パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第18話 『そいつなら先日倒したぞ』

「すまん……許せ……! まさか(あね)さんの命の恩人だとは知らず……!」

 

 さきほど喧嘩をしていた男が土下座していた。

 

 それはもう見事な土下座っぷりである。

 

 どうやらこいつは昨日助けた女冒険者の仲間だったらしい。

 

「まさかあのときの恩人がギースと喧嘩になっているとは……私からもお詫び申し上げる」

 

「すいません、冒険者の方。我々の仲間が大変な失礼を」

 

 黒髪の女冒険者と茶髪そばかすの女冒険が深く頭を下げた。

 

 大男ギースとの喧嘩に割って入ったのは、以前『腐れの呪詛』から助けた冒険者だったようだ。

 

 名前は、黒髪がファルで、茶髪がベティ。

 

 俺の足元で土下座している大男がギースだ。

 

 三人は『暁光の徒』という冒険者パーティーを組んでいて、リーダーはファル。

 

 ちょうど依頼を探そうかというところで、俺と出くわしたらしい。

 

 ちなみに等級はC。結構実力派だったらしい。

 

 今は、二人と軽く自己紹介をしたあとにギースがいきなり土下座をかましたところである。

 

「気にしないでくれ。俺も思いっきり殴っちまったしな。……しかし、あんたも元気になってよかったな」

 

「……気遣い痛み入る、ブラッド殿。この男、ギースは元傭兵でな。少々血の気が多いところがあるが、これでも正義感に溢れる気持ちのいい男なのだ。貴方が新人と知って、それとなく注意をしたかったのだろう。ここは私に免じて、ぜひ許してやってくれないだろうか」

 

「……うっ」

 

 女冒険者……ファルがギースに視線を移す。

 

 とても信頼に満ちた目だった。

 

 きっと長い間、苦楽を共にしてきたのだろう。

 

 ギースは目をそらした。

 

『あの男、絶対わざとですよ! ご主人がチョロそうだと思って絡んできたに決まっています! まあ私は全然平気でしたけどね!』

 

『セパが一番ビビってたじゃん……』

 

 セパが俺の肩に止まりながら鼻を鳴らし、レインがそれにツッコミを入れている。

 

 ……チョロそうな恰好で悪かったな!

 

 とはいえ、事情を知らないギースが絡んでくるのも無理はない。

 

 確かに今の俺の装備は、駆け出し冒険者そのものだ。

 

 着込んでいるのは、当面のつなぎとして近くの店で買った安物の鎧だ。

 

 安物だけにサイズ感も微妙だし、少々鎧に着られている感が否めない。

 

 聖剣は俺の趣味で地味というか武骨なデザインだし、新人では手が出せない価格帯の魔導鞄(マジック・バッグ)にしても、そうと言われなければ分からないデザインである。

 

 しかも聖剣錬成師なんぞをやっていてろくに外に出ない生活を送っていたから、日焼けもしていない。

 

 体型も、どちらかというとやせ型だ。

 

 職人は冒険者ほど身体を動かさないからな。

 

 しかし……今後こういうことがないよう、舐められないような装備を一通り揃えたほうがいいのかもしれない。

 

 別に手持ちがないわけではないからな。

 

 いざとなれば高めの素材を売って資金を捻出することもできるし。

 

「ときにブラッド殿」

 

 真面目な顔で、ファルが話を切り出してきた。

 

「貴方は新人冒険者と見受けるが……仲間はいるのか?」

 

「いや、今はいない」

 

「そうか……!」

 

 ファルの顔が明るくなる。

 

 長い黒髪もあいまって怜悧な顔立ちの彼女だが、笑顔は意外と可愛らしかった。

 

「これから我がパーティーは『第七寺院遺跡』へ向かう予定なのだが……深層に『腐れの呪詛』を使うアンデッドが出没する。そいつを倒すつもりだ。だが、我々には解呪の術式を使える者がいない。どうか、我々とパーティーを組んではくれまいか、ブラッド殿」

 

「そいつなら先日倒したぞ」

 

「……今、なんと?」

 

 ファルの動きが止まった。

 

 ウソですよね? と彼女の視線が語りかけてくる。

 

「『第七寺院遺跡』の深層にいた魔剣持ちのスケルトンだろ? ほら、ここにヤツの魔剣もある。浄化されてただの剣になっているが」

 

 魔導鞄を開き、元魔剣を取り出してみせる。

 

「……これは、まさか」

 

「確かに、あのときスケルトンが持っていたものです。鍔の形に見覚えがあります」

 

 ファルの隣で、ベティが呟く。

 

「おい姐さんよ、コイツのホラじゃねえよな? 俺は別用で同行できなかったから分からんが……出くわしたのは『上位個体』だろ? 駆け出しが敵う相手じゃねえぞ」

 

「いや……間違いない。この剣には私も覚えがある。どうやら間違いないようだ」

 

「マジかよ……」

 

 俺を見る、ギースの目が変わった。

 

 どっちかというとドン引きに近い感じだったが。

 

 しかしあのスケルトン、実はヤバかったらしい。

 

 確かに雰囲気が尋常ではなかったからな。

 

『ご主人ご主人、『上位個体』とはなんですか?』

 

『要するに、普通より強い個体だ。一見同種の魔物と見分けがつかないから、逆に危険なんだよ。それでファルもやられたんだろう』

 

 例によって聞いてきたセパに答えてやる。

 

「しかし、これは困ったな」

 

 ファルが肩を落とし、深くため息を吐いた。

 

「仇とまでは思っていないが、せめて私の手で引導を渡してやろうと思っていたのだが……目的が消えてしまった」

 

「それは悪いことをしたな」

 

「……! こちらこそ、失言だ! 忘れてくれ、ブラッド殿。貴方が退治してくれたのだ、私が気にすることではない。ないのだが……はあ」

 

 ファルが遠い目になってしまった。

 

 たしかに因縁の相手を横取りされてしまったら、こうなるのは無理もない気がする。

 

 事前に知っていれば、獣人少女を回収するにとどめてさっさと退散したのだが……

 

 まあこれも巡り合わせ、というやつだ。仕方がない。

 

 しかし、少々かわいそうな気もしないでもない。

 

 ……そうだ。

 

「ならば、ファル。あんたらで俺の依頼を手伝う気はないか? ちょうど鋼甲蜘蛛の討伐依頼を受けるつもりだったんだよ。あいつら結構すばしっこいからな。一人だけだと面倒だと思っていたところだったんだよ」

 

「鋼甲蜘蛛だと……まて、まさかブラッド殿はたった一人で挑むつもりだったのか?」

 

 御仁……自殺するつもりか? みたいな目で見てくるファル。

 

 確かに普通ならばそうかもしれない。

 

 だが鋼甲蜘蛛は単独行動が多い種だし、習性による反射行動など蟲系魔物特有の弱点が多くある。

 

 それらを把握しているのならば、単独でも討伐可能なのだ。

 

 しかも俺には魔物特効の聖剣レインがいる。

 

 セパは戦闘こそ出番がないものの、索敵方面で頑張ってもらうつもりだ。

 

 レインも戦闘時以外は同様だ。

 

 つまり実質三人パーティーで挑むようなものだ。

 

 正直なところ、ギルドの難易度付けの割と楽な依頼だと思った次第である。

 

 だから、特に何もなければ俺たちだけでダンジョンに向かうつもりだったのだが……助っ人がいるのなら頼むに越したことはない。

 

 そっちの方が楽だしな。

 

「むう……鋼甲蜘蛛か……」

 

 ファルが難しい顔で葛藤している。

 

 が、すぐに顔を上げた。

 

「恩人たっての頼みだ。ぜひ、受けさせていただこう」

 

「おい姐さん!?」

 

「ファル!?」

 

 ギースとベティが慌てているが、ファルの決意は固いようだ。

 

「二人とも、私のわがままに付き合わせてしまってすまない……だが、ここで退くわけにはいかないのだ。それに、我々は強くならなければならない。これは神が与えたもうた試練だ」

 

 いや……たかが鋼甲蜘蛛だぞ……

 

 そんな覚悟キマった目でこっちを見られても困る。

 

 あと試練……じゃなくて依頼を与えたのは神じゃない。俺だ。

 

 

 

 ……ともあれ、俺はファルたちと合同で依頼を受けることとなったのだった。




今日も17時すぎにもう1話更新します!
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