パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
「……で、ステラはともかく、なんでお前らがここにいるんだ」
急いで魔物と三人を追いかけ、俺とカミラでホーンボアを倒したあと。
目の前で神妙な面持ちで正座する三人に、俺は静かに問いかけた。
少々呆れたようなニュアンスになってしまったのは仕方ないことだろう。
まさか、家で留守番していたと思っていたセパとレインがいたのだから。
ちなみにセパは
森の中で相当はしゃいでいたらしく、いつもは綺麗な銀髪はボサボサで、葉っぱや小枝が絡まっている。
レインも似たようなものだ。
ちなみにステラも義手以外は泥だらけだった。
当然のことながら、なぜこうなっているかを三人に説明してもらう必要があった。
「ステラ、別に怒っているわけではないんだよ。……セパ君とレイン君だけでなく君もいるということは、マリアも一緒にいるのだろう?」
カミラが優しい声でステラに問う。
「……はい、マリアどのは対岸のコテージにおります」
ステラはシュンとした様子で耳を伏せ、そう白状した。
「……まあ、首謀者はなんとなく想像つくが……」
ステラは良い子だ。
率先してウチの聖剣たちを誘うとは思えなかった。
マリアは……案外いい性格をしているので若干怪しいが、それでも自分から言い出すとは考えにくい。
となれば、消去法で自ずと絞り込まれるわけで。
「…………!!」
「…………!!」
俺がセパとレインを見ると、二人がスッと目を逸らした。
「「ごめんなさーーい!!」」
そして二人が同時に土下座をキメた。
それはもう、見事な見事な土下座だった。
「はあ……」
まあそうだと思ってたけどな!
ただ……二人が別行動ででもついて来たかったのならば、せめて事前に相談してほしかった。
いや……それは違うか。
これは、彼女たちなりに俺に気をつかった結果なのだろう。
それにまあ、ここで変に誤魔化したり互いに罪をなすりつけあったりしなかったのは、評価すべき点だ。
いずれにせよ、二人を叱るつもりはない。
とはいえ、カミラたちに迷惑をかけてしまったのは間違いなかった。
「カミラ、すまん! ウチの聖剣たちがステラとマリアを巻き込んじまったみたいだ」
「構わないさ。それに、うちのマリアが協力しなければ、三人が『禁域』にやってくることはできなかったはずだからね……彼女が乗ったのならば、主である私にも責任がある。もっとも皆が加わって賑やかになるなら、それはそれで楽しい旅行になると思うけどね」
「まあ、それはそうかもしれんが……」
俺もこうなった以上、四人と合流するのはやぶさかではない。
食卓などは、やはり大人数で囲んだ方がメシも美味いからな。
「ひとまず、彼女と合流しようか。一応事情も聞いておきたいし、どんなコテージに泊っているか興味もあるからね」
「あの、カミラどの、ブラッドどの」
と、そこにステラがおずおずと会話に割って入ってきた。
「どうした? 別に俺たちは怒ってないぞ。この辺りは魔物も出るから、あまり深くまで入り込むのは感心しないが」
「実はそのことで、お知らせすべきことがありまして……」
「……?」
「……まずは、話を聞こうか」
何やら深刻そうな様子だ。
カミラが先を促す。
「さきほどの魔物に襲われたのは、峡谷の底だったのですが……気になるものをみつけまして。洞窟というか、穴というか……あの、おふたりに見てもらうほうがはやいです」
「「……?」」
俺とカミラは顔を見合わせた。
いつも快活なステラにしては、ずいぶん歯切れの悪い態度だ。
「とにかく、案内してもらおうか」
◇
「これは、洞窟……いやダンジョンか?」
ステラに案内されてやってきたのは、峡谷の底を流れる谷川だった。
両脇は、険しく高い崖がそびえ立っている。
何千、何万年もの間、滔々と流れ続ける谷川の水が岩壁を削り取って、このような急峻な地形が形成されると聞いたことがあるが……その崖の一角が、崩れていたのだ。
そしてその奥には、人一人が通れそうな大きさの穴がぽっかりと口を開けていた。
中を覗いてみれば、少し奥の方に明らかに人工物と思しき通路が見えた。
一瞬、廃坑か何かと思ったのだが、違う。
床部分にはしっかりと石畳が敷き詰められており、壁面にはところどころ彫刻を施した石がはめ込まれていたからだ。
――彼女たちは、谷川の魚を獲るためにこの場所にやってきていたそうだ。
そこで釣りをしていたら、さきほど倒した魔物……ホーンボアが現れた。
おそらく魚の臭いにつられて森から出てきたのだろう。
魔物は三人を見るなり襲いかかってきた。
とはいえ、ステラもセパも、レインも常人よりは身軽な方だ。
ホーンボアの突進攻撃は、楽々と躱すことができた。
だが、ホーンボアは突進の勢いを殺しきれず、谷川の崖に衝突してしまった。
俺たちが見ている穴は、その時に崖が崩れて出現したものだそうだ。
とはいえ、その後三人は穴の中を確認する余裕もなく、魔物から逃げるために森に逃げ込み……俺たちとばったり出会ったというわけらしい。
「……カミラ」
「いや、私は知らないな」
カミラに説明を求めようとしたが、彼女は首を横に振った。
「魔物が開けた穴ということならば、当然魔術師ギルドでも把握していないだろう」
「じゃあ、これは……」
「少なくとも、未発見の遺跡なのは間違いないね。ダンジョン化しているかどうかは、内部に入ってみないとわからないけれども……ステラ、お手柄だよ。もしダンジョンならば、君の名前が付くかもしれないね」
「そ、それは……すごいのです!」
「おおー!」
「それはめでたいですね!」
未踏破ダンジョンが出現したことで、三人のテンションは爆上がりだ。
彼女たちは小躍りしながら互いに手をパンパンと叩きあったりしている。
とはいえ、これはこれで面倒なことになったとも言えなくはない。
王国内のダンジョンは、基本的に冒険者ギルドの管轄になるからだ。
もちろん『禁域』内に存在する以上、魔術師ギルドが権利を主張することになるだろう。
しかし、ここがダンジョンで、なおかつ禁域の外に繋がっている場合は、管轄が曖昧になりかなり面倒なことになる。
「カミラ、調査しておくか?」
「そうだね……見つけてしまった以上は報告する必要があるから、我々で最低限の調査をしておくべきだろうね」
もっとも、未踏破ダンジョンの探索はかなりの危険が伴う。
俺たちは旅行中で装備が不十分だし、そもそもダンジョン攻略の経験が少ないと思われるステラを連れて中に入るわけにもいかなかった。
「とりあえず、戻るか」
「……そうだね。あとでシルビアに伝えて、魔術師ギルドの調査隊を寄越してもらうのが最善だろう」
ということで、ひとまず宿に戻ることにした。