パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第182話 『禁域旅行①』

 旅行の日はさすがに今日明日というわけにもいかず、結局カミラの店の都合で七日後となった。

 

 日程は、三泊四日。

 

 オルディスからは少々離れた場所ゆえ魔術師ギルドの転移魔法陣で飛ぶことになるらしいが、日数的にはそこまで長旅というわけではない。

 

 とはいえ、今回はカミラと二人っきりの旅になるのでセパとレインには丸々四日ほど留守番をしてもらうことになる。当然心配しかない。

 

 そこでカミラと話し合った結果、万が一のさいはマリアに二人の面倒を見てもらうようお願いすることになった。

 

 もちろん彼女には十分な謝礼を渡してある。これで安心だ。

 

 余談だが、俺が旅行のことをセパとレインに話したところ、妙に素直な様子で賛成してくれた。

 

 それが逆に不気味ではあったが……いい子にしていれば土産をたくさん持って帰ってやると伝えたのが効いたのだろう。

 

 

 そんなわけで、あっという間に旅行の当日がやってきた。

 

 目的地は、カミラの所属するオルディス魔術師ギルドが管轄する『禁域』の一つ。

 

 とある深山の峡谷のさらに奥、様々な薬効のある温泉が滾々(こんこん)と湧き出る秘境の中の秘境。

 

 ――通称、『極彩峡谷』だ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 もう何度目かになる魔術師ギルドの転移魔法陣にカミラと乗り込むと、一瞬で景色が変わった。

 

 

 ふわり、と濡れた木々と落ち葉の匂いが鼻腔をくすぐる。

 

 その名に違わず極彩色の絶景が、目の前に現れた。

 

 

「おお……これは凄いな」

 

 転移魔法陣は、どうやら高台の東屋(あずまや)に敷設されているようだ。

 

 ここからは、『極彩峡谷』の全容が一望できた。

 

 

 まず目についたのは、切り立った岩壁と鮮やかな紅葉が彩る峻険な山々だ。

 

 それらが蒼く澄み渡った空と見事なコントラストを描いている。

 

 下を見れば所々に霧がかかる深く切れ落ちた峡谷。

 

 その底には、翡翠色の川が滔々と流れている。

 

 そして、そんな目の覚めるような絶景に埋もれるようにして、山の中腹にぽつん、ぽつん、と建物が見てとれた。

 

 

「ブラッド、見えるかい? あそこが今日泊まる宿だよ」

 

「あの煙が出ている場所か」

 

 カミラの指さした方向に目を凝らす。

 

 俺たちのいる東屋から少しばかり下った山の中腹あたり、急な斜面にへばりつくようにして建物が立っている。

 

 貴族の別荘を思わせる、洒落た建築様式の建物だ。

 

 建物の煙突からは、煙がひと筋、立ち上っていた。

 

 薪ストーブを使っているのだろう。

 

 この『極彩峡谷』は標高が高い場所にあるらしく、肌を刺すような寒さだからな。

 

「それにしても風光明媚な場所だ。この寒さもいい。温泉が最高に楽しめる」

 

「だろう? いちおう魔術師ギルドの保養所という名目だが、幹部クラスの人間かその関係者以外は立ち入り禁止だ。ここなら水入らずで過ごせると思ってね」

 

 嬉しそうな様子で、カミラが頷く。

 

「……そりゃ贅沢だ」

 

 しかし……魔術師ギルドは冒険者ギルドと違って羽振りがいいじゃないか。

 

 というか、王都聖剣ギルドですらこの手の保養所は持っていなかったはずだぞ?

 

 まあ、魔術師ギルドは先の大戦での貢献度が大きいうえ、魔術研究に広大な土地が必要だったり魔術師の研究上必要だが流通すると危険な素材の保護管理などの名目で、王国が『禁域』に指定した場所の管理を任されているからな。

 

 身も蓋もない話をすれば、利権というやつだ。

 

 まあ、今俺はその恩恵を思いっきり受けているわけだが……

 

 もっとも、高度な魔術知識がなければ立ち入ることすらできない危険地帯などの封印や管理も行っているわけだし、そのくらいの役得はあって当然ではある。

 

 それに、冒険者ギルドもダンジョンの管理保護を任されているのだからお互い様と言えばお互い様か。

 

 余談だが、カミラの説明によればこの『禁域』は全域が活発な火山地帯で随所に温泉が湧き出るものの、その温泉に混じって地中の魔力が絶えず放出される影響からか、領域内の気候と季節が『快晴の中秋』に固定されているという、非常に特殊な環境だそうだ。

 

 そしてオルディス魔術師ギルドはこの環境を維持するため、『禁域』全体を結界で囲み外界から隔離しているとのことだった(この環境でしか採れない、魔術的に非常に希少なキノコや植物系の素材があるらしい)。

 

 ……そんなことを考えたりカミラと談笑したりしながら山道を歩き、本日からお世話になる宿に到着した。

 

「おお、間近で見ると結構大きいな」

 

 建物自体は、石作りの三階建て。

 

 建築様式とサイズ感からして、『王国貴族の隠れ家的別荘』みたいなコンセプトだろうか。

 

 壁面が少し苔むしているのが、俺的にポイント高し。

 

 その佇まいは、周囲の紅葉した木々や澄んだ空気も相まって非常にいい感じである。

 

「お、あそこで食事もできるのか」

 

 見れば、建物の奥、谷側の斜面には木製のテラスが設置されていた。

 

 椅子やテーブルも置かれているので、あそこが夕食会場らしい。

 

 それにしても、この建物を全部貸し切り? 豪勢だなこりゃ。

 

『お待ちシておりましタ、カミラ様、ブラッド様』

 

「おお、自動人形(オートマータ)か」

 

 建物の扉が開き、出てきたのは女性型の自動人形だ。

 

 もっともマリアのように精巧な人型ではなく、あくまで人形らしいシルエットである。

 

 服は、メイド服だ。

 

 そこはこだわっているらしい。

 

「今日から世話になるよ、シルビア」

 

 カミラが自動人形に向かって言うと、彼女(だと思う)は折り目正しく頭を下げた。

 

『本日より四日間、誠心誠意お世話させテいただきマス』

 

「うむ、よろしく頼む。……さて、ブラッド。チェックインを済ませたら、さっそく温泉に入りに行こうじゃないか。ここから少し山を登った先にあるから、峡谷の全景を見渡せるそうだよ」

 

「そりゃいいな」

 

 自動人形――シルビアに戸惑ったのは一瞬だ。

 

 もとより自動人形は日常的に接している。

 

 彼女の存在も、すぐに気にならなくなった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ブラッドとカミラが東屋を離れてから、半刻ほど後。

 

 パッと転移魔法陣が光り、四つの人影が姿を現した。

 

 女性らしいシルエットが二つと、小柄な少女のシルエットが二つ。

 

「ふふ……ふふふ!」

 

 そのうち、小柄な少女のシルエットの一つがプルプルと肩を震わせ、くぐもった笑みを漏らす。

 

「留守番に、家の管理ですか? ご主人は我々を甘くみています! そんな高等技術、私たちにできるわけがないでしょう! ねえレイン!」

 

「えー? あーしはフツーに炊事洗濯できるけどー?」

 

「黙らっしゃい! とにかく! ご主人だけ旅行なんてズルいじゃありませんか! レインはそう思わないんですか!?」

 

「それはそーかも! ズルい!」

 

「あの……マリアどの、ほんとうに大丈夫なのですか?」

 

「ステラ様、何も問題ありませんよ。我々はご主人様の『関係者』として、この『禁域』を訪れております。きちんとギルド長様の承認を得ておりますし、書面上も問題ありません。ご安心ください」

 

 そう。

 

 四人のシルエットとは、セパ(自動人形化済)とレイン、そしてステラとマリアである。

 

 彼女らはブラッドたちに気づかれないよう、こっそり後を付けていたのだ。

 

 もちろん目的地が『禁域』ゆえ、四人に関する各種届出や申請手続はマリアが適切に済ませてある。

 

 そもそもギルド関連の事務仕事が面倒なカミラは、マリアに今回の手続きをすべて一任していたので、その申請書類の中に追加で四人の参加情報を滑り込ませておくことなど、造作もないことだった。

 

「よいですか、ステラ様。我々は、ご主人様の伴侶となるべき方がご主人様に相応しいお方なのかを、セパ様とレイン様はご主人様がブラッド様にとってふさわしいお方なのかを、それぞれきちんと見極めねばなりません。そのためにも、この旅行は必要不可欠なのです」

 

「わたしたちが宿泊する場所は、カミラどのとブラッドどのの宿泊するお宿とは、峡谷をはさんで反対がわなのですが……」

 

「…………」

 

「あっ! そっそれは……遠見の魔道具!? いけませんマリアどの!」

 

 マリアが無言でスチャッと取り出した筒状の魔道具を見て、ステラが真っ赤な顔になる。

 

「冗談です。そもそも我々の宿泊地からは木々に阻まれ、お二人の宿は見えません」

 

「マリアどのは無表情なので冗談かどうか判断がつかないのです……」

 

「さあ、皆さま。我々の宿泊する温泉付きコテージは、この道を進み橋を渡った先にあります。お二人の邪魔はせず、ゆるりと休暇を楽しもうではありませんか」

 

「ふふ……! マリア様もずいぶんと柔軟な自動人形になったようですね! それはさておき、今回の温泉旅行を企画いただき感謝しかありません!」

 

「マリアちゃんありがとー!」

 

「お褒めにあずかり光栄です」

 

 マリアが完璧な所作でお辞儀をする。

 

 もちろん、彼女はすべての約束を完璧に順守している。

 

 カミラからはステラの保護者を、ブラッドからはセパとレインの面倒を見るように、それぞれ頼まれている。

 

 しかし……二人からは、『オルディスから出るな』とは命じられていない。

 

 むしろ、店を閉めてゆっくり過ごしてよい、と言われているのだ。

 

 つまりステラら三人の面倒をしっかり見ている限り……『禁域』だろうとどこだろうと、足を運ぶのは自由なのである。

 

「それで参りましょうか! 我らが楽園へ……!」

 

「やったー温泉だー! わーい!」

 

「さあ参りましょう、ステラ様」

 

「わ、わーい……なのです!」

 

 彼女たちの騒がしい声は深い森の木々に溶けてゆき、ブラッドたちに聞こえることはない。

 

 

 かくして二人と四人の、それぞれの温泉旅行が幕を開けたのだった。

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