パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第183話 『禁域旅行②』

 宿を管理している自動人形(オートマータ)のシルビアに荷物を預け、温泉に向かう。

 

 紅葉の舞う森の中、整備された山道を登ってゆく。

 

 少々急な道ではあったが、目的地へは五分たらずで到着した。

 

「おお、これまた絶景だな」

 

 温泉は、森が途切れた先にある断崖の(きわ)に設けられていた。

 

 周囲には衝立(ついたて)などは存在せず、申し訳程度に脱衣所らしい囲いが森の切れ目に設けられているだけだ。

 

 いわゆる露天風呂、というやつである。

 

 岩を積んで作られた湯船にはたっぷりと乳白色の湯が張られ、反対側の岩の隙間からは湧き出した湯が絶えず湯船に流れ落ちている。

 

 いわゆる、かけ流し、というスタイルだ。

 

 湯の表面からはもくもくと湯煙が立ち昇っており、その先には『極彩峡谷』の黒々とした深い谷と、その先の紅葉彩る峻険な山々が見渡せた。

 

 太陽はすでに傾きかけている。

 

 空の端は淡く橙に染まりかけており、周囲の木々には陽光が引っかかり地面に黒々と長く伸びた影を落としている。

 

 これを絶景と表現せずになんと言おうか。

 

 まるでこの一帯がすべて黄金色に輝いているような、この世のものとは思えない光景だった。

 

「すごい……実は、この温泉を訪れたのは初めてなのだよ。でも、ここまでとは思わなかった」

 

 隣で、カミラも絶景に見とれている。

 

 確かに気持ちは分かる。

 

 ここを二人きりで利用できるなんて……魔術師ギルド様さまである。

 

 

 普段なら、さぞかしギルドの幹部やその関係者で賑わっているのだろう、と思いきや……意外や意外、連中がこの『極彩峡谷』の保養施設を利用することはほとんどないそうだ。

 

 そもそも魔術師という生き物は魔術の研究に人生を捧げている奴が多く、その中でも幹部にまで成り上がるような連中は余暇という概念をそもそも持ち合わせていないタイプが多いらしい……とはカミラの談だ。

 

 もちろん市井の魔道具師などのように魔術一辺倒ではない連中も多くいるが、そういう連中は魔術研究で実績を上げることは基本的にないので、幹部になることはないそうだ。

 

 というか、幹部なんぞやって自分の商売の時間を圧迫するくらいならば、最初から幹部を目指す、という選択肢が存在しないのだろう。

 

 ひるがえってカミラは、まあ……人より長く生きているので、魔道具師と精霊魔術師とギルドの幹部を兼務できているだけだ。例外中の例外という奴である。

 

 もっとも彼女も、昔は王都の魔術学院で研究に没頭して論文を多数発表した時代もあったらしい。

 

 ……いつのことか、聞くつもりはないが。

 

「さて、さっそく入ろうじゃないか。ここから眺める夕日は格別だそうだよ」

 

「そうだな。と、そうだ」

 

 俺は腰に身に着けていた魔導鞄(マジック・バッグ)を漁り、茶色のボトルを取り出した。

 

「……それは」

 

「火酒だ。必要だろ? もちろん湯に浮かべるトレイとグラスも準備済みだ。ナッツもあるぞ」

 

 さらにそれらのアイテムを取り出し、ニヤリと笑みを浮かべて見せる。

 

 するとカミラも悪い笑顔で口の端を吊り上げた。

 

「ふふ……! なかなか君も分かってるじゃないか……!!」

 

「ああ、それじゃ脱衣所に……カミラ?」

 

 その場でシュルシュルと服を脱ぎだしたカミラを見て、一瞬思考がフリーズする。

 

 彼女の白く滑らかな肩がスルリと姿を現し、次いで胸元の美しい曲線美が俺の視界を占拠する。

 

「……脱がないのかね、ブラッド?」

 

 一方彼女はなんでもないように、どんどんと服を脱いでゆく。

 

 もうすでに腰回りの曲線美が露出している。

 

 さらに目が離せなくなった。

 

 が、どうにか我に返る。

 

「いやいや! いきなりここで脱ぎだすのかよ!」

 

「クク……存外君も初心(うぶ)なところがあるじゃないか。ここは誰もいない『極彩峡谷』だよ? 何を躊躇することがあるんだい?」

 

 カミラはそう言って目を細め、妖艶な笑みを浮かべた。

 

 これは明らかに、俺を誘っ……からかっているな。

 

 まあ、それはいいとして。

 

 

 ……俺はどっちの絶景を見て楽しめばいいんだ。

 

 それが問題だった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ふう……」

 

 すでに陽光は山の端に沈み込み、空は橙と深い(あお)のグラデーションに彩られている。

 

 あたりにはすっかりと夜の気配が満ちており、聞こえてくるのは岩の隙間から流れ落ちる湯の音と、背後の森のさざめきだけだ。

 

「……静かな夜だね」

 

「……だな」

 

 湯煙の中、乳白色の湯に首まで浸かり、俺とカミラは肩を寄せ合っていた。

 

 すでに言葉はいらなかった。

 

 外気温はかなり下がっており、頬に触れる空気は冷たい。

 

 だが身も心も、芯までぽかぽかだった。

 

 もちろん先ほどまで少々熱い時間を過ごしていたことや、身体を洗い湯に浸かり、その後二人でチビチビと火酒を(あお)りつつ長い間まったりしていることも無関係ではなかったが……

 

 それを差し置いても、この温泉は素晴らしいの一言だった。

 

「ふう……最高だな」

 

「ああ、同感だね」

 

 

 それにしても。

 

 到着早々初日からこうも満ち足りた気分を味わってしまうと、さすがに留守番を頼んでいるセパとレインには申し訳なくなってくるな……

 

 つーかあいつら、ちゃんと生活できてるだろうか……

 

 一応、十分な資金や食料を置いてきているし、マリアたちにもいろいろお願いしている。カミラ邸に遊びに行けばステラだっているし、退屈はしないだろう。

 

 うん、そうだな。

 

 アイツらはアイツらで、オルディスで楽しくやっているはずだ。

 

 

 ……まあ、帰りはどこかでたくさん土産(食い物)を買っていってやるか。

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