パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第181話 『暑苦しい女』

 ……ここ最近、カミラの束縛が激しい。

 

「おい……素材を買うだけって言ってるだろ」

 

「ふん、知っているさ」

 

 普段、俺は昼食のあと特に用事がなければ商業区にある素材屋街を見て回るのを日課にしている。

 

 午後はたいていセパとレインはカミラ邸でステラと合流しどこかに遊びに行っており、独りでのんびりと素材を物色できるからなのだが……

 

 ここ数日、俺は一人になれていない。

 

 隣にぴったりとくっついたカミラがいるからだ。

 

 ぴったり、というのはかなり控えめな表現だ。

 

 実際にはガッシリと腕を掴まれている。

 

 その様子は、まるで衛兵に確保され詰め所まで連行される犯罪者が(ごと)し。

 

 いったい俺が何をしたというのだ。

 

 もっとも、他所(よそ)から見れば俺たちは仲睦まじいカップルにしか見えないだろう。

 

 そのせいで、通りを行き交う人々の視線が生暖か……もといチクチク痛い。

 

 男も女も『テメェこの野郎なに昼間っからイチャついてんだゴラ』という視線だ。

 

 だが待ってほしい。

 

 これはそういうアレじゃないんだ……!

 

 いや、アレはまあアレで間違いではないけども……!

 

 なぜこんなことになっているかというと……時は数日前にさかのぼる。

 

 

 それは、リリア嬢と『遠雷旅団』の面々が王都へと旅立った翌日のことだった。

 

 久しぶりにのんびりできる時間ができた俺は、昼食後に素材屋街へ繰り出すことにしたのだ。いつものルーティンというやつである。

 

 買い物の準備をし、鼻歌などをうたいながら自宅から出て、最初の角を曲がったところで……カミラとばったり出会った。

 

 彼女は獲物でも見つけたかのような目で『おや、奇遇だねぇ』と白々しいセリフを口にしたあと、俺の腕に自分の腕をガッと絡ませてきたのだ。

 

 ……その後、買い物を済ませ、さらにその後いろいろ(・・・・)あって夕方自宅に戻るまでの間、俺の腕は彼女の腕と身体に挟まれたままだった(いろいろ(・・・・)の間はまあ、離れることもあったが)。

 

 

 たしかにオルディスは、王都に比べればずっとコンパクトな街並みだ。

 

 カミラも、この周辺にある冒険者用魔道具店に品物を卸しているし、偶然……偶然にしてはタイミングが良すぎるが……ともかく、彼女とばったり出会うことは当然あり得る。

 

 問題は、今日がその三日目、連続三回目の偶然だということだ。

 

 おまけに今日のコイツは……どういうわけか、普段着の下にダンジョン探索用の戦闘スーツを着込んでいる。

 

 おかげで腕を振りほどこうにも力が強すぎて離すことができない。

 

 なんで素材屋巡りに戦闘スーツ着用なのこいつは!?

 

 いやまあ、心当たりはある。

 

 昨日は行きつけの素材屋でタイムセールやっており、俺がやってきた時には終了間際だったので、隙を見て彼女の腕を振りほどきダッシュで店に駆け込んだからだ。

 

 とはいえ、これでは身動きが取りづらくて仕方がない。

 

「……なあカミラ、そろそろ腕離してくれないか? このままじゃ歩きにくいんだが」

 

「ふん。この手を離したらまた、気ままにどこかに行ってしまうつもりだろう?」

 

 俺の願いは届かず、彼女はプイとそっぽを向いてしまった。

 

 ガッチリとホールドされた腕への圧力がさらに強まる。

 

 そろそろ腕が痺れてきたんだが……

 

「いや、昨日は悪かったって」

 

 とは言うものの、さすがに俺もそこまでマヌケではない。

 

 当然、察してはいる。

 

 ここ数日の彼女の行動の原因は……先日までオルディスに滞在していた王都随一の聖剣錬成師、リリア・ワーズ嬢だ。

 

 彼女の依頼を受け、俺は聖剣錬成を手伝ったり素材採りに奔走したりと忙しい日々を送っていたのだが……

 

 無事にそのすべての仕事が完了し、彼女が王都への帰路に就くその前日に食事に誘われた。

 

 その時、彼女の工房に来ないかと――王都に戻らないかと誘われたのだ。

 

 もちろん断った。

 

 理由は言うまでもないだろう。

 

 当然、その夜のことはカミラにも伝えている。

 

 それで彼女も納得したものと思っていたのだが……どうやらそんなことはなかったようだ。

 

 いや、どう考えても王都に戻るわけがないだろ……

 

 もちろん用事があれば一時的に向こうへ行くこともあるだろうが、それでも俺の居場所はここオルディスだ。

 

 もちろん自宅兼工房があるから、というもの大きな理由だが、カミラやステラ、それにマリアたちの存在だって大きい。

 

 ただ、それがうまく伝わっているかと言われれば……まあ、このとおりだ。

 

 などと思っていたら。

 

「すまない……ブラッド。やはり、私は暑苦しい女なのかな」

 

 そんな声が隣から聞こえ、俺の腕からフッとカミラの重みが消えた。

 

 見れば、彼女がその場に立ち尽くしながら俯いている。

 

 表情は見えなかったが……どういう顔をしているかの想像はついた。

 

 ……参ったな。

 

 これは相当に重症だ。

 

 あと二、三日くらいなら今の状態に付き合ってやろうと思っていたのだが、これではいつ元通りになるか分かったものではない。

 

「……あのなあ」

 

 行き交う人々が迷惑そうに彼女や俺を避け、通り過ぎてゆく。

 

 それに少々の申し訳なさを感じつつも、しかし俺は彼女の側まで歩み寄った。

 

 服の端を、両手でギュッと握りしめたのが分かった。

 

「これだけは言っておく。俺はどこにも行くつもりはない。……もう工房も立ち上げちまったからな」

 

 そもそもの話、だ。

 

 いくら王都にいられなくなったからと言って、嫌いなヤツが住む街に移住するわけがないだろう。

 

 オルディスでなくても王都聖剣ギルドの権力が及ばない地方都市など王国内にいくらでもあるからな。

 

 ……いやまあ、いろいろあって身の回りに女性が増えたのは自覚している。

 

 だが、俺が見ているのはカミラだけだ。

 

 今の彼女に言葉で何を言っても空々しく聞こえるかもしれないが……

 

 

 一番間違いないのは……まあ、一緒に暮らすこと(・・・・・・・・)かもしれない。

 

 もちろん将来的な話であれば、そうであればいいな、とは思っている。

 

 だが、『一緒に暮らそう』は、軽い言葉ではない。

 

 俺にとっても、おそらく彼女にとっても。

 

 それ以前に、時期尚早だ。

 

 確かにオルディスに来てからいろいろあったし、なんだかんだで良縁に恵まれ、今のところは稼ぎの良い仕事が転がり込んできている。

 

 ただ、それらは基本的に単発の仕事で、将来を確実にするものではない。

 

 それに……俺はこの街で工房を立ち上げたばかりなのだ。

 

 まだまだ、誰かと一緒になることを考えられる時期ではないのだ。

 

 ……などと考えていると。

 

「……ブラッド?」

 

 と、気づくとカミラが俺の顔を覗き込んでいた。

 

 不安そうな顔だ。

 

 しまった。

 

 思考が明後日の方向に飛んでしまっていた。

 

「すまん。いろいろ考えてた」

 

「……私の暑苦しさについてかい?」

 

「その話からはいったん離れようか?」

 

 とはいえ、今の俺には彼女を安心させる言葉が思いつかない。

 

 どう繕っても、所詮言葉は言葉だからだ。

 

 だから最終的には、こういう結論になった。

 

「なあ、カミラ。たまには二人で出かけてみないか? ダンジョンじゃない、普通の旅行に……だ」

 

「…………」

 

 言ってから後悔した。

 

 これ……完全にその場しのぎの、絶対ダメな男が吐くセリフだろ……

 

「ふふ……ふふふ」

 

 と、俯いたままのカミラが不気味な笑い声を漏らした。

 

「おい、カミラ?」

 

「……ふふふ!」

 

 笑みをこぼしたまま、カミラが顔を上げた。

 

 その目には、何か闘志のような、怪しげな炎がメラメラと燃え上がっていた。

 

「……そうかい。ようやく君も覚悟が固まったということだね」

 

 ……んん?

 

 怒られると思ったんだが、なんか予想した流れと違う気がするぞ……

 

 彼女が続ける。

 

「もちろん、二人きりで水入らず、という意味だね? 付き添いはいない、私と君、二人きり。……間違いはないね?」

 

「お、おう」

 

 妙な圧で念を押され、若干引きつつも頷く。

 

 カミラはさらに、俺に顔を近づけて、言った。

 

「いいだろう。ならば、とっておきの場所がある。少々山奥だが……風光明媚で温泉まであるとっておきの場所さ。さすがに今日の明日というわけにはいかないが……店はマリアに任せておけば数日は問題ないだろう。日程は追って知らせるから……ふふ、楽しみにしておきたまえ」

 

 なんだこの勢い。

 

 この女、急にイキイキしだしたぞ。

 

 もしかすると俺は、何か彼女のヤバいものを踏み抜いてしまったのかもしれない……

 

※余談ですが、オルディスも相応の人口が暮らす『都市』なので、仲のよい成人男女が二人きりになれる(お察しください)場所はまあ繁華街などを中心に、それなりにあったりします。

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