パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第179話 『リリアの誘い』

 リリア嬢とは一度別れて、街の中心部にある広場で待ち合わせることにした。

 

 セパとレインはカミラ邸にお呼ばれしているようで、もちろんその中には俺も含まれていたのだが……急にリリア嬢との会食が入ったという理由で辞退することにした。

 

 彼女との会食は報酬の一部……とのことだから、仕事と言えば仕事の範疇だ。むげに断るわけにもいかない。

 

 まあ、会食が終わればカミラ邸に二人を迎えに行く予定だし何も問題はないだろう。

 

 

「お待たせ、ブラッド。……待たせてしまったかしら?」

 

「いや、今来たところだ」

 

 

 リリア嬢は時間ピッタリに待ち合わせ場所にやってきた。

 

 律儀な奴だ。

 

 一方、俺も待ったとはいえ五分前に到着したばかりだった。

 

 大したことはない。

 

「へえ……アンタ、そういうパリッとした格好も似あうのね」

 

 リリア嬢が、俺の服装を見て意外そうな顔をしている。

 

 今日はそこそこ良い感じのレストランを予約していると聞いていたので、俺も一張羅のスーツを引っ張り出して着込んでいる。

 

 王都にいた頃、たまに貴族の顧客と会食する機会があったので揃えていたやつだ。

 

 しばらくダンジョンに出かけたりして身体を動かす機会が多かったから袖が通るか心配だったが、少々キツいものの不自然ではない程度の着こなしはできていると思う。

 

 ……着替えたあと、ウチの聖剣たちには散々煽られたが。

 

「そういうアンタも気合入ってるじゃないか」

 

 一方リリア嬢も、かなり気合の入った服装だ。

 

 普段の彼女はわりと清楚な装いだったが、今日の着ている服はかなり露出が多い。

 

 いわゆるドレスタイプの服で、身体の線が強調されるようなシルエットで胸元や背中が大きく開いており、タイトなスカートは腰の近くからスリットが入っている。

 

 元々見目麗しい彼女がそんな衣装を着こなせば、当然のごとく目のやり場に困る。

 

 行き交う男どもの目は彼女に釘付けだった。

 

 あ、今カップルの彼女の方がリリア嬢に見惚れていた彼氏の耳を思いっきり引っ張った。

 

 あとで痴話げんかに発展しないことを祈るばかりだ……

 

 

 もっともリリア嬢は、自分の服装をそれほど意識しているわけではないようだ。

 

 その証拠に彼女はフンスと鼻息を荒くして、言った。

 

「当然でしょ。今日予約しているのは、あの『王宮料理人サイクス』の弟子、リーフがやっているお店なのよ? 気合が入るのは当然というものだわ。それにしてもまさか、オルディスで彼女の料理が食べられるなんて夢にも思わなかったわ! もう、いつ予約を入れても満席だったのよ! この町は実力者を引き寄せる何か不思議な力が働いているとしか思えないわ!」

 

「お、おう」

 

 めっちゃ早口だなコイツ……

 

 つーか今日の会食、俺の(ねぎら)いの場だよな?

 

 まあ、美味いモノが食べられるのなら別にいいけどさ……

 

 

 ちなみにリーフ氏のことはよく知らないが、『王宮料理人サイクス』の方は俺も知っている。

 

 王都でも指折りの有名人で、十二で料理の道を志し王都の有名料理店で修業を積んだあと、弱冠二十歳で王宮に召し抱えられた凄腕の料理人だ。

 

 リリア嬢の説明によれば彼の弟子される者は三人いて、そのうちの一人、故郷であるオルディスで飲食店を営んでいるのがリーフ氏とのことだった。

 

 謳い文句(キャッチコピー)は『王都の夜、最高の食卓』。

 

 ここ辺境都市オルディスでも王都の最高級レストランの味を楽しめるとの触れ込みである。

 

「じゃ、そろそろ時間ね。早くいきましょう」

 

「おう」

 

 待ちきれない、と言った様子で、彼女は深く入ったスリットから白い太ももを覗かせながら大股でズンズンと飲食店街へと入っていく。

 

 俺のペースはまったく考えていない。

 

 あと自分の見た目も。

 

 再び思うが、これ、俺の労いのための会食だよな……?

 

 

 

 ◇

 

 

 

 リーフ氏のレストラン『ロイヤルダイニング・リーフ』は飲食店街が並ぶ通りから一本外れた、落ち着いた路地にあった。

 

 店構えは小洒落た雰囲気で、価格帯がそれなりに高めだからか出入りする客の質は悪くない。

 

 見た感じ、羽振りの良さそうな商人や、王都からやってきてこの街に滞在している貴族の子弟などが主な層だろうか。

 

 俺はまだ利用したことがないから楽しみではある。

 

 そんなことを考えつつも、店内に通された。

 

 

「へえ……貴族の屋敷に招かれた賓客、という演出ね」

 

 

 テーブルに着いてもなお、リリア嬢は物珍しそうに周囲を見回している。

 

 こういう落ち着いた雰囲気の中ではマナー的にもよろしくないので注意をしようかと思ったが、やめた。

 

 彼女も職人とはいえ名門の出である以上、マナーを心得ていないわけがないし、他のテーブルの貴族と思しき連中も似たようなものだったからだ。

 

 まあ、店の内装はあくまで演出であって、王族や貴族の食卓ではない。

 

 こういう雰囲気をワイワイ楽しむのも、食事の一環ということだろう。

 

 

「まずは、食前酒でございます」

 

 

 そうこうしていると初老の給仕がやってきて、テーブルのグラスに酒を注いだ。

 

 淡い琥珀色の、見るからに上等な葡萄酒だ。

 

 給仕が何やら銘柄を説明してくれたが、聞き流してしまった。

 

 

 とはいえ、酒の味は分かる。

 

 ものすごく美味い。

 

 

「おいリリア、これ結構お高いやつだよな……? 本当に今日大丈夫なのか……?」

 

「大丈夫って言ってるでしょ! アンタは気にしないで好きなだけ飲み食いしていいわよ!」

 

「おいおいリリア、その言葉……忘れるなよ?」

 

 

 まあ予約していたのはコース料理だったから、バカみたいに飲み食いすることはなかったが。

 

 ちなみに料理はどれも絶品だった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ご馳走様。さすがは王都屈指の料理人のお弟子さんね。お腹が幸せだわ……」

 

 食事を終えたリリア嬢が、恍惚とした様子で余韻を楽しんでいる。

 

 少々酒が入っているせいか、彼女の頬は紅潮し、瞳が潤んでいる。

 

 そんないつもと違った表情の彼女を眺めていると妙に気恥ずかしく感じてしまい、俺は遠くのテーブルに視線を移した。

 

 確かにこの店は当たりだ。

 

 出される料理はどれも美味かったが、それ以上に店の雰囲気や給仕の細やかな気遣いなど、この場にいること自体が心地よく感じられるよう配慮がなされている。

 

 キャッチコピー『最高の食卓』に偽りはなかった。

 

 機会があれば、今度はカミラを連れてきてもいいかもしれない。

 

 さすがにセパやレインには少し早いかもしれないが……

 

 などと考えていると。

 

「……ブラッド。貴方は王都に戻るべきよ」

 

 場にそぐわない、真剣みを帯びた声色だった。

 

 視線を戻す。

 

 リリア嬢はテーブル越しに、俺の顔をしっかりと見据えていた。

 

「貴方はこんな辺境の街に収まりきるような器じゃないわ。一緒に仕事をした今だから、私には分かる」

 

 彼女が続ける。

 

「王都に……私の工房に来なさい。今すぐでなくてもいいわ。準備もあるでしょう。……自分の工房を持っているのに、急にこんなことを言われたら困るのは分かっているわ。……でも」

 

「…………」

 

「待遇で不満を感じさせるようなことは絶対ないと誓うわ。それに……(両親にも紹介しておきたいし……)」

 

 最後の言葉は尻すぼみでよく聞こえ……しっかり聞こえてしまったが、聞こえないふりをした。

 

「……それで、どうかしら?」

 

 おずおずとした様子で、リリア嬢が俺の答えを待っている。

 

「……そうだな」

 

 考えるまでもない申し出だ。

 

「すまない、リリア。申し出はありがたいが、俺はこの街で仕事を続けるつもりだ」

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