パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
「おおー! これが……俺の聖剣……!」
「すげ……」
「うわー……ちょっと素敵かも!」
応接室のローテーブルに横たえられたロングソードを眺め、セオ君らルーキー三人組が目を輝かせている。
――『インヴィンシブル』。
古代言語で『無敵』を意味するこの長剣は、その言葉通り半永久的に折れることはない。
……というのは少々大げさだが、『機甲竜の逆鱗』を五枚も使った剣身は非常に強靭かつしなやかで、巨竜に踏まれても歪むことすらないだろう。
もちろん通常の運用で破損することはまずありえない。
形状としては一般的なロングソードの
薄刃のロングソードとした理由は、その耐久力ゆえ分厚く仕上げる必要がなく、取り回しだけを考慮すればいいからだ。
もちろん薄い刃であることの副産物として、切れ味も相応に抜群である。
ただし普通の剣より軽量だということは、叩き切るような戦法にはやや不向きだとも言える。
もっともセオ君の戦闘スタイルは、呪詛の影響がない状態ならば、剛腕で敵をぶった切るよりも俊敏な動きで敵を翻弄するタイプだ。
おまけに基礎ができているからか立ち回りも悪くないし、目もよく、仲間との連携もしっかり取れている。
今後は戦闘をこなすことにより、剣と共に成長していくことになるだろう。
他に特筆する点と言えば、柄には複雑な装飾が彫り込まれていることだろうか。
もっとも、この装飾については握った時に滑り止めの役目を果たすようなデザインになっているため、そこまで目立つものではない。
あくまでも機能性重視の造りである。
このあたりの感覚、俺の美学と重なるところがあり個人的には好感度が高い。
「一応注意しておくけど、剣の切れ味はちょっと良いくらいだし、雑に扱ったら刃が欠けることはあるからね? 言うまでもないけれども、普通の剣と同じくらいには大事に扱うこと。いいわね?」
「ウッス! もちろんです!」
セオ君がビシッ! と敬礼をする。
「うん、いい返事ね。それじゃ、さっそく試し斬りしてみましょうか。……よっ、と」
言って、リリア嬢が自前の
ただし、なぜか普段扱う素材のサイズより十倍以上大きい。
重量はおそらく十キロ以上あるだろう。
もしかして、試し斬り用に鋼材を成形したのだろうか?
普通の剣はもちろん、大剣でも下手な角度で斬りつけたら折れてしまいそうなゴツさだ。
「ちょっ、マジっすか!?」
当然のごとく、セオ君が悲鳴じみた声で抗議する。
せっかく引き渡しを受けた剣の刃が欠けさせたくない気持ちはよく分かる。
だが……
「大丈夫大丈夫、この程度の鉄塊で刃こぼれすることなんてないわ。だいたい、それを証明しなくては引き渡したことにならないでしょう?」
「そ、それはそうッスけど」
「面白そうじゃんセオ。お前の剣の強さ、見せてくれよ」
「私も見てみたいかも!」
ラルフ君とミーナちゃんは完全に他人事らしく、ワクワクしながら試し斬りを勧めている。
もっとも、リリア嬢の言う通り、『インヴィンシブル』がこの程度の鉄塊でどうこうなるものではない。
それだけは間違いない。
「で、でも……」
「だったら私が代わりにデモンストレーションするわよ?」
「だだ、大丈夫ッス! ……わ、分かりました。や、やったらぁ!」
しばらく悩んでいたセオ君だったが、やがて腹をくくったようだ。
半ばヤケクソになりながら、『インヴィンシブル』の柄を掴んだ。
試し斬りは、さすがに屋内でやるわけにはいかない。
俺たちはひとまず応接間を片付け、庭に出た。
「うわ、すげ……」
「これが聖剣錬成師の工房ってやつか……」
ラルフ君とセオ君が、あちこちに並べられた試し斬り用の丸太や野外の作業台などを眺め、そんな感想を漏らしている。
そこにミーナちゃんがジト目でツッコミを入れる。
「ちがうと思うよ? 魔道具師とか魔術系の素材を扱う職人さんって、地下に工房を持ってるはずだから。多分、試し斬りとかをするスペースじゃないかな?」
さすが、彼女は魔術師だけあって知識があるようだ。
「とりあえず、試し斬りならあれを使ってくれ」
俺は庭の隅に転がる丸太を指さした。
長さはそれほどでもないが、一抱えはあるやつだ。
試し斬り用の案山子を作ろうと思って街の木こりから買い付けたきたのだが、しばらく忙しくて転がしたままになっていた。
あれを起こせば、鋼材を置く台としてはちょうどいい。
試し斬りが終わったら、
「じゃあ、遠慮なく」
リリア嬢が丸太をゴロゴロ転がしてきて、庭の中央に立てた。
彼女は魔力はともかく、職人だけあってそれなりに腕力はある。
一瞬手伝おうかと思ったが、その必要はなかったようだ。
「それじゃ、セオ君。思いっきりいっちゃって大丈夫よ。というか、思いっきりいかないと自分の手首を痛めるわよ」
「ウッス……!」
緊張した面持ちで、セオ君が立てた丸太の前に立った。
それから『インヴィンシブル』を大きく振りかぶり――
「せあっ!!」
裂帛の気合とともに振り下ろした。
――キンッ!!
甲高い音が庭中に響き渡る。
「……お見事」
リリア嬢の静かな声でそう言った。
鋼材は綺麗に真っ二つになっていた。丸太もだ。
ちなみにセオ君は少々気合を入れすぎたのか、下の丸太まで両断してしまったどころか剣を地面に食い込ませていたが……まあ、問題はなかろう。
「っ……、剣は!?」
よほど緊張していたのか、剣を振り下ろしたあとしばらく放心していたセオ君だったが、我に返ると慌てて剣を地面から引き抜き、その刃を見た。
もちろん刃はどこも欠けておらず、綺麗なものだ。
「……すげぇ。思い切り斬ったのに、刃こぼれ一つしてないや」
「当然でしょう? もちろん魔物の甲殻の硬度によっては刃が欠けることはあり得るから、メンテは怠らないでね?」
「一緒に冒険したよしみだ、ウチに来たらメンテ費用は多少負けてやるぞ」
「あ、ありがとうございます!」
嬉しそうに俺とリリア嬢に頭を下げるセオ君。
「じゃあ、もう少し何か斬っていくか? あっちの丸太とかどうだ」
「あんた、人が錬成した聖剣を薪割りの斧替わりにしようとしてない?」
「…………そんなわけないだろ」
そんな会話を交わしつつ、引き渡しは無事に済んだのだった。
◇
数日後。
リリア嬢が旅の支度を終え、いよいよ王都へ戻るその前日のことだった。
いつものように昼食を済ませたあと、セパとレインがステラと一緒に街へ遊びに出かけたので自主練でもしようかと工房で準備をしていたら、リリア嬢が俺の元を訪ねてきた。
「…………」
扉を開くと、彼女はなぜか挙動不審だった。
顔が赤いし目を合わせようともしない。
「どうした? 忘れ物か?」
しかたないのでこちらから声をかける。
工房はきちんと片付けたときに、残置物がないか確認したはずだが。
彼女は玄関口でしばらくもじもじしていたが、やがて口を開いた。
「……ブラッド。……アンタにはずっと世話になりっぱなしだったでしょう? だから、その……帰る前にお礼しなくちゃ、って思ったの」
「お、おう」
その態度で改めてそう言われると、なんだかこっちも気まずい気分になる。
微妙な空気の中、彼女が続ける。
「それで……今日……この後は空いているかしら? 夕食でもご馳走しようと思って。……どうかしら?」