パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした 作:だいたいねむい
「うはぁ……っ! これは……貴族……! 貴族の食卓ですね!」
「ねーねーマスター、これ全部食べていーの!?」
目の前の食材の数々を見て、セパとレインが目を輝かせ歓喜の声を上げた。
広々とした庭に設置された木製のテーブルには、肉や魚、そして山菜やキノコなどの大量の食材が所狭しと並んでいる。
これらはすべて下処理を済ませ鉄串を打ってあるが、生の状態だ。
これらを、焚き木や石積みのかまどで各自炙って食べる。
俗に『冒険者焼き』というスタイルの料理である。
「ほわぁ……! このような豪華なごちそう……みたことがありません……!」
「ステラ様、これらの食材はすべて『禁域』で採れたものばかりだそうですよ」
「すごいです……!」
もちろんセパとレインだけでなく、ステラとマリアも一緒だ。
というか、この場においては俺とカミラが来訪者なわけだが。
ここは、セパたちが宿泊しているコテージだ。
俺たちの宿の方で食事会を催してもよかったのだが、こちらの方が広かったし、いろいろと野外の設備が整っていたからだ。
テーブルやイスもだが、特に庭に大きな石積みのかまどが設置されているのがよかった。
向こうの宿だと、食材をいちいち調理してからテラスに持ってくる必要があったからな。
それに毎日の野外での飲食を想定しているためか、コテージと庭の周囲に強力な魔物除けの
魔物の襲撃を警戒しながらだと、誰かしら見張りに立たなければならないからな。
ちなみにコテージの内部は、先ほどマリアに案内してもらった。
リビングやダイニングだけでなく寝室も広々としていて、大人数で泊まる分にはなかなか楽しそうである。
「それじゃ、どんどん焼いていこうか」
周囲はすっかり暗くなっており、晩秋特有の染み入るような冷気が頬を刺す。
だが、かまどで勢いよく燃える火にあたっていれば、身体は暖かだった。
やはり焚き木はいい。
「はいはい! まずは肉! 肉からです! このジューシーな鹿肉から行きましょうか!」
「あーしは獲ってきた魚が食べたーい!」
「わ、わたしはお肉とキノコのよくばりセットです!」
俺の合図とともに、セパたち三人組がテーブルの食材に殺到する。
「はい、みなさんどうぞ。慌ててはダメですよ?」
自ら給仕役を買って出てくれたマリアが、串を打った食材を三人に手渡してくれる。
「三人ともちゃんと焼いて喰えよー? とくにステラ、生焼けだと腹壊すぞ」
「「「はーい」」」
三人は返事をするもすでに俺たちの方を向いていない。
彼女たちはかまどの上に置いた網でジュウジュウと音を立てる食材に夢中だ。
すぐに肉や魚の焼ける香ばしい香りが周囲に立ち込め、俺の腹もグウグウと食欲を主張しだした。
ふと隣のカミラを見ると、目が合った。
彼女はクスリと笑い、食材の方へと歩き出す。
「さて、私たちも食べようか」
「だな」
食材の山から、俺は川魚を、カミラは山鳥の串を取った。
……川魚は、けさ三人組が獲ってきたやつだったかな。
ウロコやぬめり、それに内臓を取った後は塩を振って串に通しただけのシンプルな味付けだ。
カミラの串は香草をまぶしたモモ肉だ。
こっちは下処理をしたあと塩と香草を塗り込み冷暗所に寝かせ、熟成させたものらしい。
美味そうだから、次はこっちにしようか。
「おっと、俺のも乗っけせさせてくれよ」
かまどの周囲にたむろするセパたちの間を縫って、カンカンに焼けた網に食材を乗せる。
すぐにジュッと魚の皮が焼ける音がして、香ばしい匂いが立ち昇ってきた。
しばし待ち、しっかり皮目が焦げ中に火が入ったのを確認してからかぶりつく。
アツアツでホクホクとした身が舌の上でほぐれ、中から脂と旨味があふれ出す。
「……美味い!」
思わず叫んだ。
味付けは塩だけだというのに、止まらない美味さだ。
これは……次は先ほどカミラが選んでいた山鳥の香草串焼きにしようと思ったが、川魚のおかわりがベストな選択肢かもしれない。
「ふふ……いつもと同じ顔ぶれで、同じように食卓を囲んでいるというのに、ところ変われば新鮮な楽しさがあるものだね」
と、気づけばカミラが隣で串焼きを頬張っていた。
かまどとテーブルをせわしなく行き来しながらワイワイと騒がしくしている三人組や、そんな彼女たちの様子をちゃっかり串焼きを頬張りつつも見守るマリアを眺めながら、そんなことをしみじみと呟いている。
「こういう日々が、いつまでも続けばいいものだね」
「……ああ、そうだな」
同感だ。
やはり、気心の知れた奴らと食卓を囲む時間は楽しい。
……だからこそ。
この時間をずっと続けていくためにも、俺はしっかりと自分の工房を盛り立てて行かなければならない。
そう決意を新たにしながら、皆の様子を眺めていた……そのときだった。
「わ! この子……猫さんですか?」
ステラの驚いたような声が聞こえた。
「迷いネコでしょうか? こんなところにいるものですね!」
「可愛い! 真っ黒なネコちゃん、鹿肉たべるー?」
声のした方を見やれば、彼女たちがしゃがみこみ、小さな黒い毛玉をなでくりまわしている。
猫だ。
しなやかな細い身体に、艶やかな黒い体毛。
金色の目が、かまどの火に照らされキラキラと光っている。
黒猫は、レインの与えた鹿肉をもくもくと
「……おや?」
カミラも彼女たちの様子に気づいたらしく、顔を向ける。
「こんな場所に猫なんているのか?」
「ふむ……おそらく誰かの飼い猫だろう。魔術師は意外と猫好きが多いから、今日から他のコテージに宿泊する連中が連れてきた子かもしれないね」
たしかにカミラの言うとおり、黒猫は毛並みが良いしステラたちを怖がっている様子はない。
かなり人懐っこい様子で、レインが与えた肉を彼女の手から食べているくらいだ。
「こんな場所だし、迷い猫にならないといいがな」
「まあ、大丈夫だろう。もしかしたら、使い魔として主に代わり挨拶をしに来たのかもしれない。魔術師は人見知りも多いからね……いずれにせよ、あの子もしばらく遊んだらきちんと主の元へと帰ることができるはずだよ」
「なら、心配いらないな」
まあ、三人組の遊び相手をしてくれる分には構わない。
「あっ! 今この猫ちゃん、目が光りましたよ! すごいですね!」
「すごー……もう鹿串、十本目じゃん! たくさん食べるねー!」
「ほあ……黒猫さんって、しっぽが二本もあるんですね……! もふもふが二倍です!」
なんか猫らしくない特徴が聞こえてくるが、大丈夫だろうか……
たしか魔術師の使い魔って、動物型の人造精霊と違ってちゃんと動物そのものだったよな……?
「おおー! この猫ちゃん、火も吐けるのですか! やりますねぇ!」
「氷も吐けるみたい! すごー!」
「あっ、おめめが四つになりました……! 赤、青、金、銀……かっこいいです!!」
「…………」
「…………」
俺はカミラと顔を見合わせた。
ここに来てから彼女とよく目が合うおかげで、彼女が何を考えているのか分かった。
つまり、
「「絶対猫じゃないだろ(ではないね)……」」
だ。
「おい、セパ、レイン、ステラ! お前ら一体なんの生き物を構って……うおっ!?」
彼女たちと、彼女たちと遊んでいる黒猫に近づこうとしたとたん。
黒猫が一瞬だけこちらを見た。
うお……本当に目が四つあるぞ……
まさか、魔物――
と思った次の瞬間。
猫の姿が消え、シュン、と俺の横を黒い塊が素早く通り抜けた。
クソ、速い!
猫はたいてい素早いが、それでもこんな閃光みたいな速度で動けるものなのか!?
「おい、待て!」
「ダメだ。もう向こうに消えてしまったよ」
カミラが残念そうな様子で首を振る。
彼女の言った通り、気づいたときには黒猫は夜闇の奥へと消えていた。
「クソ、なんだったんだ……?」
さすがに、いくらこのコテージの周囲が魔物除けの護符で守られていたとはいえ、俺たちで事前にひとつひとつチェックしたわけではない。
もしかしたら、経年劣化などで綻びができており、そこから小さな魔物が入り込んだのだろうか……?
あるいは護符すらものともしない――
いや、そんなはずはないか。
そんな強力な魔物が、キッズ三人組に大人しくモフり倒されていたとは考えにくいからな。
「お前ら、無事か?」
とりあえず三人に声を掛ける。
「あーあ……ご主人が怖い顔で近づくから……」
「ネコちゃんびっくりして逃げちゃった……マスターのせいだし!」
「あ、あの……ブラッドどのは、すてきなお方です! おきになさらず……!」
「まあ……私は好きだよ? 君の怒った顔もね」
トドメに、カミラが同情するような顔でポンと俺の肩を叩いてくる。
「…………」
……なんだこのやるせない気持ちは。