パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
『ガアアアァァァッッ!!』
広大なダンジョンフロア全体に咆哮が轟く。
ここは第六階層の中央部、ギルド支給の地図に記載された名称は『第三竜型兵器格納庫』。
奥行きも幅も数百メートルはある、巨大な空間だ。
そこで、一体の魔物――
すでに手負いの状態で怒り狂っており、周囲の構造物を大きな図体で破壊しながら、背中から生えた火砲から強烈なレーザーをあちこちに乱射していた。
そんな暴虐の嵐を潜り抜けながら、少年少女が縦横無尽に駆け回っている。
ラルフ君、セオ君、ミーナちゃんのルーキー三人組である。
「よし、さっきの攻撃でヤツの動きはかなり鈍ってきているな。このまま押し込むぞっ!」
「おうよ! ラルフ、ミーナ、隙を作ってくれ! 俺がとどめを刺す!」
魔物の意識が自分たちに向くよう立ち回りながら、セオ君が二人に呼びかける。
「了解、任せとけ!」
「ま、まかせてっ!」
「……おらっ! クソ竜、こっちだ!」
ラルフ君の投げナイフが機甲竜の鼻先に刺さり、その視線がセオ君から逸れた。
そのタイミングを見計らって、ミーナちゃんが杖を振り上げる。
「――『
彼女が叫ぶと同時にパリリ……と一瞬、杖の先が帯電し――
――ドンッ!!
一条の稲妻が杖の先から
先ほどラルフ君が放った投げナイフの突き刺さった部位だ。
電撃系の魔術は強力だが力の制御が難しく、距離があると攻撃がブレやすい。
おまけに半機械系魔物は電撃が弱点である反面、外骨格に金属が含まれている場合は体表で電撃が拡散してしまい致命傷を与えにくい。
その両方の問題を、金属製のナイフで電撃を誘導・収束させることにより克服した。
ふむ、なかなかやるじゃないか。
『グルルッ……!』
機甲竜も、この攻撃で相当なダメージを受けたようだ。
10メートルをゆうに超える巨体がグラリとよろめく。
……が、どうにか踏みとどまった。
攻撃が効いていることは確かだが、ミーナちゃんの魔術では少々威力が足りなかったらしい。
「くっ、浅かった……!?」
彼女もそう感じたらしく、悔しそうに顔を歪める。
だが、足止めという仕事は見事に果たしている。
セオ君にとっては、この一瞬の隙こそが重要なのだ。
「ミーナ、よくやった! ……セオ、行けッ!!」
「おうともよ! るあああああぁぁーーーーっ!!」
裂帛の気合と共に、セオ君が機甲竜の喉元に潜り込んだ。
突き上げた剣が逆鱗を割り、深々と突き刺さる。
それがとどめとなった。
『ガ……』
ぐるりと白目を剥き、竜の巨体が倒れ伏す。
同時にその身体が魔素の粒子と化してゆき――やがて真っ二つに割れた『逆鱗』だけを残して、機甲竜は虚空へと溶け消えた。
「……やった、か?」
魔物が消滅したというのに、ルーキー三人組は動かない。
まだ自分たちだけで敵を倒したことを信じられないようだ。
仕方ないな。
俺とカミラは戦闘の邪魔にならないようフロアの入口付近で見物していたのだが、そろそろいいだろう。
俺たちは三人に近づいて、声をかけてやった。
「みんな、よくやったな。これでお前らも晴れて
「…………!」
「…………!!」
「…………っ!!」
三人が同時に俺の方を向いた。
まだ実感がわかないのか、なにやらよく分からない表情をしていたが……徐々に顔が緩んでゆき、そしてクシャクシャになった。
再び三人が顔を見合わせる。
「お、俺たち……!」
「あ、ああ……!」
「三人だけで、機甲竜を倒した!」
「「「やったー!!」」」
少ししてから、三人が喜びを爆発させながら抱き合った。
「三人ともお疲れさん。どれ、傷を癒してあげよう」
カミラもそんな様子を見て、顔を綻ばせている。
「とりあえず休憩にするか。あと最低四体は狩らなければならんからな」
「そ、そうだった……」
「まあ、俺らなら次はもっとうまくやれるだろ」
「だね!」
三人は疲労感からかその場に座り込んでしまったが、表情は明るい。
この調子ならば、素材の目標数に達するまでそう苦労はしないだろう。
◇
「そういえば、三人はなんで冒険者になろうと思ったんだ?」
魔物のいなくなったフロアでのんびり寛ぐ三人に、ふと声をかけた。
それは素朴な疑問だった。
冒険者は、子供にとって憧れの職業だ。
特に男子たるもの、人生で一度くらいは強大なドラゴンを倒す夢を見るものである。
だが、普通の家に生まれて冒険者になろうとする者はそう多くはない。
なんだかんだで死と隣り合わせだし、稼ぎだってよほど高名な冒険者でなければ割に合うものじゃないからな。
だから大抵の連中は夢を見るだけ見て、なんだかんだ実家の仕事を継いだり街に出て別の何者かになっていくものだ。
今の平和な時代なら、冒険者以外の選択肢が無数にある。
もちろん俺のように副業かつ趣味と実益を兼ねていたり、単に竜を狩りたいがために冒険者をやっている連中もいなくはないが……少数派である。
だから、ふと気になったのだ。
「俺の親父は衛兵隊長なんすよ。だから俺も十五になったら多分衛兵隊に入らされるし、今のうちに腕っぷしを磨いとこうと思って」
そう切り出したのはラルフ君だ。
実際衛兵は若いころに冒険者をやっていると有利と聞く。確かに活動経験は現場で活かせるだろう。
なんだかんだで魔物の駆除やら犯罪者の捕縛など荒事が多いからな。
特に彼は三人に指示を出したり戦況を俯瞰して見ることに長けている。
衛兵は悪くない選択肢だ。
「俺は……まあ、単純に憧れだったのと、姉貴が冒険者ギルド勤務だったからっすね。あとは、小さいころから剣術道場に通ってたから、腕試ししたくて。……あ、俺は冒険者一筋っす。目指せ等級A! っす!」
そう話すのはセオ君だ。
彼の場合は身近に関係者がいるから影響を受けるのは分かる。
ちょっとお調子者でアホなところがあるので、今後冒険者として身を立てていくのなら、そこは直しておく方がいいとは思うが……
「私は……まあ、そこの二人に誘われたから、ですね。……でも、魔術の才が活かせる仕事だし、いいかなって」
ミーナちゃんは二人に流されて冒険者になったらしい。
もっとも魔術の素養はそれなりにあるので、今後の活躍を期待したいところだ。
「そういえばブラッドさんはどうなんですか?」
「俺か? そうだな……」
俺はどうだったかな。
時代的に、物心ついたときには魔族との戦争の真っただ中だった。
大して裕福でもない平民生まれの俺は、当時の状況では冒険者になるか王国軍に志願するかくらいしか選択肢がなかったのを覚えている。
もっとも冒険者として活動する中で剣術や魔術を覚え実戦で試していく流れは存外に楽しく、カミラやフレイら仲間にも恵まれたおかげでそれほど苦労した覚えはなかったが……
その後はいろいろあって、冒険者を数年で引退して聖剣錬成師を目指すことにしたわけだが、冒険者として活動したときの経験は未だに役立っている。
「ふふ……懐かしいねえ。あの頃の君はまだ初々しくて生意気盛りで――」
「!?」
気付けばカミラが会話に加わっていた。
……しまった、これはさっきと同様に完全に墓穴を掘る流れだ。
彼女は俺たちから少し離れてこれまでに得た素材の整理などをしていたのだが、いつの間にか完了していたようだ。
「……よし、そろそろ狩りを再開するか」
彼女がいては、適当にぼやかして話すことができないからな……!
「ええー!? なんでっすか!?」
「めっちゃ気になる! 昔の話、聞かせてくださいよー!」
「はいはい! 私はブラッドさんとカミラさんの馴れ初め、気になります!」
ミーナちゃんが元気よく手を上げた瞬間、カミラがピキッと固まった。
「むっ……そ、それは……またの機会にしようか」
そこを突かれると、さすがの彼女も弱い。
あれはまさに事故だった……
もちろん俺もそこを追及されると弱いわけで。
「…………」
「…………」
俺はカミラと目を見合わせると頷き合った。
まあ、利害の一致という奴だ。
「よーし。そろそろ休憩は終わりだ。そらお前ら、もうひと狩いくぞ!」
「さあさあ、まだまだ機甲竜を倒さないといけないからね! 張り切っていこうじゃないか!」
「「「ええ……」」」
その後はブーブー文句を言う三人をのらりくらりと躱しつつ、俺たちはどうにか目標量の素材を集め終わったのだった。
※二人の馴れ初めについては第29話あたりをご参照ください