パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第177話 『強化錬成工程』

「うん、状態のいい素材ばかりね。これなら最高の聖剣を仕上げることができるわ」

 

 俺の工房の作業台に並べられた剣の素体や素材の数々を見て、リリア嬢が満足そうに頷く。

 

 台の中央に燦然と輝くのは『機甲竜(アイアンスケイルドラゴン)の逆鱗』。

 

 先日ダンジョンから持ち帰ってきた、聖剣の強靭度を飛躍的に高める素材だ。

 

 作業台には、それ以外にも『血晶スライムの核』『銀竜の牙』『氷曜石の欠片』など、聖剣錬成には定番の素材が並んでいる。

 

 もっとも、今回は、普段は主役となる『人造精霊』や、人造精霊の定着率を上げるための素材は準備していない。

 

 聖剣に人格を宿らせても、セオ君には扱いづらくなるだけだからだ。

 

 彼の要望は、とにかく壊れにくい『強靭な剣』。

 

 魔力管制や属性付与などは必要ない。

 

「なあリリア、本当に手伝わなくていいのか?」

 

「当然でしょ」

 

 そう言って、彼女が続ける。

 

「これ以上アンタに手伝わせたら、その分価格が跳ね上がるでしょ。今回は予算が金貨五十枚って決まってるんだから、それはできないわ」

 

「別に手伝うくらいなら構わないんだがな」

 

「ダメよ」

 

 珍しく、リリア嬢が語気を強める。

 

「私はそこらのケチな商人じゃないわ。同業者の腕を何の見返りもなしに借りるなんて、私のプライドが許さないわ! ただでさえ工房を間借りしているのに、これ以上何かを頼めるわけないでしょ」

 

「それもそうか」

 

 彼女の言い分はいささか杓子定規ではあるが、もっともではある。

 

 親しき中にも礼儀あり、というやつだ。

 

 まあ、それを言うと素材集めの件どうなんだ、という話だが……あれは自分の素材集めがメインで、彼らのフォローはあくまでついで、という体だからな。

 

 実際、多少の手助けや助言は冒険者の互助精神の範囲内であるし、そもそもルーキーの面倒を見るのは先輩冒険者の役目だ。

 

 それにギルドへ素材を納めて報酬も貰っている。

 

 特に損はしていない。

 

「それじゃあ、王都随一の聖剣錬成師、リリア殿の腕前を特等席で拝見させてもらうとするかな」

 

 とりあえず、彼女の作業の邪魔にならない場所まで離れ、近くにあった椅子に腰掛けた。

 

 ここからなら、作業の全体像が良く見える。

 

「フフ……! 私の腕でよければ、いくらでも見学していくといいわ。そっちは元々取り決めの範囲内だしね」

 

 リリア嬢はそう言ってほほ笑むと、作業台に向き直った。

 

「さて……と」

 

 彼女が腕まくりをして、作業台に敷いた魔法陣に聖剣の素体を横たえる。

 

 すでに起動状態の魔法陣の上に、聖剣の素体がフワリと浮いた。

 

 ここまでは特に変わったところはないが……実を言えば、すでに形作られた剣に素材を加えて強化する、という手順はきちんと試した経験がない。

 

 だから、今後レインに強化を施すためにも彼女の錬成工程を見学できるのはありがたかった。

 

 一応手順などの下調べは済んでいるし、端材などで試してはいるが……手本があるのとないのとでは今後の作業効率が大きく違う。

 

 俺はリリア嬢の一挙手一投足を見逃すまいと、彼女の動きに集中した。

 

「…………」

 

 まず彼女が手に取ったのは、『血晶スライムの核』だ。

 

 パラパラと、剣全体にゆきわたるようにまぶしてゆく。

 

 この素材は剣と素材の親和性を高めるために必要な素材だ。

 

 これと言って特筆すべきことのない工程だが、淀みない手さばきは見惚れるものがある。

 

 おそらくこれまで何千、何万と繰り返してきた動作なのだろう。

 

 ここだけ切り取って見ても、彼女が超一流の職人であることが分かる。

 

 聖剣錬成の精髄は、こうした基本的な手順の繰り返しから生まれるのだ。

 

 

「……次」

 

 

 その後は『銀竜の牙』この素材は魔力の伝導性を高め、『氷曜石の欠片』で刃の鋭さを強化。

 

 それからさらにいくつかの素材を投入した後、最後に彼女は『機甲竜の逆鱗』を手に取り……これも加えた。

 

 魔法陣の上にある聖剣に変化はない。

 

 しかし、魔法陣の方に変化が起きた。

 

 急に紋様からフッと光が失われ、すぐに復活。

 

 そのあとは不規則な明滅を繰り返している。

 

 魔力の流量が安定してないようだ。

 

「……くっ、思ったよりキツいわね……」

 

 リリア嬢が頬に汗を垂らしながらも、真剣な顔で魔法陣の制御を試みる。

 

「手伝おうか?」

 

「だ、大丈夫!」

 

 気丈にそう返す彼女の顔は少し青白い。

 

 竜種由来の素材は、錬成の工程で対象に融合させるために多量の魔力を要するものが多い。

 

 特に『機甲竜の逆鱗』は硬度や強靭度に関わる素材だからか魔力干渉に強く、聖剣に馴染ませるためにかなり大量の魔力を消費することになる。

 

 今回は、それを五枚同時に加えている。

 

 手順としては必要ではあるのだが……

 

 いくら聖剣錬成師として優秀でも、魔力量の多寡は全く別の才能だ。

 

 それに魔力量は筋肉と同じで普段から鍛えてなければ衰えてしまう。

 

 彼女は俺と違い、旅先のオルディスで鍛錬らしい鍛錬もできなかっただろうから……こればかりは仕方ない。

 

「ぐっ……この、くらい、で……!」

 

 どうにか魔法陣へ供給する魔力を絶やさないよう歯を食いしばって頑張っているが、このままでは魔力欠乏で倒れてしまうおそれがあった。

 

 そうなれば、聖剣錬成は失敗だ。

 

 当然加えた素材は無駄になってしまう。

 

 もちろんセオ君が必死の思いで持ち帰ってきた『機甲竜の逆鱗』もだ。

 

 ……仕方ないな。

 

「どれ、邪魔するぞ」

 

 俺は立ち上がり、彼女の隣に立った。

 

 不規則に明滅を繰り返す魔法陣に触れ、不足している魔力を供給してやる。

 

「あっ……まだ、私は……っ!」

 

「勘違いするなよ? これは『貸し』だ。魔力供給はこっちで負担するから、錬成工程に集中しろ」

 

「……っ、借りは必ず返すわ!」

 

 俺の魔力が供給されたことにより、魔法陣から放たれる光がみるみるうちに安定してゆく。

 

 同時に、聖剣の周囲を漂っていた『機甲竜の逆鱗』が徐々にその形を失い、剣と融合してゆく。

 

 そして――

 

「……完了ね」

 

 リリア嬢の言葉とともに、魔法陣から光が消えた。

 

 剣の刃には、うっすらと波紋のような柄が浮かび上がっていた。

 

 錬成成功だ。

 

「ふう…………っ」

 

 それを見届けたリリア嬢は、安堵からか長い息を吐き――ぐらりとよろめいた。

 

「おっと」

 

 とっさに彼女の身体を抱きかかえた。

 

 こちらに向いた彼女の顔は蒼白で、額には汗が滲んでいる。

 

 呼吸も浅い。

 

 極度の緊張とストレス、それに大量の魔力消費。

 

 それらが合わさって、軽い虚脱状態に陥っているようだ。

 

「ごめん、なさい……結局、一番大事なところで助けられちゃったわ」

 

「気にすんな。旅先で鍛錬ができない状況が続けば、俺だってこうなる」

 

 とりあえず彼女を支えながら壁際まで連れてゆき、椅子に座らせた。

 

「落ち着いたら、上でメシにしよう。……珈琲(コーヒー)はいける口か?」

 

 言って、座り込む彼女に手を差し出した。

 

「……王都では眠気覚ましによく飲んでたわ。あるの?」

 

「ああ。個人的なツテで最近は常備しているんだよ」

 

「じゃ、お願いしようかしら」

 

 彼女は微笑んで、俺の手を握った。

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