パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第192話 『猫の邪神③』

「「――『ネコと和解せよ』」」

 

 俺とカミラで『呪文』を唱えた、次の瞬間。

 

 ズズ……と台座が震えたと思ったら、台座全体がゆっくりとせり上がり始めた。

 

「……なるほど、面白い仕掛けだね」

 

 その様子を見上げながら、カミラが感心したように頷く。

 

 台座はゆっくりとせり上がってゆき、天辺が天井付近にくっつくほどまで伸びると、ようやくそこで動きを止めた。

 

「これは……取手か?」

 

 台座が伸び上がったことにより露出した柱部分、ちょうどカミラの胸元くらいの高さの場所に、ちょうど手を入れられそうな凹みがあった。

 

 というか、どう見ても引き出しの取手部分だ。

 

 なるほど。

 

 台座の柱の中に財宝が隠してある、というわけか。

 

「……俺がやる。カミラは下がっていてくれ」

 

「うむ。念のため、各種の防護魔術を掛けておこう」

 

「頼む」

 

 一応俺も対呪詛、対状態異常の各種護符を服に仕込んでいるが、万全ではない。

 

 ひとまずカミラに一通りの状態異常耐性、耐爆、耐衝撃等の防護魔術を重ね掛けしてもらう。

 

 ちなみに呪詛系の罠が仕掛けられていたときのためにセパ(とレイン)を連れてきているが、ダンジョンの内部であれこれ触られたり騒がれたりするのが面倒なので、今回は外で待機してもらっている。

 

 万が一カミラの防護魔術を突破された時は、彼女に仕事をしてもらうことになるだろう。

 

 俺が死んでいなければ……だが。

 

「……これでよし。それでは、無事を祈っているよ」

 

 各種防護魔術の付与が終わったカミラが、ダンジョンの外に退避した。

 

 それを確認したあと、改めて台座(まわ)りの罠の有無を慎重に確認していく。

 

 超古代の遺跡とはいえ、人型の生命が建造したものならば罠の配置や種類には一定の法則性があるはずだ。

 

 たとえば手が触れたり足を押したら発動する、特定の行動を取ったら仕掛けが発動する、などなど。

 

 そのセオリーに従い、一通りのチェックを終える。

 

「……特におかしなところはないな」

 

 結果、台座を含め罠らしき仕掛けは見当たらず。

 

 あとは、この引き出しを開けた瞬間に発動するタイプの罠だが……こいつはカミラの防護魔術でどうにかなることを祈るしかない。

 

 未知のダンジョンは、この瞬間が一番緊張するな。

 

「…………」

 

 俺はごくりと唾を飲み込んだあと、ソロソロと台座のへこみ部分に触れた。

 

 特に何も起きない。

 

 それを確認したのち、グッと取手部分に手をかけ、ゆっくりと引いた。

 

 ゴ、と一瞬重みが手にかかり……そして、引き出し状の収納部分が姿を現す。

 

 内部には絹製と思しきクッションが敷き詰められ、その中央にキラリと光る小さな物体が二つ、鎮座していた。

 

「……なんだこれ」

 

 それは指輪だった。

 

 装飾も彫刻もなにもない、ただのシンプルな金属製の()だ。

 

 素材は……おそらく白金(プラチナ)か、それに近い合金だと思われる。

 

 表面には(きず)ひとつなく、つやつやとした光沢がある。

 

 それに、おそらく数万年は経過していると思われるのに錆などは浮いていない。

 

 保存状態が良かったのか、防錆や保存系の魔術付与が施されているのか。

 

 おそらくどちらも、だろう。

 

 いずれにせよ外見からでは分からないな。

 

 そして、『隠し財宝』はそれだけだった。

 

 

 ともかく、カミラを呼ぼう。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……なんだいこれは」

 

 カミラは台座から出てきた指輪を見るなりそう言った。

 

「……俺に聞かれても困る」

 

 とはいえ、気持ちは分かる。

 

 俺もコイツを初めて見た感想はそれだったからな。

 

「これが……これだけが財宝なのかい?」

 

「多分、な。ここにあるのはこの指輪二つだけだったぞ」

 

 指輪はクッションに包まれた状態で、引き出しの中央に収められていた。

 

 他にお宝が入っている様子はない。

 

 盗掘……の可能性を疑わなかったわけではないが、指輪二つだけを残して他を持ち去るというのはおかしな話だ。

 

 おそらく初めから、この指輪だけしかなかったと思われる。

 

 もちろん内部に収まっていたクッションも、特別なものではない。

 

 触れてみたが、ごく普通の絹のようだ。

 

 もちろん保存状態が良好なのは特筆すべき点だ。

 

 ただそれも、タネは割れている。

 

 クッションには、魔法陣らしき刺繍が施されている。

 

 カミラに確認したところ、おそらく保存系の魔術だろうとのことだった。

 

 そもそも魔術を使わなくとも、密閉し加熱し虫食いや腐食を防ぐ、空気を抜く、氷温に保つ……などなど、素材の劣化を防ぐ方法は無数にある。

 

 まあ、数万年保たせる場合はそれらに加え保存魔術の付与が必須になるだろうが……いずれにせよ、現代でも保存しようと思えば十分実行可能なやり方だ。

 

 とはいえ、クッションはともかく指輪の方はそもそもが何万年も前の装飾品だ。

 

 考古学的な価値は相当なものだろう。

 

 それに指輪に付与された魔術の効果によっては、実用的な価値も見い出せるはずだ。

 

「とにかく、取るぞ。アイツの言う通りならば、これは俺たちのものだ」

 

「……う、うむ」

 

 俺は腰の魔導鞄(マジック・バッグ)から厚手の布地を取りだして、それ越しにそっと指輪を摘まみ上げた。

 

 一応、この引き出しに罠が存在しないことは、カミラを呼ぶ前に確認済みだ。

 

 ただ、この指輪に危険な呪詛や魔術効果が込められていないかどうかは、ケット・シーに聞く必要がある。

 

 それまでは直接触れるのは避けておきたい。

 

 もっとも、布が腐食したり溶けたり燃え出したりする様子はないから、おそらく危険はないと思われるが。

 

「ブラッド。この指輪のことだけども……その、何に使われたものだと思うかい?」

 

 指輪を見つめていたカミラが、なぜかそんなことを言いだした。

 

「うーむ……見た感じ、普通の装飾品だとは思うが。正直、戦闘用の魔道具ではないだろう。そうだな……強いて言うなら、祭祀用……か?」

 

「ふむ、そうだろうね! けれども、もっと身近な用途があるのではないかな!?」

 

「……というと?」

 

 なぜか妙なところで食い下がってくる彼女の意図をはかりかね、俺は聞き返した。

 

 というかなぜコイツはそんなテンションが高いんだ。

 

 あと顔が赤い。

 

 羞恥というより、嬉しくて興奮しているような感じだ。

 

 つーか俺に何を言わせたいんだコイツは。

 

「……ん?」

 

 とそこで気づく。

 

 なるほど、そういうことか。

 

「そうだな……これは結婚指輪だ」

 

 確かに指輪は二つ分ある。

 

 男女一組分だ。

 

「ケット・シーは、そういう意図のうえで私たちにこの台座を調べることを勧めたのかな?」

 

「……まさか、そんな訳はないと思うが」

 

 ただ、アイツが(まつ)られていた台座にこの指輪が収納されていたのなら、本人(猫)が知っていた可能性はある。

 

 だが、しかし……

 

 アイツ、そういう縁結びの神だったっけ?

 

 どんなに好意的に評価しても、ただの怠惰の邪神がせいぜいだ。

 

「……とにかく、戻ろう。指輪のことはこの場であれこれ考察するより、アイツに聞いた方が早いだろ」

 

「う、うむ、そうだね!」

 

 その後、ダンジョンを出た後も挙動不審だったカミラが珍しくセパとレインに弄られていたが……それはさておき。

 

 ケット・シーが目覚めたのは、丁度夕食の準備ができた頃だった。

 

 

※聖剣ズのやらかし(前科)については、第115話等をご参照ください。

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