パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第191話 『猫の邪神②』

「ごご、ご主人! この猫ちゃん、邪神だったのですか……!?」

 

「うわっ、めっちゃゴロゴロ言ってる! かわいー!」

 

「たしかに、四つも目がある猫さんはおかしいと思ってました……」

 

「ご主人様、ブラッド様、延泊の申請は完了いたしました。……まさか邪神が『禁域』に封印されているとは思いませんでしたね」

 

 

 あの後すぐ、俺とカミラ、そしてマリアでオルディスに急いで戻り必要な道具の準備や延泊の手続きを終えた。

 

 魔術師ギルドにはまだ詳細を伝えていないが、ひとまず『禁域』内で未踏破ダンジョンを発見したので俺とカミラで事前調査を行う、と説明しておいた。

 

 その後すぐに『禁域』に戻り、滞在している皆を寝室に集め……今は、ざっくりと事の経緯を説明した……というところである。

 

 セパ、レイン、ステラは最初こそ『ケット・シー』が邪神だったことに驚いていたが、すでに一度対面していたうえ、猫の可愛らしい見た目のせいかあまり怖がる様子はなかった。

 

 そして今は三人で、ベッドの上で寛ぐ彼を囲み興味津々な様子で眺めたり、身体を撫でてみたりしている。

 

 マリアは……割と無関心だ。

 

 基本的にはカミラの結界設置の補佐をこなし、時おり俺の手伝いついでに寝室の様子を確認しにきたりしていたが、彼女の関心(というか心配)はどちらかと言うと三人が何かやらかさないか、ということのようだ。

 

 もっとも当の本人(猫)は日中は眠いのか、しばらくは三人の相手をしていたがやがてベッドの上でスヤスヤと眠ってしまい、彼女らの呼びかけに全く反応しなくなってしまった。

 

「お前ら、そいつに構ってもいいが無理矢理起こしたりして怒らせるなよ。ここにいる全員、一生眠れなくなるぞ」

 

 俺はベッドサイドのテーブルで魔法陣や素材を点検しつつ、一応注意をしておく。

 

 まあ基本良い子のステラはともかく、ウチのいたずら盛りの聖剣どもはあらかじめ釘を刺しておかないと何をしでかすか分からんからな。

 

「ヒッ!? 惰眠を貪れない人生など死んだも同然じゃないですか……! 承知しました、ご主人!」

 

「眠れないのはイヤかもー……りょーかい、マスター」

 

「りょ、了解なのです!」

 

 俺が注意したとたん、三人がバッ! とケット・シーから離れた。

 

 いやステラはともかくとして、お前ら二人は別に睡眠とか必要ないだろ……まあこいつら、毎日俺より早く寝て遅く起きる日々を過ごしているわけだが。

 

「ブラッド、居間に結界を張ったよ。そちらの準備はどうだい?」

 

 ……とそのとき、階下で準備をしていたカミラがやってきて、ドアから顔だけをのぞかせた。

 

「こっちも大体終わった。あとは魔法陣を下のテーブルに設置するだけだ。今回は魔法陣の構成と錬成手順が少々複雑になりそうだが、まあ問題ないだろう」

 

「了解。……どうやら邪神様の方は、のんびりとお寛ぎの様子だけど?」

 

 準備で疲れているのか、カミラのケット・シーを見る目は恨めしげだ。

 

 とはいえ、この猫には猫なりの理由がある。

 

「そう言ってやるな。おそらく活動を抑えて消耗を最小限にするためだ。三人と浴び疲れた……だけじゃない。まあ、起きるまで待つしかないな」

 

「……いいだろう。私も、さすがに邪神の魂を扱ったことはないからね。彼が起き出すまでにしっかり予習をしておこう」

 

「了解。まあ、開始は夜になるだろうな」

 

「うむ。……それにしても、予行演習ができればよかったのだけどね」

 

 カミラは少々不安げな様子だ。

 

 まあ、無理もない。

 

 いくら精霊魔術師とはいえ、邪神の魂を扱うことなんてそうそうないだろうからな。

 

「昔狩った奴らの魂を保管していればよかったかもな」

 

「……冗談でもやめたまえよ? 工房に何柱もの邪神の魂が封印されているなんて知れたら大事だよ」

 

「やらねえよ! 俺だって魔術師ギルドの賞金首なんぞになりたくないからな」

 

 まあ、今回のケット・シーについてもかなり危うい気がしなくもないが……どのみち、ある程度の安定化処置は必要だ。

 

 それが終わったあと魔術ギルドに報告したとしても、連中も文句は言わんだろう。

 

 

 ちなみに報酬についてだが……加護は、あまり期待していない。

 

 どちらかと言うと、欲しいのは財宝の方だ。

 

 もちろん金銭もだが、手つかずのレアな古代の素材が手に入ると思えばワクワクが止まらない。

 

 ……実はこの邪神の隠し財宝のうちの一部が、コイツが封印されていたダンジョンの台座にあることを教えてもらっている。

 

 いわゆる『手付』というやつだ。

 

 邪神とはいえ、この手の交渉ごとは心得ているらしい。

 

 午後はそいつを確認しに、ふたたびダンジョンへ出向く予定だ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「なるほど、これが封印の魔法陣か」

 

 ダンジョンに向かい、ケット・シーに教えられたとおり小部屋の台座の裏側を確認する。

 

 するとそこには、硬貨大の小さな魔法陣が刻まれていた。

 

 経年劣化で半ば風化しているが、大丈夫か?

 

 いずれにせよ、記述されているのは未知の古代魔術言語だ。

 

 俺には分からない。

 

「悪いカミラ、コイツを解読できるか?」

 

「どれどれ、私が見てみよう」

 

 ということで、カミラに交代。

 

 古代語にも、いくつか種類があることは俺も知識としては知っている。

 

 まず、現代魔術における魔術言語として使用されているのは、二千年ほど前に滅びたとされる『ノスラ魔導文明』で使用された古代言語だ。

 

 余談だが、この魔導文明は王国や周辺諸国だけでなく、大陸全土を支配していたようだ。

 

 かなりの量のダンジョンがこの文明における建造物で、たしかオルディスのダンジョン群はこの文明の影響を受けたものが多いんだったかな。

 

 そしてさらに古い年代……一万年から八千年前に栄えたとされる『ロイク・ソプ魔導王朝文明』。

 

 こっちの文明に関する遺構や遺跡は大陸だけでなく世界中で発見されているとのことで、ほぼ世界中を支配した文明だと言われている。

 

 いわゆる古代魔術に分類される魔術体系はこっちが多い。

 

 さらにそれ以前の文明については……謎が多く、あまりに古い年代ゆえに遺跡や記録がほとんど残っていないので分からないことが多い。

 

 そもそも『ロイク・ソプ魔導王朝期』よりも古い時代は魔術の概念が存在せず、火と雷などの自然現象のみを利用した『機械文明』が栄えていたとされているが、これもダンジョンから発見された古文書による断片的な記録しか残っておらず、ほとんど未解明だ。

 

 一応、先日訪れた『北方山脈第三工廠遺跡』は『機械文明』時代の遺構とされているが、その後の『ロイク・ソプ魔導王朝文明』により大幅な改修が行われており、ダンジョンとしての分類は、後者の文明期に属するとされている。

 

 個人的には、そもそも魔術もないのにどうやって文明を興し栄えていたのか見当すらつかないが……まあ、魔術に代替する何らかの手段があったのだろう。

 

 ……そして、『機械文明』のさらに数万年前。

 

 今ではもう名前すら忘れ去られた古代文明が各地に存在するのだが……そのうちの一つが、このダンジョンだそうだ。

 

 推定年代は、約五万年前。

 

 まあ、このあたりはカミラの受け売りだけどな。

 

 もっともそういう彼女も、魔導学院だか魔術学院だかで習った知識だそうだが。

 

 それはさておき、台座の魔法陣である。

 

「どうだ、何か分かったか?」

 

「うむ。ケット・シーの説明どおりだね。彼の言っていた手順で開くはずだよ。……つまり、『彼の加護を受けた者が二人以上で魔法陣に触れ、『呪文』を唱える』」

 

「……『ネコと和解せよ』だったけか? 随分とトンチキな呪文だな」

 

「クク……まさか邪神と『和解』とはね。これほど皮肉な呪文もないだろうさ」

 

 よほど呪文が面白かったのか、カミラがクスクスと笑う。

 

「まあ、アイツが邪神とされているのは俺たちの時代だから、だしな。それにあの猫神様の性格ならば、信者でないヤツが信者になることを『和解』と認識しても不思議はないだろうよ。まあ、それを信者に言わせるのか? とは思うが」

 

「ククク……君も言うじゃないか」

 

 カミラはまだ笑っている。

 

「いいからさっさと開けるぞ」

 

「私も邪神の財宝とやらがどんなものなのか気になるよ」

 

 すでに俺とカミラはケット・シーから説明を受けた時に、一時的に『加護』を受けている。

 

 つまりは『日中眠くならないだけの加護』だが、加護は加護だ。

 

 これがなければ、この魔法陣は起動しない……らしい。

 

「同感だ。じゃあ、行くぞ」

 

「うむ!」

 

 俺とカミラはそれぞれ魔法陣に指先を触れ――呪文を口にした。

 

「「――『ネコと和解せよ』」」

 

 次の瞬間。

 

 ズズ、と一瞬台座が震動し……徐々に、その本体がせり上がり始めた。

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