体内に循環させるための魔術回路が刻み込まれている。
そいつを破壊したり傷つけたりすれば、魔力の流れが乱れ、暴走し――行き場のなくなったエネルギーが臨界を超えた瞬間、爆発を巻き起こす。
セオ君が喰らったのは、それだ。
「セオッ!!」
「セオくん!?」
いきなりのアクシデントに泡を喰ったのはラルフ君とミーナちゃんだ。
二人は真っ青な顔で、ぐったりしたセオ君の元へと駆け寄る。
「ふむ……三人とも冒険者としてはまだまだだねぇ」
そんな様子を眺めて、カミラが肩を竦めている。
まあ、いくら高い戦闘力を持つとはいえ、駆け出しだからな。
経験不足は否めない。
ただ、彼らの行動を許すほど状況は甘くない。
『グルル……ガアアアァァァッ!!』
身体を傷つけられ怒り狂った機甲竜が咆哮し、セオ君に駆け寄る二人の姿に身体を向けた。
一方、二人はセオ君の安否で頭が一杯らしく、すでに機甲竜に見つかったことに気づいていない。
すでに合計四門の火砲が三人に狙いを定めていることにも。
さすがにあれを連射されれば、いくらカミラの防御魔術でもダメージを殺しきることはできないだろう。
仕方ない、当初の予定は変更だ。
「……とりあえず、俺が片付けるがいいか?」
「いいんじゃないかい?」
カミラが頷く。
「じゃ、とりあえず素材ひとつゲットだな。レイン、全力でいくぞ」
『りょーかい!』
聖剣レインを抜き放つと、彼女の元気な声が頭に響き渡った。
機甲竜は全身を『攻性反応装甲麟』で覆われているため、直接攻撃をほとんど寄せ付けない。
だが顎の下に、一か所だけそれが無い場所がある。
つまり……『逆鱗』だ。
「おいドン亀野郎! こっちだ!」
セオ君らに攻撃が行かないよう、大声で機甲竜を煽る。
『グル……?』
目論見は成功し、ヤツがこちらを向いた。
同時に四門の火砲もこちらに向いたが、問題ない。
チリ……と砲の内部に光が満ちたときには、すでに俺は相手の懐に入り込んでいる。
「せあっ!」
気合とともに、ドラゴンの首元にレインの刃を突き刺した。
それで終いだった。
『グオオオオォォ――――』
機甲竜が断末魔を上げ、崩れ落ちる。
すぐに魔物の巨体は魔力の粒子へ変わり、消失。
逆鱗だけがダンジョンの床にカランと転がった。
俺はそいつを拾い上げる。
手のひらサイズの赤い板状の破片だ。
うむ、状態は悪くないな。
「よし、『逆鱗』ゲット」
さて、セオ君たちは無事だろうか。
「うぐ……あれ、俺、どうして……」
俺が機甲竜を片付けている間に、セオ君は意識を取り戻していたようだ。
カミラの防御魔術のおかげで、身体に傷らしい傷は見当たらない。
「セオ、無事だったんだな! よかった!」
「ちょっと、心配したんだからね!」
「おっおう」
二人が涙目でセオ君に抱き着き、まだ何が起きたのか把握できていない彼は目を白黒させている。
「ふふん。防御魔術があってよかったねぇ?」
カミラがドヤ顔をしているが、俺にそれを言われてもな。
とりあえず、初戦は皆が無事でよかった。